mission5 ネゴシエータードラゴン
私はエージェントドラゴン。
種族はエンシェントドラゴン。
ゲザー国の偉大なる王、カレーナル=ド=ゲザー陛下に仕える一人のエージェントだ!
………………
エージェントだ!
よし! 日課終わり!
今日の任務だ!
気合を入れていくぞ!
何せ、今回の任務は、中々に厄介な任務だからな!
今回の任務は交渉!
面倒なクレーマー二人を遣り込めるのが仕事だ。
その面倒なクレーマー、不死鳥のオジさんと守護竜のオッサンが目の前にいる。
二人の目の前で、主は、既に土下座の態勢だ。
二人の知り合いである私が、舌先三寸で、主の土下座に怯んだ二人を言いくるめる。
完璧な作戦だ。
既に、二人は主の土下座の迫力に呑まれている。
ここは、出会い頭の一発が大切だ!
一気にこちらのペースに持ち込んで見せる!
「でりゃぁぁぁっ!」
「何やってるんですか⁉」
私の気合の雄たけびの直後に、主が叫ぶ。
……何か問題でもあっただろうか?
交渉は最初が肝心だと聞くので、取り合えず、二人を尻尾で薙ぎ払ったのだが?
効果は抜群だぞ?
二人とも見事に吹き飛ばされている。
何の心配もいらない。
「大丈夫だ! このまま、此方のペースに持ち込むぞ!」
「物理的手段に訴えないでください!」
「問題ない! ドラゴンの交渉は、基本的に武力行使だ!」
「ここは人間の国家です! 人間は、まずは言葉で交渉するんですよ!」
何と⁉ そうだったのか!
しかし、今回は、相手にドラゴンが居る。
この場合、どうするのが正解なのだ?
「……一応、言っておくが、ドラゴンも、基本的には言葉で交渉するからな」
守護竜のオッサンが、立ち上がりながら言ってくる。
中々にしぶとい。
ドラゴンブレスあたりで一気にケリをつけるべきだろうか?
「私は、ドランゴンですらないぞ……」
不死鳥のオジさんが、呆れた様な声と共に復活してくる。
流石は不死鳥。面倒この上ない。
しばらく復活できないレベルまで叩き潰すのは心が痛むしな……。
「あの……、今回は、どのような御用向きで……?」
恐る恐る、といった風に、主が口を開く。
どうせ、大した用があるとも思えないのだから、叩きのめしてから話を聞くのでは駄目なのだろうか?
「……そこの娘が、世界樹の葉を毟って行った件だ」
「その件につきましては、我が国の者が、大変、失礼いたしました!」
守護竜のオッサンの言葉に、主が額を地面に擦り付ける。
素晴らしい土下座だ。
全てにおいて計算されつくした角度、音すらも置き去りにする速度。
美しすぎる土下座だ。
兄に勝るとも劣らぬゲザっぷりだった。
だが、それ程の土下座にも関わらず、クレーマー二人が明らかに引いているのが気に食わない。
感激の涙の一つでも流したらどうだ?
「胃薬くらいで、いちいち乗り込んできたのか? 暇なのか?」
とりあえず、守護竜のオッサンに言っておく。
美的センスが壊滅的な上に、自分の物ですらない胃薬ごときで文句をつけに来るとは。
本当に面倒なオッサンだ。
「……文句の一つも言ってやろうと思っていたが、この様子を見ていたら、ゲザー王には同情しか湧かん」
「? 何か、同情する様な事があったのか? 」
本当に、何かあったのか?
この面倒なオッサンが同情する程となると、かなりの面倒事だ。
そんな事があるなら、主が心配だ。
「主よ! 困った事があるなら言ってくれ! 私がどうにかしてやろう!」
主に言っておく。
ハッキリと言っておかないと、奥ゆかしい主は、自分で抱え込む傾向があるからな。
「お前が原因だ!」
守護竜のオッサンが吠える。
喧しいオッサンだ。
それに、私が何をしたというのだ?
主と、毎日楽しく土下座ライフを送っているだけだぞ?
