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邂逅  作者: 群青 ひら
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第10章 閑話休題・凝集①音環et門亜

「音環、無事だった?」


門亜のアパートに車を置いて、すべっタローの軽トラで青森市へ帰った日の夜。門亜から通話が来た。


音環はグラスに氷を浮かべた水を一気に飲み干すと、頭を押さえながら


「なんとかな……」


とやっとの思いで言った。


「……何かあった?」


門亜は声を潜めた。門亜の脳裏には、青い車に追いかけられるすべっタローの軽トラが浮かんでいた。


「いや……心配かけてすまない。車酔いしただけなんだ」


あいたた……音環は冷たさが残ったグラスの底を額に当てた。


「車酔い?」


門亜の問いに、音環はああ、と答えるとソファに体を沈めた。


「シュールストレミング……ぶちまげた、って言ってたろ。全然ニオイが落ちてなくてさ。そこへきてあの運転だから……。


冬、よくみんな我慢できたな。俺、起きていたら無理やりにでも運転代わったぞ」


ああ、と門亜は軽くうなずいた。ボク、事故起こしたくなかったから任せておいたんだよね。あまりひどかったら、警察に誘導しようと思ったけどさ。


くす、と門亜は笑うと


「大河がね、前見ろ、だのもっと早くとまれ、だの後ろからずっと言い続けていたんだよ。


不思議なくらい天気が良かった、と言うのもあったんだけど、ほとんど大河のおかげだよね」


懐かしいな、と言うように門亜は言った。


「そう言えば、大河たち元気?」


もう一月は会ってないな。新曲もどうなったんだろう?門亜は気になった。


「うん。あ!そうだ!今日、門亜の所に行ったのはもう1つ用事があったんだっけ。実はさ、空河、今度結婚するんだよ」


ロリィタ地獄で忘れてたよ、と音環は言った。門亜は突然の言葉に、何も返せなかった。


「結婚式が3月後半の日曜日らしいんだけど、門亜の出欠聞いておいてくれって。どう?」


えー。展開早い。


「多分、この潜入も終わっていると思うんだけど……。戻ってすぐに日曜日の休みの申請、入れるの出来るかな……」


門亜は不安げに言うと


「うーん。そこは伯父さんにやらせれば?こき使われて、友人の結婚式にも出られないって、呪われろ!って思うよ。俺」


……呪われろ、か。うん。なんか素敵な言葉だな。そうだ。空河の結婚式に出させてもらえないなら呪われろ!


あはは、門亜は笑いだした。


「じゃ、出席で空河に伝えておくね。早く帰っておいでよ。なんなら、俺、悪いやつら呪っておく?」


なんだよ……SAKIOTTE、歌っているのか呪っているのかどっちなんだよ……。門亜はさらに笑い声をあげた。


全人類呪いの歌、と言い、呪詛をまき散らす2026デジタルとの邂逅と言い……呪いの主体は誰だ?


あ、そうだ。空河、誰と結婚するの?


「音環、空河の相手の人ってどんな人?知ってる人?」


門亜はひとしきり笑った後で、音環に聞いた。すると、音環はうーん、と言いながら


「相手の人、空河たちのじいさんたちを送迎するデイの介護士、って大河から聞いたよ」


と言い、少しだけ声を潜めた。


「それでさ……アタックしたのは空河らしいんだけど、そもそもじいさんたちがそのデイの介護士に大河と空河がどれだけいい子か言い触れていたらしい。


それで、空河がやめさせようと躍起になっていたのを見て、相手の人が萌えた、って大河が言ってたな」


萌え?ずいぶんなところで萌えポイントがあったんだな。門亜は首をかしげた。


音環は続けた。


「ただ、あまりにも大河と空河の話をするもんだから、空河の知らない幼少期の話を、相手の人はたくさん知っているって話だよ」


うわあ……最悪だ。これって、大体幼稚園の時の失敗の話が大半だよね。


音環の言葉に門亜は身震いした。


「……悲惨だね」


そう言うと、空河に同情した。これはこれで、ちょっとの見栄も張れない。


「早く帰っておいで。俺も……4月、遅くても7月には弘前に異動しそうなんだ」


え……。そんな、捜査が終わって青森に帰ったら、今度は音環が弘前に行くの?


「もう、プレス発表が出ているから話せるんだけど、俺の勤めている銀行、合併するんだ。吸収される側だから、ほとんどが本店どころか青森市の支店にもいられなくてね」


静かに言う音環の言葉に、門亜は沈黙した。


そんな大変な中、ボクを気遣ってくれたんだ。でもさ、なかなか会えなくなるよね。


門亜の沈黙に、音環は軽い口調で言った。


「大丈夫。今とあまり変わらないよ。仕事の後に会って話すとかスタジオで練習するとかそう言ったのが出来なくなるけど、週末に録音するとかそう言ったのは変わらずできるし。


ただ、やっぱりちょっと会って酒を飲むとかギターを合わせる、とかそう言ったのは今のうちしか出来ないから、門亜、早く帰ってきてくれないかなーってね」


本当を言えば、合併の準備で仕事帰りに酒を飲む、なんて時間もないけど。でも、門亜が捜査を早く終えて青森に帰ってきて、安心したいんだ。


音環は目を閉じた。そして続けた。


「そうそう、じいさんたち、相変わらず空河たちの帰りが遅いと探しに出てしまうから、空河が家に残るみたいだよ。大河は家を出るって言ってた」


門亜は、厳冬の竜飛崎まで空河たちを追いかけてきたじいさんたちの姿を思い出した。すべっタローの運転で来たとは言え、凄い行動力だ。


そう、感心していると音環は


「徘徊じゃないよな……」


と言うので門亜は噴き出した。ああ。早く青森市に帰りたいね!


「音環、今日は本当にありがとう」


門亜は言った。


「ああ。本当はそう言ってはいけないんだろうけど、力になれることがあったら言ってくれ。とりあえず、俺、日々呪っておくから」


音環の言葉に門亜は再び笑い出した。これじゃ全人類呪いの音環、だ。


第10章 閑話休題・凝集です。

この章は2つに分かれます。

シュールストレミングがどこまでも広がっていく章になります。

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