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邂逅  作者: 群青 ひら
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第11章 木枯らし②

……なんてことだ。まさか、ボクたちが追っていたのがかりんだったなんて。


門亜はかりんを見つめていたが、やがてテーブルに目線を落とした。


「言わないで……お願い。私のことは私でケリをつけるから……」


かりんは顔を上げると門亜をじっと見た。これ以上関わらないで、と言っているかのようだった。


いつの間にか、紅茶が冷めていた。かりんは一度に飲み干すと立ち上がった。


「……送るよ。行こうか」


 男性キャストが静かに立ち上がった。そして、かりんは小さくうなずいた。


取り残された門亜は、伯父に連絡を取ることもできずにかりんの後ろ姿を見つめていた。




自分のことは自分でケリをつける、とはどういうことだろうか。


グループを抜ける、なんて簡単なことではないはずだ。ましてや主犯ではない共犯の立場なら。


門亜は店に出ると、カウンターの内側から時折隣の店に目線を向けた。


門亜の耳の奥には「共犯者なのよ」と言う声と「私のことは私でケリをつける」と言うかりんの声が交互に聞こえていた。


「モーアちゃん、カンパリオレンジ飲みたいな。作ってくれる?」


目の前に座っていた客が門亜に声をかけた。門亜は慌てて客に笑顔を向けると、内側の棚からカンパリを取り出した。


グラスいっぱいに氷を入れると、ジガーで量ったカンパリを注ぎ込んだ。そしてオレンジジュースを注ぎ入れてかき混ぜると、上にオレンジを飾った。


男性キャストがやると優雅なのに……ボクが作るとなんで機械的なんだろう。


ギクシャク、とした手つきで作る門亜に


「ありがとう。俺、モーアちゃんの手つき見るのが好きなんだよね」


と声をかけた。いいけどさ……。余計なこと考えないで済むし……伯父さんに連絡していない罪悪感も薄れるし……。


門亜は心の声が聞こえないように、ふっ、と笑ってカンパリオレンジを渡した。


――隣の店が再開したからか、門亜のいる店も、いつも以上に忙しかった。気が付くと、あと少しで閉店、と言う時間になった。


「モーアちゃん、ちょっと」


隣にいた男性キャストが門亜に耳打ちをした。


「今日、隣のお店の電気が消えたら上がっていいよ。かりんちゃん、多分動くと思う」


ぼそぼそ、と低い声で言った。門亜は周りを見回して、


「動く?」


と聞き返した。お店を出た、その足で警察に行くのだろうか。


「ああ。警察か……だといいんだけどね」


やっぱり警察か……。門亜の心は急に冷えたような気がした。男性キャストは続けた。


「守ってくれないだろうね。モーアちゃん。伝手ないの?」


守ってくれないだろうね、の言葉に門亜の顔がこわばった。


守ってくれない、とは?


ふいに門亜の心に、伯父の言葉がよみがえってきた。


『誰がつながっているのかわからないから、同じ警察官でも秘密だ』


まさか……そういうこと?


門亜が言葉を返せないでいると、男性キャストは


「とりあえず、かりんちゃんを守ってよ。話はそれから」


と言って門亜の肩をたたいた。


――ガールズバーの電気が消えた。


もう少ししてから出るだろうから、と門亜が片づけをしていると、男性キャストに追い出されるように裏口に出された。


門亜はゴミ箱の近くで身をひそめるようにしてかりんが出てくるのを待った。


それにしても……男性キャストは何者なんだ?かりんの告白を聞いても動じない。むしろ、今、ボクに守れと言っている。そして、色々と……詳しい。


彼も潜入捜査官なのか?


弘前の、凍った空気が門亜の鼻をくすぐった。くしゃみが出る、すんでのところで押さえることに成功した。


電気が消えてから……ずいぶん経ったな。


急に門亜の心臓はドクリ、と派手な音を立てた。……もしかして、もう店を出てしまったのか?


そんな考えが脳裏をよぎった時、急に鼓動が早くなった。もっと早く外に出ればよかった!


もし、正面から出たなら”彼”が教えてくれるだろうから……。まだ出ていないなら、こっちからなんだろうけど……。


門亜はガールズバーの裏口の扉を見上げた。誰も出てこない、その静まりにざわつきを感じた。


扉が開くまでの一秒、一秒がやけに長く感じた。


心の中のざらつきが、のどまで手を伸ばしたとき……裏口の扉が開いてかりんが出てきた。そして、階段を駆け下りる軽い音が響いた。


間に合った!門亜はゆっくりと立ち上がった。


階段を駆け下りたかりんは、周りを見回すようにして誰もいないことを確認しているかのようだった。そして、カバンをぎゅっと小脇に抱えると、駆けだした。


門亜は慌てて後を追いかけた。


……早い!


ボクの靴がパンプスと言うのもあるけど……かりん、早い!


徐々にかりんとの距離が開いて行くのを見て、門亜は焦った。まって、と声をかけたかったが、どんな行動に出るのかを知りたかった。


下手に声をかけて、撒かれるのが怖かった。


小柄な彼女1人、夜の闇は隠すことができる。門亜は本能的に感じていた。


かりんは住宅街の中を駆け抜けていった。門亜も見失わないように追った。


パンプスの音が闇の中に響いた。靴音が聞こえたからか、かりんは走るスピードを上げた。門亜とさらに距離が開いた。


住宅街を抜け、高架の下に出たときかりんの姿が見えなくなった。


しまった!門亜は足を止めた。


そして、暗闇に目を凝らした。人影を探した。気配を探した。呼吸の音に耳を澄ました。


そもそも、なんでこっちに来たのだろうか。ここは警察署とは逆の方向だ。


家に帰るならタクシーを拾うはずだ。何処かに逃げるとしても、離れたところでタクシーを呼べばいい。わざわざ走ってここまで来なくても。


じゃあ、どこへ?


ひとまず、門亜は先へと足をすすめた。通りより住宅街を選んだなら、恐らくこの先の住宅街を進んだだろう。


わずかな音も聞き逃さないよう、耳を澄ませた。もし、何処かに隠れたなら走った後の荒い息はしばらく残っているはずだ。


門亜は高架の先に現れた住宅街を静かに進んで行った。両側に並んでいる家々は生活の音を止めひっそりと静まり返っていた。


人影どころか、何1つ動くものがない……。


門亜の足は自然と早くなった。せめて、あの男に捕まっていないといいけど……。

ふいに、門亜の視界が開けた。


……線路か。


!


その時、門亜の中で電気が走った。奥羽本線の線路だ。深夜でも貨物列車が通る!


門亜ははじかれるように走り出した。


読んでくださりありがとうございます。

季節は今よりもう少し先の晩秋ですが、書いていて物悲しくなりました。

年が明ける時、彼ら皆、幸せになってくれたらと思いながら書きました。

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