色々とやらかしてはいるが、まあ、それには目を瞑ってほしい。
「……同族がすまん。胃薬が欲しかったら言ってくれ。世界樹の葉以外でも良く効くのがあるから、必要なら届けてやる」
「初めからそう言え」
「お前は黙っていろ!」
本当に喧しい。
だが、これで、クレーマーの一人は片付いたな。
これも、主の人徳がなせる業だろう。
「あの……。不死鳥様は、どの様な御用件で……?」
「いや……、何と言うかな……」
主の言葉に、不死鳥のオジさんが言い淀む。
言い淀むような内容で乗り込んできたのか?
つまらん理由で乗り込んできて、主を困らせているのなら、不死鳥のオジさんと言えども容赦はせんぞ。
「……いや、そこの娘がな、『主に食べてもらう』とか言って、儂の翼をもぎ取って行ったのだ」
?
……ああ、そういえば、そんな事もあったな。
不死鳥のオジさんの場合、すぐに生えてくるから大した問題ではないだろうに、そんな事で乗り込んできたのか?
「ちょっと、待ってください!」
主が、土下座の姿勢を崩さぬままに叫ぶ。
叫ぶ様な事があっただろうか?
「私、食べた記憶はありませんよ! と、言うか、出されても食べませんよ!」
「この間のオムライスの中のチキンライスに使ったぞ」
私の言葉に、主が地面にめり込んでいく。
地中潜航土下座だ。
突然、どうしたのだ?
「待ってください! 入ってたんですか⁉」
「ああ。入れたぞ」
「不死鳥様の血を飲むと不老不死になるって伝承がありますけど、大丈夫ですよね⁉」
そんな伝承があるのか?
それは知らなかった。
「それはデマだな」
「本当ですか⁉」
「量によるが、血を飲んでも、寿命が百年くらい伸びるだけじゃないか?」
「百っ⁉」
何を驚いているのだ?
たかが百年だぞ?
誤差範囲だろう。
「……すまん。儂の肉を食べたのなら、千年程は伸びているはずだ」
「千っ……⁉」
不死鳥のオジさんの言葉に、主が絶句する。
そうか、千年か。
初めて知ったな。
身体に良いだろうくらいの感覚だったから、気にもしていなかった。
しかし、まあ……
「誤差範囲だろ」
守護竜のオッサンや不死鳥のオジさんなど、十万年単位で生きているしな。
「人間は、百年生きたら長寿なんですよ!」
主が叫ぶ。
その叫びを聞いて、流石の私も驚愕した。
「百年も生きないのか⁉」
それは困る。
主の土下座は永遠に残すべき芸術だ。
そう簡単に死なれては、この世界にとって大きな損失だ。
「私は、このまま地中で生きていきます!」
そう叫んで、主が、さらに地中に潜っていく。
とんでもない速さだ。
かろうじて抑え込む。
「流石は主! とんでもない地中潜航土下座だ!」
ドラゴンである私の力を振り切らんばかりの力だ。
「待て! ゲザー王!」
「引きずりだすぞ!」
不死鳥のオジさんと守護竜のオッサンも主を潜らせまいと加勢してくる。
このまま潜られたら、主の土下座を見る事が叶わなくなるからな。
当然の判断だろう。
「見逃してください! うちの国、死ぬまで土下座外交要員として玉座に縛り付けてくるんですよ!」
それは願ったり。
是非とも生涯現役で土下座をしていただきたい。
「適当に引退して、静かに余生を過ごすつもりだったんです! 最後は、子供と孫に囲まれて死ぬつもりだったんです! それも叶わないじゃないですか!」
なるほど。
確かに、千年生きる事になると、人間の場合、子供や孫が先に死ぬ事になってしまうのか。
しかし、それならば、解決策がある。
この方法を教えれば、主も考え直してくれるはずだ。
凄腕ネゴシエーターである私の腕の見せ所だな!
