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邂逅  作者: 群青 ひら
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第14章 残り香③

そして、監視者はすぐに後悔した。


風船を割った衝撃で、下にあった風船が跳ね上がった。


奥に行きたくても、足元に何層もある風船がすぐに跳ね上がって視界をふさぐ。そして、割った風船のかけらが舞い上がり、それらも視界を奪って行った。


――躍起になって風船を割り続け、奥に進んで行った。何とか隣の部屋にたどり着いたころだった。


「そこまでだ」


何処かで聞いたような声が監視者の耳に届いた。入口を振り向くと中年の男と数人の制服の警察官が立っていた。


「住居不法侵入。器物損壊。この家の人から通報が来ている」


この声は……かりんの部屋で令状を読み上げた奴の声だ。


やられた……俺たちは引き込まれたのか。監視者の男は頭をうなだれた。


その時、唸り声をあげながらナイフを振り上げて突進してくるBを監視者は見た。ところが。ひらり、と中年の男は身をひるがえすと足をだしてBの足を引っかけた。


派手に風船の海に転がり込んだBを制服の警察官は取り押さえ、その手に手錠をかけた。そして、呆然と立ち尽くす監視者に別の警察官は近づいて手錠をかけた。


――伯父は突進してくるBをかわしてひっくり返すと、改めて部屋の中をまじまじと見た。


「風船で足止めって、よく考えたな……誰の発想だ?」


その瞬間、1枚の写真の画像が脳裏をよぎった。門亜と一緒にロリィタの服を着て写っていた目つきの悪い男。そこまで思い至った時、伯父の背筋が凍った。


仕事するか、と思ったとき、伯父のスマホから通知音が鳴った。すべっタローからだった。


「警察署に来て!」


一言だった。


やれやれ。人使いの荒い。かりんの部屋のカギを受け取った後は走りどおしだ。


かりんのアパートの後に門亜のアパート、今度は警察署か。


はぁ。とため息をつくと


「この2人を警察署に連れて行くように」


と指示をした。




「音環さん、大丈夫かしら」


アイマスクを下におろしたかりんは言った。


「大丈夫だよ。音環の車の後部座席にすべっタローが潜んでいて、逐一伯父さんに連絡していたからね。


でも……ま隣にフルスモークの黒いワンボックスが停まった、と聞いたときは心臓が止まるかと思ったよ。すべっタローに気が付かなかったみたいだけど」


それよりも、と門亜は続けた。


「脅かすわけじゃないけど、音環の言った通り、黒のワンボックスがついて来てる。


町中を走っているうちは手を出してこないだろうけど、人気が無くなってきたらアクションがあるだろうから、気を付けて。シートベルトとか……しっかりしがみついていてね」


そう言えば。門亜は気になっていたことを聞いた。


「この車に乗るとき、ニオイ気になっていたみたいだけど……」


やっぱりシュールストレミングのニオイ、残っちゃっているか……音環、すべっタローと一緒に室内から外回りまで高圧洗浄で洗ったって言っていたけど……。


車酔いしないといいけど。門亜が思い至った時、かりんはううん、と言った。


「実は、同居の男が帰って来た時、すっごく臭かった日があったの。これに似たニオイだったんだけど比べ物にならないくらい臭くって。それを思い出しちゃって。


一体何のニオイだったんだろうって」


あー。開けてかぶっちゃったんだ。ぷっ、と門亜は噴き出した。


「多分、開けたのはシュールストレミング」


くすくす笑う門亜に、かりんは怪訝な顔をした。


「シュールストレミング?あの、すっごく臭いってやつ?」


かりんの言葉に門亜はそう、と言い、続けた。


「すべっタローが納屋を片づけていた時にその缶詰が出てきたらしいんだ。それで、中身を捨ててから廃棄しようとして缶切りで開けちゃって、それがこの車にかかっちゃったんだって。


嫌がらせしようと思ってボクの所に持って来たらしいんだけど、丁度、ボクの部屋を監視していたやつがいたから渡した、って言ってたんだ」


そうか……開けたのか。しかも、かぶっていたなんて。


「凄く臭かったのよ。どぶ川に落ちたの?ってくらい。しかも今そんなに臭うどぶ川なんてないじゃない?


だから、どこでそんな臭いをつけてきたのか不思議で不思議で……そう、あれがシュールストレミングだったのね」


門亜は耐えきれず笑い出した。大丈夫だ。僕たちはきっと県警本部までたどり着ける。


音環にもその話したいな……。その時、門亜のスマホが光ってメッセージが浮かんだ。


門亜は指紋をあてると、かりんに読み上げてくれないか、と言った。


「1台ワンボックスをホイホイしたよ。今どこにいる?ですって」


 メッセージは音環からだった。ホイホイ?


「地図を開いて音環に共有してもらっていい?あとホイホイって何?って聞いてもらえる?」


門亜の指示に、かりんは地図を開くと現在地を共有した。そして、LINEを開いてメッセージを送った。


すると、すぐに返事が来た。


「ついてきた車がいたから、門亜の伯父さんに警察署に来てもらったんだ。踏み込んだ奴を逮捕した、って連絡があったからね。


それでも到着までしばらく町中をぐるぐる回っていたんだよ」


踏み込んだ奴を逮捕……陰に潜んでいた2人をしかも逮捕したのか。これで人数が少し減ったな。門亜は思った。音環のメッセージは続いた。


読んでくださりありがとうございます。

本文にある警察署、の言葉に引っかかった方もいらっしゃるかと思います。

あまり実在する名前は書きたくないので濁しました。

ここでは話が通じている、とご理解いただければ幸甚です。

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