第9章 独白①
※この章では具体的な方法、描写はありませんが、暴力表現があります。
苦手なもいらっしゃるかと思います。
ご容赦のほどお願いします。
最近は頭の悪いやつが増えてきたな。
男は、タブレットの画面を眺めながら煙草をくゆらせた。……スマホで情報がなんでも取れると思っているからか?無敵と思っているのか、先を考えないやつが多い。
煙を吸い込んで、ふぅ、とゆっくりと息を吐き出すと、煙は1つの筋となってタブレットの画面を撫でていった。
例えば、この、かりんと同居している男……本来は、共犯者は飴と鞭で支配しなくちゃいけないのに、こいつは鞭ばかり使いやがる。
かりんの性愛の対象が女、と言うのは定番の男女のソレが使えないから難しいと言えば難しいが、それを何とかして一流だろう。
一流、と言う言葉が頭の中を流れたとき、男は一瞬思考が止まった。共犯者を失った俺が言えることではないが。
それにしてもだ。鞭ばかり使えば、限界を超えた時に逃げ出されるぞ。すでに恐怖で支配をしてるんだからな。
かりんが逃げようと、どうなろうと構わないが、組織に迷惑がかかる。簡単に組織が摘発されるほど脆弱ではないが、しくじったやつは見せしめに消される。
仮に、そいつが逮捕されても、トカゲのしっぽ切りをした後に消される。そしてその情報は速やかに共有され、裏切り者が出ないよう参加者に恐怖を植え付ける。
つい先月も、オレオレ詐欺をしくじったやつが、身柄を首都圏に移された後に、拘置所で面会者に渡された毒を飲んで消された。3人とも、だ。
渡した荷物の中に遅効性の毒を含んだしおりがある。こいつはゆっくりと体の機能を落としていくから、いつの間にか眠り、目覚めない、と言う代物だ。
本と一緒に渡されるから疑われない。そして、その本はたいていは哲学や宗教書だ。皮肉にもほどがあるが。
ちなみに、そのしおりを舐めなければ連絡が行く。今度は毒を職員に渡して食事の中に入れてもらうことになる。
こいつも遅効性で無味無臭。ただし、今度のは激しい心臓の痛みが続き、苦しみぬくことになる。今回のやつらもこっちだった。
実情を知っている側からすると……素直にしおりをなめたほうがいいが、まあ、結果が分かっているから、自分からは出来ないだろうな。
男は軽く椅子をゆすった。
――監視者の俺も例外じゃない。しかも今回はペナルティで底辺の仕事として監視者をしている。だから、かりんが逃げたり逮捕されれば俺も消される。
まあ、構わないが……。
男の口から、再び煙草の煙が吐き出された。
奈緒美……。そして亜希子……。
俺が奪命者だった時のパートナー……。
奈緒美にはまだ来るな、と言われたからな……亜希子はどう思っているか分からんが。
出来るところまでやるが、上手くいかなかったら許してくれ。
その時、タブレットの画面に、更新がありました、と言うメッセージが上がった。
そしてインスタグラムのかりんのページには『#モーアと一緒』『#モーアにあーん』と言うハッシュタグともにパフェの写真が上がっていた。
またモーアか!あいつは何をやっている!
男はマップを開き、同居人の男のピンを探した。――ピンはかりんが写したパフェが置いてある店からだいぶ離れていた。
ガールズバーで、過剰反応したやつがトラックにはねられた日の翌日だろう!外に出すな、と言っておいたはずだ。
出かけたがるなら、少なくとも、尾行して余計なことを言わないか監視するものだろう!
はぁ、とため息をつくと、イラつく頭で男に地図とかりん、デートと打ち込んだ。
さっさと行って、後ろの席に座るなりして会話を監視しろ!
再び男の口からため息が漏れた。ゾンビたばこの流通が短期間の荒仕事だからって、人選を誤ったな……あの男、倉庫を作ってくれたのはいいが、抜けが多すぎる。
かりんに恐怖を植え付けるために、付き合っていた女にゾンビたばこを与えたまではよかった。
お店を飛び出して行方不明になるなど、下手を打つから……調べが入ったし、捜査が継続していると見たほうがいい。
唯一、良かったのはかりんはそれ以降、恋人も友人も作らなくなったことだ。倉庫のことを口外するリスクが格段に下がった。
なのに、だ。あいつがかりんを叩いて支配しようとするから……モーア、とかいう隣の店のキャストと付き合いだしただろう!
同居人の男のピンが動き出した。かりんがモーアとデートしている店に向かっているようだった。
まったく……。
男は椅子を離れ、冷蔵庫から冷えた天然水のペットボトルを取り出した。
しばらくして、男の階下の部屋でガチャガチャ、と乱暴にカギを開ける音がした。
――帰ってきたな。男は机の上のスイッチを押した。
ドアを開くような音がすると、スピーカーからドン、と人が倒れるような音がした。そして、かりんの『何するのよ!』と怒る声が聞こえてきた。
頼むから外に聞こえないよう静かにやってくれ。
男は下の階に住む、かりんと同居人の男に向かってつぶやいた。……ここでつぶやいても、聞こえはしないが……。まったく、あきれる。
スピーカーからは、かりんのため息をついたような音が聞こえた。続いて、かりんと同居人の男の声が流れてきた。
『別に、私が誰と付き合おうと勝手でしょ。あんたの女じゃないのよ!男なんてまっぴらごめんなんだから』
かりんの怒鳴るような声が聞こえてきた。
『静かにしろって!普通に付き合えると思っているのか?前の女みたいに組織に消されるぞ!』
その後に、ばしっという何かをたたく音がした。おおよそ、男がかりんをたたいたのだろう。まったく。あいつの短気さに気が付かなかった俺のミスだ。
ドン。男は床をけ飛ばした。すると、音が一瞬静まった。そして、同居人の男の『ごめん……』と言う声が聞こえてきた。
この男の精神状態もおかしくなっているのかもな。まあ、次期に処分だろう。
犯罪で小金を稼ごうとすると、こうなる。まあ、ホストのくせに客に踏み倒されて借金を背負った時からツキから見放されているんだがな。
……その男を拾った俺も、運がないのだろう。最も、亜希子を失った時点でツキから完全に見放されたのだろうが……
男は、スピーカ―が静かになったことに気付くと、椅子に寄りかかりながら目を閉じた。
第9章 独白です。
この章は2つに分かれます。
このエピソードは「あり、か」(田中一郎・歌/中島みゆき・作)を繰り返し聞きながら書きました。
少しでも、ダークな世界を表現できたら良いのですが……。




