mission6 スニーキングドラゴン
私はエージェントドラゴン。
種族はエンシェントドラゴン。
ゲザー国の偉大なる王、カレーナル=ド=ゲザー陛下に仕える一人のエージェントだ!
………………
エージェントだ!
よし! 今回の任務を説明しよう!
誰に説明している訳でもないが、自分の為の確認だ。
何せ、確認しておかないと忘れるからな!
私も、別に主の胃に負担を掛けたい訳ではないのだ。
今回の任務は、タイラン帝国の軍事施設への潜入。
そして、タイラン帝国が開発している新兵器の破壊だ。
何でも、ドラゴンに対抗する為に、タイラン帝国は強力な魔術兵器を開発しているらしい。
何と言うか……
……要は、私が主に仕えている事がバレたのだ!
まあ、隠してもいなかったしな。
あと、私がエンシェントドラゴンなのもバレているらしい。
これも隠していなかったので仕方ない。
しかし、私がエンシェントドラゴンだと分かった上で対抗しようというのは流石にどうかと思う。
よく言えば根性があるが、悪く言えば馬鹿だ。
人間が作った兵器ごときでどうにかなるなら、エンシェントドラゴンは、とっくに絶滅している。
もし、人間がエンシェントドラゴンをどうにかしようと思うなら、主レベルのゲザリストを育成するしかない。
兵器に頼る発想自体が間違いだ。
土下座こそが最強。
そして、土下座こそが世の真理なのだ。
と、そんな事を考えていたら、問題の軍事施設に着いたな。
見張りが居る。
ちなみに、今回の私は人化の術で人間の姿だ。
出発の前に、主に言われたのだ。
「お願いですから、ドラゴンの姿で行かないでくださいね。大騒ぎになりますから」
言われなければ危なかった。
ドラゴンの姿で突撃するところだった。
どうやら、人間の町にドラゴンが訪ねる事は、あまり無いらしいからな。
攻撃をしなければ、町の上空を飛んでいても気にされないと思っていたのは間違いだった様だ。
さて、それはさておきだ。
問題は、目の前の軍事施設にどうやって潜入するかだ。
建物は、窓はなく、傍目には何の建物かは分からない。
歩哨の目を搔い潜って潜入しないと、中で何を行っているかは見る事ができなさそうだ。
見たところ、歩哨の数はそれなりにいるな。
ふむ、どうするか……
………………
とりあえず、突っ込んで、有無を言わさず歩哨の一人を殴り倒しておいた。
そうしたら、近くにいた他の歩哨が、驚いた様な表情で此方を見ていた。
叫ばれると面倒だ。
そちらも突っ込んで殴り倒す。
さらに、別の歩哨に見つかった。
叫ばれる前に殴り倒す。
別の歩哨に見つかった。
殴っておく。
見つかった。
殴り倒す。
見つかる。
殴る。
………………
……とりあえず、これで大丈夫か?
結局、建物の周りにいた歩哨は、全員、殴り倒してしまった。
百人以上はいたが、数えるのが面倒だったので、正確な数は分からん。
まあ、騒ぎにはならなかったので大丈夫だろう。
さっそく、建物に潜入しよう。
そう思って、適当なドアのノブに手を掛ける。
そして、慎重にドアノブを捻る。
ゆっくりとノブが回って……。
ノブが回って……。
……回らない。
……鍵がかかっていた。
勢いあまって、危なく、ドアノブを捩じ切りそうになった。
まあ、捩じ切らずには済んだ。
捩じ切らずに済んだのは良かったのだが……
……この場合、どうしたら良いのだ?
私が読んだ物語では、エージェントは、華麗に鍵を開けて見せていたな。
しかし、私は、鍵を開ける技術など持っていない。
……いや、大丈夫だ。
エージェントは取り乱さない。
自分の持つ能力を最大限活用して、臨機応変に対応するのだ。
それが、エージェントというものだ。
と、いう訳で……
ドアを腕力に任せて破壊してみた。
良かった。開いた。
……いや、開いたというのか?
ドアが吹き飛んだだけな気もするな?
