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邂逅  作者: 群青 ひら
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第3章 踏界ノ憐憫【トウカイノレンビン】③

「いや、だって、タイトル……」


何を話しているのだろう、と気になったのか、音環もやってきた。


「全人類、ってところがもう……ツボに入って……」


ああ……もう!ここに帰りたい!なんでこの後、弘前に帰らなくちゃいけないんだよ!


「だよな。音環がつけてくれなかったら、世界観壊されるところだったよ。詩はともかく、タイトルだけはイメージを膨らませるような感じでつけていたからな」


大河はそう言うと、ちらり、とすべっタローの方を向いた。すると、視線に気が付いたすべっタローは、やあ、というように手を挙げた。


「何も知らないで。まあ、通常運転だな。すべっタローと言えば、お前が来ないから先週、散々だったんだぞ」


大河はそう言いながら、親指でくぃ、とすべっタローを指した。


「ひどい落ち込みようでさ……そんな調子で逢瀬を歌うもんだから、呪いの歌のようでさ。よっぽど『踏界ノ憐憫』より呪いの歌だったよ」


あははは……再び門亜は笑い出した。


「確かにな。今日も門亜が来るまではロダンの『考えない人』だったし」


大河の言葉に相槌を打つように、音環は言った。


ぶっ!考える人じゃなくて考えない人?それじゃ、まったくの腑抜けじゃん!


それを聞いた門亜は完全に笑いが止まらなくなった。ひぃぃ。勘弁してよ!


「まあ、仕事大変なんだろうけど、気晴らしにでもおいでよ。俺、迎えに行くからさ」


音環の言葉に門亜は笑いながらうん、うん、とうなずいた。……嬉しいけどね。でも危険に巻き込みそうだから、気持ちだけもらっておくよ。


まあ、ベースは弘前に持っていくかな。


今まで大笑いしていた顔から、すん、と乾いた笑みに戻った門亜を見て、大河は言った。


「そうだ、さっきのスラップ、俺たち合わせてもらってないぞ。何の曲がいい?逢瀬か?なんならひまわりの歌でもいいぞ」


ひまわりの歌、と聞いた音環は思わず大河をにらみつけた。スラップで弾いたら、あたり一面ヒガンバナ畑じゃないか!


あはは、と言いながら門亜は「じゃあ、ひまわりの歌かな」と言って立ち上がった。


後で新曲の譜面は印刷しておこう。門亜はタブレットを音環に返した。




「ラーメン食べに行かない?オレ、素敵なラーメン屋さん見つけたんだ!」


音環たちが楽器を片付けていると、すべっタローが言った。……そう言えば、先週もそんなことを言っていたな。ふと、音環は思い出した。


煮干しラーメンのほかに行きつけの店を作ったのか。珍しいな。


すべっタローに店の場所を教えてもらうと、それぞれの車で向かうことになった。


車に機材を積み込むと、音環はエンジンをかけた。助手席には当然のように門亜が乗り込んできた。


「タクシーで来ちゃったからさ、乗せてよ」


音環はうなずいた。


スタジオから、すべっタローが教えた店までは車で20分ほどだった。途中、門亜は助手席の窓から外を眺めたまま、無言でいた。


音環は言った。


「俺のバイク、今度車検から返ってくるんだ。早めに預けちゃったから今は手元にないんだけどさ。良かったら後ろに乗らないか?」


おおっと俺。昔大河から読むように渡された小説の主人公みたいな言葉を言っているぞ。まるで女性を口説いてるみたいじゃないか。


音環は赤面した。門亜はそんな音環の表情に気が付かず、ただ、うん。とだけ返した。


そのまま音環は車を走らせた。


今、どんな仕事をしているのか。本当に研修なのか。音環は気になっていた。


……じゃなければ、あんなに怒りをぶつけないだろう?少なくとも、誰かにラインや通話で怒りを出しているだろう?


言えない気持ちを抱えたままの、丸ごとの自分をぶつけてくるかのような感覚。俺は受け止めるからいいけどさ。でも、ぶつける前に門亜を失うことだけは……俺は嫌だな。


車を駐車場に止めると、門亜はひょい、と助手席から下りた。そして、ベースを車に置いたまま「いこ」と一言言った。


「味噌カレー牛乳ラーメン、ここが一番クルんだよね」


店の前で待っていたすべっタローは言った。大河たちも合流し、5人は店に入った。


自動扉が開くと、広い店内に漂っていた、味噌カレー牛乳ラーメンの匂いがふわりと音環の鼻腔をくすぐった。これも何だか……懐かしいな。


「寒くなると、食べたくなるんだよね。ここに到達するまで3軒回ったよ」


とすべっタローは言った。


確かに、高校の冬に、よく学校帰りに食べたっけな。その店は無くなっちゃったけどさ。


カレーと言い、ミルクと言い、体が温まりそうだ。音環は店内を見回した。


5人は、店の奥の道路が良く見える窓際に座った。ライトをつけた車が、せわしなく行き来をしていた。


生活の息吹があってキレイだな。音環は素直に思った。


読んでくださりありがとうございます。

味噌カレー牛乳ラーメンとは違いますが、青森出身の父親がよく牛乳がゆを作っていました。

隠し味にカレー粉を入れていたので、これが元だったのかなと……思っています。

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