「主! やはり、私と番になろう! 私との子供なら長生きするぞ!」
完璧な解決策だ。
エンシェントドラゴンである私との子供ならば、優に数万年以上は生きるはずだ。
これで、主も変心してくれるはずだ!
………………
主の地中にも潜る力が強くなった。
何故だ?
「おい! 勝手な事を言うな! エンシェントドラゴンが、人間と番うなど、前例がないぞ!」
「創造神様の許可は取ってある!」
「「⁉」」
守護竜のオッサンの言葉に怒鳴り返したら、守護竜のオッサンも、不死鳥のオジさんも驚愕の表情を浮かべる。
何が不思議だというのだ。
主程の存在ならば、許可くらい出るに決まっているだろう。
「本腰を入れるぞ!」
「全力で行こう!」
守護竜のオッサンと不死鳥のオジさんが妙に気合を入れる。
何があったの言うのか?
「ゲザー王! 我々の安寧の為、この娘と結婚してやってくれ!」
「この制御不能娘も、お主のいう事は聞くみたいだからな!」
「私を生贄にしないでください!」
………………
いくら何でも、あんまりではないか?
色々と、やらかしているのは自覚しているが、そこまで言わなくても良いと思う。
……いや、前向きに考えよう!
この二人が、私と主の結婚を後押ししてくれるのだと考えよう!
敵に回すと面倒臭いが、味方にするなら、それなりに役に立つ二人だ!
「引きずり出せん!」
「本当に人間なのか⁉」
その感想はもっともだ。
私も、以前は、人間にこれ程の土下座の使い手が居るとは思っていなかったからな。
「主は、兄と互角の土下座使いだ!」
「お前の兄とか⁉」
「それでは、力づくでは駄目だ! 方法を変えよう!」
不死鳥のオジさんが言うが、他に方法などあるだろうか?
しかし、力づくでは駄目なのは確かだ。
どうしたものか。
「良く聞け! ゲザー王よ!」
不死鳥のオジさんが主に語り掛ける。
かなり必死だった。
「寿命が延びた件に関しては、元に戻せないか、此方で前例を探してみる!」
正直、主の寿命は延ばしたいくらいだが、この際、仕方ない。
このままだと、主は、千年の間、地中で過ごそうとするだろうしな。
「結婚に関しても強制はしない!」
むう。
主程に私の理想を体現した相手はいないのだが……。
しかし、気持ちの問題もある。
ここは仕方ないだろう。
「時間はある! 結論を急ぐ必要はない!」
不死鳥のオジさんの言葉に、主が、ゆっくりと地表に戻ってくる。
どうやら、話し合うつもりになってくれたらしい。
「……本当に、前例を探してくれるんですね?」
「勿論だ」
不死鳥のオジさん言葉に、主の緊張が解けるのが分かった。
ここから、いきなり地中に潜る事は無いだろう。
良かった。
どうにかなった様だ。
「とりあえず、急ぎ帰って、情報を探してみよう」
「……此方でも、どうにかならんか考えてみる」
「お願いします」
そう会話して、不死鳥のオジさんと守護竜のオッサンが空に飛び立つ。
どうやら、言葉通りに帰って情報を探すらしい。
「では行く」
「ゲザー王に迷惑をかけるなよ」
守護竜のオッサンの余計な一言を残して、二人は飛び去って行く。
はた迷惑な連中だったが、主との結婚に関しては味方になってくれそうで何よりだ。
「……ああいう物を食べさせる時は、事前に確認を取ってくださいね?」
「善処する」
主の言葉に頷いておく。
嫌われたら嫌だしな。
「本当に、勘弁してください……」
主が、そう言って、溜息をもらす。
大分、深々とした溜息だった。
流石に悪い事をしたかもしれない。
今後は気を付けよう。
そんな思いを巡らせつつ、私は、飛び去る二人を見送る。
並んで空を行く二人。
その後ろ姿は、既に大分遠くになっていた。
……ちなみに、後で知った話だが、飛び去った二人は、その時、主に、食べたら不老不死になる不死鳥オジさんの心臓を食べさせる方法を話し合っていたらしい。




