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邂逅  作者: 群青 ひら
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第15章 シルエット①

両側にそびえる山が、夕方のわずかな光をさえぎっていた。薄闇は、車のシルエットすらぼやかしていた。


車の形は、ヘッドライトで判断するしかない。


時折、ワンボックス特有のLEDライトが何層にも重ねて伸ばした車が近づいてきたが、さっと通り過ぎて行った。助手席が良く見え、後ろも薄いスモークに門亜はほっとした。


門亜はワンボックスが近づくたびに、薬指を伸ばしてはウィンカーに軽く乗せ、いつでもギアを落とせるよう手をシフトに伸ばした。


その時だった。見慣れないハロゲンライトの車が門亜の後ろについた。


……来たか。


門亜はギアを落とすと加速し始めた。すると、ほぼ同時にライン通話が来た。


「ごめん。スピーカー通話にして」


門亜はかりんに言った。声の主は音環だった。


「今後ろについたよ。あまり飛ばさないで。それと、信号が変わりそうなときは止まって。


後ろに青いスポーツカーもいるんだ。すべっタローが、前に挨拶したやつじゃないかって言ってる」


青いスポーツカー……かりんの同居の男、ってやつか。門亜は、かりんを叩いた男を思い出して一瞬、ハンドルに力が入った。


「そう言えば、ワンボックスどうしたの?」


音環は聞いてきた。


「ああ、畑に嵌めておいた。そうそう……かりんから聞いたんだけどね。どうも青いスポーツカーの男、あの瓶を開けたみたいだよ」


門亜の返事に、ぶっ!2人の噴き出す音がスピーカー越しに聞こえた。


「開けたの?どこでだろ?そう言う言い方をするってことは臭いが付いたってことだよね」


あははは!2人の笑う声が聞こえた。


「なんか、すっごくどぶ臭かったって。思いっきりかぶったんじゃないの?」


門亜の言葉に笑い声はさらに大きくなった。


「いい話聞いたー。車の中だったらもっと最高なのになー。どこで開けました?って聞いてみたいけど、そんな訳にいかないからなー」


あー、おかしい。と、音環の声が続いた。


「あ、なんか後ろの車、俺のこと煽ってる。


ブレーキかけてやりたいけどやめとこ。門亜、もし青いスポーツカーが追い越し車線に入ったら俺もその車の後をつけるから、そうしたら減速して。青の車を蹴散らすから」


音環が言った、その時だった。後ろから猛スピードで車高の低い車が追い越し車線を走ってきた。続いて、音環がその車の後ろについた。


この車だな。ライトがちらり、と車体を照らして青い色を写し出した。


門亜はギアを落として減速をした。エンジンの音が甲高く跳ねる音がした。


音環はハイビームで青い車に迫っていた。青い車は左側に入って減速をしようとしたが、同時に音環の車が左に入ったため減速が出来なかった。


そして、そのままのスピードで走って行った。


そのままにしておいたスマホから、音環の声が聞こえた。


「そのまま進んでいるから後をつけるよ。大丈夫。もう車間開けてるから。もし、左に寄るなり、一旦右左折するようだったら教える。あ、駐車場に入った」


スマホから、カチ、カチ、とウィンカーの音が聞こえた。そして、すべっタロー、頭下げておいて、と話しかける音環の声がした。


何が起きたんだ?門亜はライトの先を見た。しかし、暗闇は音環の車も青い車も隠していた。しばらく走ると、駐車場の入り口をふさぐようにして停まっている音環の車が見えた。


「そのまま行っちゃって。すぐに追いつくから」


緊張したような声だった。門亜はそのまま音環の車でふさいでいる駐車場の前を通り過ぎた。すると、少しして音環の車が追い付いてきた。


「駐車場でUターンして出ようとしたからふさいでいたんだよ。横から突っ込まれなくてよかった。あれ、ハマーのような奴だったら俺、押し出されていたよね」


ハマー最強!音環とすべっタローが声を合わせて言った。何か……2人とも元気だな。


「……音環、元気だね。」


門亜はあまりにもあっけらかんとしている音環に半ば呆れたように言った。それとも、恐怖で壊れてしまったのか。門亜の心は一瞬、ゾッとした。


すると、音環の軽く言う声が聞こえてきた。


「ん-。だって、緊張していると失敗するからね。馬鹿みたいにハイテンションにして、次の一手を考えているんだよ」


……敵わないな。ボクはただ走るだけで精いっぱいだっていうのに。


「あ、街並みが見えてきた。ここまで来たら、もう人目があるから大胆なことはできないだろうね。油断はいけないけどさ。


ただ、県警本部……建屋に入るときとか、その時にありそう」


門亜はふぅ、と深く息を吐いた。そして、県警本部の周りを思い出してみた。


街中ではあるけど……到着するころは隣の県庁の職員も帰ってしまって、がらんとしているだろうな。しかも近くに大きな公園がある。到着まで隠れるのにうってつけだ。


「とりあえず、一旦切るよ。後ろは俺が守るから。県警本部に着く前に連絡する」


音環からの通話が切れた。その瞬間、車の中を静けさが覆った。


かりんはそっと門亜の腕を握った。指先が氷のように冷たかった。


「ごめんなさい……みんなを巻き込んで……」


門亜は左手でかりんの頭をかるく撫でた。


「かりん……。今からぼくが言うことをよく聞いて」


ごくり。門亜はつばを飲み込んだ。


「かりん……ボクは君が好きだ。……だから。だから、なんとしても生き延びて」


かりんは身じろぎせずにいた。うなずくことも首を振ることもなかった。


「ボクが君を何としても生き延びさせる。だから、なんとしても生き延びて」


かりんの目から涙がこぼれた。か細い声で……絞り出すような声で言った。


「なんで……なんで私にここまでしてくれるの……私も共犯者なのよ……」


そのあとは声にならなかった。すすり泣く声だけが門亜の耳に届いた。


門亜は優しく、もう一度かりんの頭を撫でた。そして、力強く言った。


「何としても生き延びて」


かりんはうなずいた。泣きながら、何度もうなずいた。




――門亜の目の前に新幹線の高架が現れた。


この先は、住宅街だ。門亜は肩の力が少しだけ抜けた。そして、ルームミラーでちら、と後ろを見た。


離れず、近づきすぎず、丁度良い距離で音環の車がついて来ていた。


青いスポーツカーも恐らく音環の後ろにいるのだろう……。直接手を出してくることはないだろうけど、事故を起こしたらどさくさに紛れて連れて去られてしまうかもしれない。


慎重に、だ。


門亜の車の前が増えてきた。そして、滞留が始まっていた。


その時、音環から通話が来た。


読んでくださりありがとうございます。

第15章 シルエットです。

この章は4つに分かれます。どうぞよろしくお願いします。

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