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邂逅  作者: 群青 ひら
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第15章 シルエット③

「多分さ、かりんちゃんが外に出たときの一瞬を狙って襲ってくると思うんだ。だから、成功にしろ失敗にしろすぐに撤収する。


防犯カメラもあるけど、スマホの写真の方が鮮明だから……すべっタロー、写真係ね。決定」


……と言うことは、門亜の車に向かって停める感じか。スモークだと見えないもんな。まあ、真後ろにつければいいのか。


そんなことを考えていると、鉄道の上を超えたあたりで流れが良くなりだした。ゴールまであと500m。ここからが正念場だ。


――見慣れた建物が近づいてきた。門亜はゴクリ、とつばを飲み込むと言った。


「……かりん。到着したら、走れる?」


ごめんなさい……と、つぶやく声がして、かりんは横に首を振った。


「足が……震えてるの……」


かりんの声が震えていた。門亜はゆっくりと静かに言った。


「わかった。到着したらボクの首につかまって。抱えて走るから」


かりんはうなずいた。


門亜の目の前に、県庁が見えてきた。その先は大きな公園がある。うっそうとした木々が暗闇のようで、ぽっかりと口を開けているようだった。


きっと、そこに車を停めているんだろうな。そしておそらく、ボクの車が見えたら県警本部の駐車場に移動するんだろう。大河、ホントに無理しないで。


じわり。ハンドルを握る手に汗がにじんだ。


県庁の手前で左に曲がると、県警本部の手前で赤信号に止められた。


――どこにいる。


門亜は人影を探した。何人いるのだろう。県警本部に入る細い出入り口がふさがれていなかったのは幸いだった。


青信号に変わる少し前、門亜はそっとかりんのシートベルトを外した。


「いいかい。運転席から君を出す。手間取っていられないからシートベルトを外したよ。 到着までゆられるけど、我慢して」


門亜がシートベルトを外す時、一瞬かりんに触れた。かりんの肩は震えていた。


「大丈夫だ。目を閉じてていい」


信号が変わると、門亜はゆっくり右折した。次の信号の手前に駐車場の出入り口がある。


人影は……見えない。門亜はハイビームにしたが、それでも人影は見えなかった。


一体、どこに潜んでいるのだろう。


一秒も無駄にはできない。出来るだけ建物の近くに寄せたら、抱きかかえて飛び込まないと。


門亜は車を駐車場に滑りこませると建物の入口の前で止めた。そして、かりんをぎゅっと抱き寄せるとその腕を首に回させた。


ドアを開けた。そして、かりんを抱きかかえながら引っ張り出した。すると、複数の足音が門亜に向かうのがはっきり聞こえた。


門亜の心臓が大きく鼓動した、その時だった。


「門亜!走れ!」


門亜の耳に聞きなれた声が聞こえた。大河の声だった。大河は門亜のもとに駆け寄ると、門亜を背にさすまたを構えた。


門亜は大河の後ろを抜け、扉に向かって走り出した。


続いて到着した音環がすでに扉の前でさすまたを構えていた。そして、門亜の目の端に、フラッシュのような光がいくつも入ってきた。


扉を開ける直前、金属がぶつかるような音がした。門亜は振り返らず扉を開いて中に飛び込むと、長い廊下を門亜は走り抜けた。


それ以上は、門亜を追いかける足音は聞こえなかった。


――しばらくして、乾いた金属音をたてていくつかの足音が入ってきた。


「もう大丈夫!追い散らかしたよ!」


音環の声がした。そして、


「写真も結構撮れたしね」


と言うすべっタローの声が続いた。そして


「何であいつはあんなに臭かったんだ?」


大河のつぶやくような声が聞こえた。


……終わった……。


門亜は1つ、深い息を吐いた。




まるで、大きな花束のようだ、と門亜は思った。命が脈打つ、これからを生きていく花。決して、楽な道のりではないけれど……。


門亜は腕の中の重みを手放せなかった。


こうしていられるのも、伯父が来るまでだ。それまでに伝えなくちゃ……。もう、伝えてはいるけど……伝えずにいられない。


門亜は自分に、言い聞かせるように言った。


「ここで……別れなくちゃいけない……」


かりんは門亜にしがみついたまま涙を流していた。そして門亜の肩に顔をうずめたままうなずいた。


「もうすぐ、ボクの伯父が来る。かりん。約束だ。生き延びて」


そう言うと門亜はもう一度、かりんを抱きしめた。


ここで離れたらもう会えなくなる。せめてあと少し。このぬくもりを覚えさせて……。


顔を上げたかりんははっとしたような仕草をした。そして門亜の顔をじっと見た。


「わたし、本当は女の子が好きなのよ……」


そう言うとかりんは自分の唇を門亜の唇に重ねた。


「好き……」


もう一度重ねた。ふわり、と花の香りがした。


今日一日、気づくことのできなかった、ぬくもりだった。


門亜の頬に涙が流れた。かりんの涙か、それとも門亜の涙か。門亜にはわからなかった。


「もう行かなくちゃ」


そう言うとかりんは門亜の腕から降りた。そして涙をふくと、門亜の後ろに向かって、ぺこり、とお辞儀をした。


「お世話になります」


門亜が振り向くと伯父が立っていた。伯父はかりんに近づいた。


「……かりん。医薬品医療機器等法違反で17時30分、逮捕する」


大きな声を張りあげると、伯父は定型文を読むようにかりんに向かって言った。続いて、手錠のチチチ……と言うラチェット音がした。


門亜は目を伏せた。


ガチャリ。金属音が冷たく響いて、腕に手錠がはめられる音がした。


そして少ししてもう一回ガチャリと言う音がした。


……!かりんの小さな声がした。


門亜が目を開けると、伯父の左手に2つ、手錠の輪がかかっていた。伯父さん……。門亜の目から涙が溢れた。


第15章③です。

最後のシーンをかいたとき、伯父さんの経験の差が優しさとなって降り注いだように思いました。

伯父は曲線、門亜は直線。どちらか片方だけでは進むことも絡むこともないのですが、両方があることで救われるものがある、とも思った次第です。

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