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邂逅  作者: 群青 ひら
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第9章 独白②

※この章では具体的な方法、描写はありませんが、暴力表現があります。

苦手な方もいらっしゃるかと思います。

ご容赦のほどお願いします。

しばらく目を閉じたままでいると、まぶたの裏に、オレンジ色のサマードレスを着た女性が現れた。


……奈緒美か?


男は目を閉じたまま、女性が振り向くのを待った。つやのあるショートヘアーの黒髪が少しだけ揺れて振り向いた。


……奈緒美だ。


男の口元が少し緩んだ。


オレンジ色のサマードレス、と言うことは、一緒に行動するようになって5年くらいたったころだろうか。


恐らく、組織が用意した銀座のパブでキャストとして働いていたころだ。


あの頃は、いわゆる上級国民の奪命がメインだったから……。そう言う意味では、上品でかつ大胆な奈緒美にはうってつけの場所だった。


ホントに性格がぶっ飛んでいたな……仕事を終えた日は必ず俺を欲しがったもんな。恐らく、野生のような本能が強かったのだろう。


それでも、ちょっとしたミスが命取りだった。奪命に失敗した。


ターゲットが車から降りて逃げようとしたから、奈緒美はそのまま車を発進させて、ターゲットごと海に飛び込んだ。


飛び込む間際に窓を開けて「まだ来ないで」とだけ言った声が耳にこびりついている。


あの後も、次のパートナーを育てている間、底辺がやる仕事をやらされたな。


直属のボスは「愛だ」と言って笑っていたが……確かに、あれは組織に何とも言えない執着を呼び起こす。


2人目の……亜希子は、親を殴って家を出てきたところを拾った。後で聞いたら、救急車を呼んでから家を出たとか言っていたな。


俺に執着させ、俺のために命を投げ出すのも厭わなくなるほど執着させるのに3年かかった。


野良猫のような奴だったから、奈緒美ほど上品には育てられずスナックかキャバレーのキャストにしかなれなかった。


それでも、亜希子は女性であることを最大に生かした。


ターゲットが男でも女でも、女性であれば警戒心がぐっと下がる。


だから女性のターゲットも上手く仕留められた。協力者を作って、亜希子の勤める店に誘導して酒に薬を仕込んだことも多々ある。


その後は事故に見せかけるか、行方不明にするか……。


店のすぐ近くの協力者の部屋にターゲットを置いておいて、トラックで海に運んでどぼん、と言うこともしたな。


そんなにちょくちょく組織の仕事があったわけではなかったから、店が疑われることはなかったが、協力者の精神がおかしくなった。


仕方なく、協力者を処分した。そして、亜希子は協力者に持たせたカミソリで自分の首をかき切った。


俺はモノと化した2人の前で現場を整えると警察を呼んだ。そして、


『キャストが客に強引に連れていかれたので追いかけたが、見失ってしまった。叫び声が聞こえたので行くと、すでにこうなっていた』


と協力者が亜希子の首をかき切り、そして自分の首をかき切った無理心中だと信じ込ませた。


奥の部屋から血の臭いがすごい、と言うことでそれまでの殺人がいくつか発覚したが、こちら側は被害者、と言うことで疑われることはなかった。


本当は俺もあちら側に行こうとしたが……ボスに3人目のパートナーを作れと言われてまた底辺の仕事をしている。


もっとも、まだ3人目を見つけていないから、いつまで底辺の仕事をするのか……。


もし消されるなら、もっと頭のいい奴と組んで、納得するくらい鮮やかにはめられて消されたい。少なくとも、頭の悪いやつと組んで心中、なんて御免だ。


はぁ。男はまぶたを開いた。天井のやわらかなオレンジの光が目に入ってきた。


そもそも、こんなコストの悪い奪命行為、本当に組織は必要としているのか?


育てるだけで3年前後、使えて2年。うまく行っても5年が限度だ。


スマホの時代だから、アナログな方法に逆に引っかかると言っていたが……。


その時、スマホから通知音が鳴った。


LINEの通知には『モーア、兄、報告』


とあった。タブレットでLINEを開くとPDFファイルが添付されていた。そのファイルを開いたとき、男の視線は画面にくぎ付けになった。


――要約された文章には、追跡失敗、とあった。


・軽トラを追尾したが、悉く赤信号につかまり、見失うこと数回。


・ナンバーを控えると、その紙が必ず行方不明になる。


・写真に撮ろうとしたが、泥で汚れていて読み取りが不可能だったり、上手く撮れた時はカメラの調子が悪くファイルが保存されていない。


また、マグネットホルダに入れたGPSタグは、何故か落ちていたり、ばれて捨てられていた、と書いてあった。


男は頭を抱えた。


GPSタグが捨てられたなら、しばらくやめておいた方がいい。警察にかけ込まれるかすでに相談はしているだろう。


モーアかその兄が警察官である可能性も考えて早々に調べさせたが……まるで見えない力が邪魔しているかのようだ。




男は煙草に火をつけた。そして、ゆっくりと煙を吐き出すと再び目を閉じた。


第9章 独白はこのエピソードで終わりです。

次は閑話休題ですが、シュールストレミングの章でもあります。

読んでくださりありがとうございます。


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