第13章 Happy Birthday!①
女性キャストが出ていくと、部屋の中は途端にシン、となった。門亜はかりんに声をかけた。
「何か食べる?」
かりんは首を横に振った。
「ごめん。ちょっとシャワー浴びて、着替えようと思うんだけど……このまま、ここにいてくれる?」
門亜はかりんの目をじっと見て言った。
すると、かりんは小さくうなずいた。そして、かりんは門亜の首筋に手をのばすと、そのまま首周りをさすった。
「ホントに男の子なんだね……」
かりんのその言葉に門亜は申し訳なく思った。
「ごめん。言えなくて」
首筋をさすっていたかりんは首を横に振った。
「ううん。ありがとう」
そう言うと、首筋から手を離した。
――門亜はシャワーを簡単に済ませると、ドライヤーもかけずにかりんの元に戻ってきた。かりんは、うとうとと門亜のベッドの上で眠っていたが門亜の足音に目を覚ました。
かりんは黙って手を伸ばした。
「明日、かりん、君をボクの伯父の所に連れていく。伯父が君を守ってくれる。安全なところに逃がしてくれるんだ。
あなたが持っている情報をすべて話すことが条件だけど……」
そう言いながら門亜はかりんの手を握った。
「決して、あきらめないで。何としても守るから……」
ほっとしたからか。門亜は急に睡魔に襲われた。
「ごめん。少し眠らせて。お願いだ。どこにも行かないで……」
かりんは少し体をずらすと、門亜に抱きついた。かりんのぬくもりに、門亜はそのまま眠りに落ちて行った。
夜の闇が、徐々に門亜の体を冷やして行った。かりんはそっとベッドを降りると、門亜の隣に座った。そして、掛布団を門亜にかけると自分も寄りかかって端を自分に寄せた。
温かい……かりんは自分のものではない体温が、自分の命の息吹となって温めてくれるのを感じていた。
門亜の深い呼吸の音を聞きながら、かりんは目を閉じた。
――しばらくして、門亜は目を覚ました。時計は12時を少し回っていた。
自分にかけられている布団を見て門亜は慌てた。
かりんは?
その時、自分の左腕にかかる僅かな重みに気が付いた。
ここで眠っていたのか。悪いことをしたな。
門亜はかりんを起こさないようにそっと抱き上げるとベッドに横たわらせた。そして布団をかけるとまた手をつないだ。
もう少し寝よう。門亜はベッドに寄りかかりながら軽く頭を乗せて目を閉じた。
その頃。1階の男の部屋の前に立つ警察官が1人になったのを見て、監視者の男は自分の部屋に戻った。
男は心の中で毒づいた。
この時期に覚せい剤を宅配で買うか。我慢できなかったのか。
まさか、宅配が追われていたとはな。おかげで、盗聴器を録音にして外に出なくてはいけなくなった。
薬物タバコでは顔は見られていないが、別件では何度か顔を見られている。警察官の目に触れるのは避けたい。
おかげで一晩、ネットカフェで寝泊まりする羽目に遭った。
男は、かりんが帰ってこなかったことが気になっていた。
同じアパートの一室で警察官がいたら、まあ、素人だ。避けたくなるだろうし、怪しまれないためにも帰ってこないのは分かる。
ただ、翌日店に来なかった。同居人の男にも聞いたが、何の連絡もないと言う。
メッセージを送ったが、返信がないと言っていた。
モーア、と言う女の家に泊まったのか誰かに聞きに行かせようと思ったら、隣の店はガス漏れ騒ぎで臨時閉店をしていた。
……タイミングが良すぎる。ただ、ガス漏れ騒ぎはモーア1人で出来ることじゃないだろう。
モーアの盗聴器が電池切れを起こしたのは痛かった。チャイムから電源を取っていたが、そんなに配線が古かったか……。電池が切れる前、怪しむような会話はなかった。
直前まで、兄、とか言うやつが店で着る服を持ってきた、と言うような会話をしていたな。まったく。ブラコンか。
ただ、かりんの部屋に警察の捜索が入らなかったということは、警察署に逃げ込んだとは考えにくい。
そして、近くで自殺騒ぎもなかった。と言うことはモーアの部屋にいると考えたほうがいいな……もし匿っているなら、力づくで取り戻すだけだ。
裏切者には相応の罰を与えなくてはならない。
明日、同居人の男を行かせるか。恋人を連れ戻しに来た、と言えばまだ穏便に済ませられるだろう。
これ以上、警察に近くをウロウロされると、薬物タバコそのものがばれる恐れがある。
男はいつものように机の前の椅子に座ると、スピーカーに手を伸ばした。そして、スピーカーの脇の録音のスイッチを切ると、イヤホンを差して再生ボタンを押した。
男の耳に、家宅捜索の音が流れて来た。
ブルーグレーの光がカーテンの隙間から入り込んできた。そしてその光は徐々に門亜の意識を眠りから覚ましていった。
……かりんは?
門亜はベッドの上を見た。かりんは落ち着いた様子で眠っていた。規則正しく上下する肩を見て、門亜はほっとした。
時計は6時を指していた。
あと数時間後には、音環もすべっタローも来る。そうしたら……本番だ。
その時、門亜はスマホにメッセージが届いていることに気が付いた。画面を開くと、それは音環からだった。
『9時くらいに着くようにするよ。門亜は簡単に脱ぎ着が出来る女子服を着ておいて。メイクはいらない。と言うよりしないで。
あと、かりんちゃんにも門亜の服を着てもらうから、サイズの合うものを選んでおいて。外を歩くときにずり落ちなければいいから』
かりんがボクの服を着るのは分かった。でもなんでボクも?音環の指示に、見当がつかなかった。ただ、信じて従うしかないや。
門亜は、ハンガーラックへ行くと、服を選びだした。
ボクはニットとスカートが音環の言った条件になりそうだけど、かりんは……細いし、ロリィタか?黒なら、ごまかせそうだ。
門亜は服を選ぶと、すぐに着られるようにそっとよけておいた。そして、台所に行くと、トーストを焼き、コーヒーを沸かした。
目玉焼きも焼くか……。門亜はコンロの火をつけた。そして、フライパンにリズムよく卵を落としていくと、少し水を足して蓋をした。
読んでくださりありがとうございます。
第13章 Happy Birthday!は長いエピソードが4つ続きます。
Happy Birthday!……作戦と、新しく生まれる彼らの人生と……。
完結はまだ先ですが祝福せずにいられません。