まあ、結果として中に入れるのだから構わないか。
早速、潜入だ。
そう思って、ドアを潜ると、吹き飛んだドアに巻き込まれたらしい人間が倒れていた。
完全に気を失っている。
………………
なるほど。
ドアを吹き飛ばしての潜入は、ドアの向こう側に見張りが居る場合、有効な制圧手段になるのだな。
今後も多用しよう。
さて、そんな事を思っていたら、通路の先から足音が聞こえてきた。
数は……、十人程か?
隠れる場所は……、無いな。
どうするか?
足音は、すぐそこまで来ている。
面倒だな。
とりあえず、先手を打って、全員、殴り倒しておいた。
声も上げさせなかったし、完璧ではないか?
我ながら惚れ惚れする様な手際の良さだ。
自信がつくな。
下手に隠れたりせずに、全員、殴り倒していくのが正解の気がしてきた。
とりあえず、今後は、その方針で行こう。
方針も決まったところで、先に進もう。
もたもたして、異変に気付かれても困るしな。
新兵器とやらを持って逃げられたら面倒だ。
まずは、魔術で人間の位置を特定しよう。
冷静に考えれば、潜入する前にやっておくべきだったかもしれんが、思い出したのが今なので仕方がない。
今やって遅い事もないので、魔術を発動する。
数は……、それなりにいるな。
全部で、千人程か。
割と大掛かりな軍事施設の様だ。
新兵器の場所も分からないし、どうしたものか……。
人が多い場所に新兵器があるというものでもないだろうしな。
………………
とりあえず、全員、殴り倒しておいた。
時間をかけると、殴り倒した者が見つかる可能性もあったからな。
そうなる前に、この軍事施設にいる者を全員殴り倒しておけば間違いないだろう。
後は、新兵器とやらを探すだけだ。
と、言っても、場所の見当はついている。
やたらと警備が厳しかった場所があったのだ。
この施設の人員を殴り倒す事に専念したので後回しにしたが、あそこに転がっていた物が新兵器の可能性が高い。
なので、その場所に向かおう。
着いた。
かなり大きな部屋だ。
ドラゴンが入っても余裕がある程の大きさだ。
その場には、見慣れない物が色々とある。
新兵器はどれだ?
物品を適当に見て回る。
………………
多分、これだな。
高威力の魔術攻撃が可能なマジックアイテムだ。
威力的には……、中位竜のドラゴンブレス程度の威力は出せるな。
連発は不可能。
一発撃ったら、十分程は冷却が必要だな。
魔力の供給にも問題がある。
事前に魔力を充填した魔石を組み込んだユニットを交換しながら撃つようだが、そのユニットが無駄にデカい。
ユニットの持ち運びが不便だ。
再装填も大変だろう。
どうやって運用するつもりだったんだ?
新兵器自体もデカいから、攻撃目標を変更するのも大変だ。
こんな物を運用しようと思ったら、それこそ、巨人でも部隊に組み込む必要がある。
……まあ、良いか。
私が考える事じゃない。
破壊しておこう。
物質分解魔術を発動して塵にしておけば間違いないだろう。
ついでに、途中で見つけた研究室らしい所も破壊しておけば、再度、製造するのも難しくなるだろう。
設計図の写し等が他の場所にも存在するなら、それは、まあ、どうしようもない。
やるだけやって、後は、主に任せよう。
………………
よし! 破壊完了!
せっかくだ!
主に御土産でも持って帰ろう!
実は、目をつけていた物があるのだ!
軍事施設に似つかわしくない玩具。
かなり凝った作りの物だ。
これを持って帰ろう。
その為に、破壊せずにとっておいたのだからな!
その玩具の前に立つ。
良い作りだ。
おそらく、この施設は、玩具工場に偽装していたのだろう。
持って帰れば、主も喜ぶ事間違いない。
中々に大きくて、見栄えも良いしな。
軽く二十メートルはある人形。
それが、私が目を付けた玩具だ。
何と、乗り込んで、意のままに動かす事が可能なのだ。
金属の装甲に覆われた姿も格好良い。
遊び心の詰まった良い玩具だ。
こんな物が作れるのだから、半端な兵器など作らずに、玩具製造でもしておけば良いものを。
本当に無駄な事をする連中だ。
……まあ、良いか。
ここで言っても無駄だ。
それに、どうせ、偽装用の代物だ。
破壊するのも勿体ない。
そして、御土産にはちょうどいい。
有難く貰って帰ろう。
人形の胸部にある操縦席に乗り込む。
魔術回路を解析し、操縦方法を瞬時に理解する。
どうやら、潤沢に魔力があれば、空も飛べるようだ。
ただ、内蔵されている魔石では、短時間の飛行しかできそうにない。
まあ、そこは、私の魔力を注ぎ込めば解決だ。
最悪、私の魔術で強引に飛ばせば良いしな。
さあ、主!
