第17章 閑話休題・ROUND2 ② 11月末・門亜の伯父
あいたた……。
伯父は頬の絆創膏を軽く抑えた。そして、県警本部の自分の居室に向かう伯父の足取りは重かった。
あの写真を処分しておかなかったのはまずかった。
呪物だ。
門亜の隣にいる目つきの鋭い人物。あれが呪いの根源なんだろう。門亜を傷つけるものは容赦しない、と言う。
それにしても……頬の絆創膏を見たらまた噂するんだろうな。ハァ、と伯父は大きくため息をついた。
昨晩、スーツをクリーニングに出してほしい、とリビングの椅子にスーツを引っかけた。当然、女房はポケットの中身を確認する。
……なんで、処分してなかったんだ。せめてポケットから出しておけばよかった。
思い返しては自分のうかつさに腹を立てた。
……甥の門亜だと何度も説明したが、分かってくれなかった。門亜だけならいい。まだ説明の余地があった。
問題は「隣の女が裏切ったら許さないという目をしている」と言い出したことだ。
この呪物……こいつは誰だ?門亜に後で聞こうと思うが……。
家を出てこうとするのを引き留めたとき、時計で頬をがりっと引っかかれた。それがあって一旦落ち着いてもらえたが……。
昨日の騒ぎを思い出して、頭も痛くなってきた。
あの写真は呪物だ。居室に着いたらシュレッダーにかけよう。
――居室に着くと暴対の刑事が待っていた。
「ちょっと、時間あります?」
暴対課に来てほしい、とその刑事は言った。伯父は嫌な予感がした。
刑事について伯父が行くと、ガタイのいい刑事が苦虫をつぶしたような顔で待っていた。
「今、押収した彼らの車のナンバー変更申請かけているんですけどね……」
刑事は言った。
「3台と聞いていたのに2台しかない、片方は宮城の住所のままで、こちらのナンバーに変更していなかった。
結構手間なんですよ。委任状で県外のナンバーから変更するのは。あと、1台は探し出しておいてください」
それと……。その刑事は続けた。
「あなたの甥っ子の友人、と言う人。あの人たち一般市民ですよね?
なんなんです?1人は急にがぜんやる気を出して技術を磨き出すし、もう1人の目つきの悪い方は、袈裟懸けにさすまたを押し込んでくるようになったから下手に当たって今でも痛いんですよ」
ほら、と言うように肩のあたりにできた青あざを見せた。
「一般市民が事件に首を突っ込むんじゃない、としごいたつもりでしたが、逆に成長させたなんて笑い話にもなりませんよ。
いいですか?きちんとあの友人たちに言い聞かせてください」
くどくどくど。
暴対課からの苦情を1時間は聞かされる羽目にあった。
居室に戻ると、伯父はさっそくシュレッダーに写真を押し込んだ。
バリバリバリ……シュレッダーに吸い込まれていく写真は最後まで伯父をにらんでいた。一瞬だけ目が合い、背筋がゾク、とした。
そして、出かける準備をしていると、隣の若い刑事が話しかけてきた。
「頬のケガ、大丈夫ですか?」
ああ……こいつに話したら、帰ってくるころには居室全体に知られることになるな。
そう思っていると、伯父の元に別の警察官がやってきた。
「一般の駐車場にある青いスポーツカー、邪魔なんで移動しておいてもらえますか?押収したやつですよね、あれ」
そう言うと、鍵を渡してきた。
最後まで追いかけて来たかりんの同居の男。あれは門亜の友人がさすまたで抑えたあと、その場にいた刑事に移動を頼んでおいたはずだ。
なのに、一般の駐車場においたままなんだ?
わかった、と鍵を預かると、伯父は話しかけてきた若い刑事に言った。
「すまないが、一般駐車場にある青いスポーツカーを移動しておいてもらえないか。押収した車両なんだが、何故か一般の駐車場に置きっぱなしになっているんだ」
そう言って鍵を渡すと、若い刑事はいいですよ、と言って受け取った。
伯父は安心すると、弘前市の門亜が住んでいたアパートへと向かった。
閑話休題 門亜の伯父、災難編です。
ここから音環は伯父に「呪物」と言われ続けることになります。
音環のお仕置きはまだ続きます。




