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邂逅  作者: 群青 ひら
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第13章 Happy Birthday!③

笑っている門亜に、音環はポンプと風船を渡した。


「はい。門亜も風船作っちゃって。結構、使わない筋肉に来るんだぜ。この作業」


音環は隣の部屋に風船を移しながら言った。そして


「この部屋、風船で封印するから、部屋を出るときに必要なもの、今のうちに台所に置いてきちゃって。


個人情報はすべて持って出てね。あとかりんちゃん、部屋のカギを貸してくれる?」


風船で封印、とはなかなかのパワーワードだ。門亜は立ち上がると、黒のエナメル靴を取り出した。持たせるだけでも、本物っぽく見えるだろう。


風船が隣の部屋を大分埋め尽くしたころ、すべっタローがやってきた。


「おいしそうなピザ屋を見つけたから、ピザも買ってきたよ」


そう言うと、音環にはい、とピザの箱を渡した。そして部屋にあがると、風船で埋め尽くされた隣の部屋を見て


「ちょっと風船多くない?」


と言った。


「いや……門亜の部屋、殺風景だからさ。デコの風船だけだと、色々おかしく見えるんだよ」


と音環は返した。


「すべっタロー、テーブルにケーキとピザ、広げてくれる?そしたらかりんちゃん、それを写真に撮ってインスタに上げて。


おいしそう、とか、文面はかりんちゃんに任せるから」


音環は風船を膨らませる手を止めないで言った。


「そうだ、すべっタロー、紙皿とフォークって買ってきてくれた?」


音環の言葉にすべっタローはあっ、と言う顔をした。


「ごめん。コンビニ行って買ってきて。ついでに紙コップとペットの紅茶も欲しいな。あとで俺も出すから立て替えておいて」


すべっタローは持っていた風船をぽんぽん、とたたくと音環に渡した。そして、少しすると、軽トラのエンジンがかかって駐車場を出る音がした。


「帰ってきたら、不審な車がついて来たり近くにいたりしなかったか聞いておかないとな……」


音環はぼそっと言った。


隣の部屋から風船がこぼれだしそうになるころ、すべっタローから連絡が来た。


「ペットのお茶を箱買いしたから、取りに来てって。俺、行ってくる」


そう言うと、音環は外に出て行った。




同居人の男は、つながらない電話に焦っていた。


ガールズバーが再開した日、言うことを聞かないかりんを叩いた。そして、モーア、と言う女も叩いてしまった。


その後、しばらく隣の店で顔を冷やしていたらしいが、店に戻ってきた。ただ、この日の俺の扱いは散々だった。


においがする、店の隅にいろ、と言われた。そして客は俺を避けて寄り付かない。


変な瓶を開けた日、シャワーを浴びて、服を取り替えたら何とか臭いは落ち着いた。ただ、車に乗るだけで臭いが付くんだ。


加えて、アパートの1階でクスリ騒ぎだ。職質なんてされたら面倒だから部屋に入らなかったが、かりんも帰ってこなかった。


出来ればリキッドと連絡アドレスを入れたQRの紙を取りに行かせたかったんだが、連絡が通じない。


そして、監視人の男から「どうした」と通知が来た。


同居人の男は深くため息をついた。かりんが逃げたなら……俺も消される……。


たった4文字が男の心臓の奥深くをまるでくさびが打ち付けたかのように鈍く刺さっていた。


その時だった。かりんのインスタの更新の通知が来た。男は慌ててインスタを開いた。

かりんのインスタには、風船に囲まれたニット服の女性が写っていた。


これは、モーアだ。前にかりんとデートした時の服装と同じだ。そして男はキャプションを見た。


ハッシュタグでバースデイ、とあった。そしてコメントには


『モーアちゃんの誕生日なので、準備をしています。お兄ちゃんも来て、パーティ!』


と書かれていた。


くそ!のんきな!お前が連絡を絶ったせいで俺の寿命が縮んだんだぞ。


同居人の男はネットカフェを出て門亜のアパートに向かおうとした。するとその時、監視人の男からメッセージが入った。


『かりんを迎えに行け。ただし、奴らの部屋のパーティが終わってからだ』


とあった。同居人の男は


『分かりましたが、今ではだめですか?手持ちのリキッドが尽き欠けているんです』


と返事をした。少し前、注文があった。今あるものを発送すると、手持ちがほとんど無くなる。次の注文に応えられなくなる。


売り上げが上がらなくなれば、それだけでペナルティだ。


しばらくして、監視人から返事が来た。


『あの部屋にはモーアのほかに兄が2人来ているだろう。騒ぎを起こさないでかりんを迎えに行けるか?お前、この前はモーアを叩いただろう。兄に騒がれるぞ』


見られていた。或いは誰かの目を通じて監視されていた。同居人の男は身震いをした。


『昼前にパーティをするんだから昼過ぎには終わるだろう。モーアも仕事があるんじゃないか?その辺りで迎えに行けばいいだろう』


これは指示ではなく命令だ。同居人の男はうなだれた。


『とりあえず、少し離れた場所で待機しろ。そして、インスタの動きを見て迎えに行け』


監視人からのメッセージが止まった。同居人の男はネットカフェを出ると、コンビニでリキッドを発送した。




「すべっタロー、フォーク買い忘れちゃったんだって」


2Lのペットボトルが詰まった箱を持ち込みながら、音環は言った。そして


「軽トラの後ろにあと2箱あるんだもん。歩いて買いに行ってもらったよ」


と言った。門亜はボクも取りに行く?と聞いたが、音環は風船を膨らませて待ってて、と言って駐車場に戻って行った。


2箱目を持って上がると音環は思い出したように言った。


「紙皿が来たから、ケーキ切り分けよう!かりんちゃん、門亜にケーキを持たせるからまたインスタに上げてもらっていい?


あと『紙皿到着』とか『忘れたおちゃめなお兄ちゃん』とか入れてもらえると、助かるな。更新が遅れているから」


そう言って音環はケーキを8等分に切り分けると、そのうちの一切れを門亜に持たせた。そして、インスタの更新をかりんに任せると、ケーキとピザを持って外に出た。


ふぅ。緊張する。音環は空を見上げた。


軽トラで帰ってきたとき、誰もついてこなかったし、周りに誰もいなかった、とすべっタローは言っていた。


ただ、もう、インスタを更新した後だ。かりんちゃんの同居人の男かその仲間が近くにいておかしくない。


見張るとしたら、駐車場が見える、この通りからか……。


音環は少し前にお茶を取りに行った時に見まわしたが、もう一度辺りを見回した。


その時、音環の車の隣に、一台の軽トラが止まった。運転席の窓が開くと、


「バッテリーが上がったって言っていたのお宅?」


と作業着を着た男が声をかけてきた。


読んでくださりありがとうございます。

すべっタロー、相変わらずおっちょこちょいのようですが……。

実は重要な役割を果たしています。

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