待っていろ!
任務を完璧に終えた私が、御土産を持って帰るぞ!
軍事施設の屋根を突き破って、人形を飛び立たせる。
そして、主の喜ぶ顔を想像しながら、ゲザー国へ向かって速度を上げた。
帰ったら、主が死んだ目をしていた。
何故だ?
理由が分からなかったので聞いてみたら。
「……その人形を使って、貴女の言う新兵器を運用するつもりだったんだと思いますよ」
と、言われた。
なるほど。
確かに、あの兵器は巨人でもいなければ運用が難しい物だった。
この人形を使えば解決という事か。
流石は主。
その事に即座に気づくとは天才に違いない。
「貴女、タイラン帝国の新兵器を奪い取って来たんですよ……」
………………
なるほど。
そうなるのか。
だが、別に構わないだろう。
「……あと、貴女がやったのは潜入じゃありません」
⁉
何と⁉ そうだったのか⁉
「貴女がやったのは、突入と制圧です」
……似たようなものではないのか?
良く分からん。
「まあ、結果的に、目的は果たしたのだから構わんだろう」
私の言葉に、主が胃を押さえていた。
胃痛か?
どうしたのだろう?
「新兵器の破壊だけも危ないのに、奪取したら、国家間の緊張が高まりますよ……」
主が、泣きそうな声を上げる。
国家運営というのは、面倒な様だ。
「本当に、勘弁してください!」
そう言って、主は、持ち帰った人形の操縦席に乗り込んでいった。
どうしたのだろう?
動かしてみたくなったのだろうか?
そんな事を思っていたら、人形が動き出した。
その動きは、滑らかなものだった。
流石は主。
操縦方法を教えていないのに、完璧な操縦だ。
そして……
「本当に、ご勘弁ください!」
そんな声と共に、人形が完璧な土下座をして見せた。
「う、美しい……!」
思わず、声が漏れる。
人形は、構造上、人間よりも関節の可動範囲が狭いのだ。
それにも関わらず、完璧な土下座だった。
関節の可動範囲の狭さを理解し尽くし、その上で、最適な土下座の態勢を導き出している。
やはり、主は、真のゲザリストだ。
初めて扱う仮初の身体であっても、瞬時に最適な土下座をして見せる。
「……これ、持って帰っても良いだろうか?」
「……どうぞ」
主が、人形の操縦席から飛び降りてくる。
着地の姿勢は当然の様に土下座だった。
人形と主本人。
タイプの違う、二つの主の土下座。
壮観だった。
今日ほど、主に仕えて良かった思った日はない。
「素晴らしい! 素晴らしいぞ!」
喜びのあまり、ちょっと、ドラゴンブレスが漏れた。
そんな私に、主が溜息を吐いている。
だが、そんな事よりも、この素晴らしい人形をどこに飾るかだ。
色々と思いを馳せる。
自分一人で楽しむのも良いが、やはり、多くの者に見てもらう方が良いかもしれない。
その方が、主の素晴らしさが伝わるからな。
とりあえず、色々と試してみよう。
ひとしきり鑑賞した後、人形の態勢を魔術で固定し、空に浮かばせる。
そして、早速、飾る候補地に移動を開始する。
候補地は、十か所以上ある。
急がないと、今日中に回り切れない。
心が湧きたつのが分かった。
そうウッキウキだった。
そんな私を、主は土下座のまま見送ってくれる。
素晴らしい主だ。
嬉しさのあまり、軽く咆哮してしまう。
さあ! 主の土下座に相応しい、最高の場所を探そう!
妥協はできないぞ!
楽しくなってきたな!
後日談がある。
設置した人形を楽しく眺める日々を送っていたら、おかしな話を聞かされた。
奪い取った人形に土下座をさせたのを、タイラン帝国は挑発と受け取ったらしい。
あいつらは、もしかして馬鹿なのか?




