第7章 2回目のデート②
――弘前駅に着くと、かりんが駅ビルの前でポツリ、と立っているのが見えた。
所在なさげな様子に、門亜はキュッと心が締め付けられた。
「ここで降ります」
門亜はタクシーを止め、お釣りも受け取らずに降りると、慌てて走って行った。
かりんの姿が、何だか消えそうに見えた。……消えないで。お願いだ!
「モーアちゃん!」
手を振りながら駆け寄ってくる門亜に、ぱぁっとかりんは笑顔を向けた。そして、かりんも門亜の元に駆け寄った。
かりんはふわっとしたパフスリーブのブラウスにワイドデニム、と言うコーデだった。駆け寄った時、すそがパタパタして愛らしかった。
……愛らしい?何を考えているんだ、ボクは。
「どうしたの?」
一瞬固まった門亜にかりんは聞いた。いいえ、ボクにも分かりません……。
「……かわいい、と思って」
ぼそっと言った門亜の声をかりんは聞き逃さなかった。
「キャー嬉しい!モーアちゃん大好き!」
そう言うと、かりんは門亜に抱きついた。きょ、距離が近いから!男ってばれるから!
「……モーアちゃん、スポーツとかやってるの?すごく筋肉質」
意外、と言うような顔をしてかりんは門亜を見上げた。
ごめん……。
門亜はうつむくと、かりんは慌てて手を振った。
「ううん。ごめんね。私、中学も高校も帰宅部だったから、スポーツなんて全然だめで」
羨ましいなぁって、と嬉しそうにほほ笑んだ。
いこ、とかりんは門亜を引っ張った。その時、ふわり、とこの前とは違うシャンプーの香りがした。
ほんの数日前は、一緒の香りが嬉しかったのに。
温かなフルーツの香りが、まるでかりんをどこかに隠し去ってしまいそうで恐ろしく感じた。
「ごめん……窓際しか開いていないけど、大丈夫?」
大きな窓ガラスから中を覗いたかりんは、おそるおそる門亜に聞いてきた。
「お店に勤めていると、外から見られていい人とプライベートをきっちり分けたい人といるのよ。モーアちゃんはどっちかなって思って」
なるほど……見られることのリスク。そう言ったことにも気を使わないといけないんだ。
門亜はかりんに向かってにこ、と笑うと行こう、と指をさした。かりんは嬉しそうにほほ笑むと、再び門亜の手を取って店の扉を開けた。
「私は、今日はモンブランパフェにしようかな」
かりんはそう言うと、門亜にメニューを渡した。
ボクは……今日もレアチーズケーキだな。アールグレイとのセットで。
門亜はオーダーを取りに来た店員にそっと注文をした。
「モーアちゃんてレアチーズケーキ好きなのね。今度、チーズケーキの美味しいお店、行ってみない?ここのもおいしいんだけど、別の所はかけているソースの種類が多いのよ」
かりんは軽く両手で頬杖をつくと、今度行きましょ、と笑顔を向けた。
「モーアちゃんの今日のコーデも素敵!お姉さんって感じで……私、そう言うのが合わないのよね」
かりんはそう言うと軽く口を尖らせた。そうなの?何でも似合いそうだけど、と言うように門亜は首を軽く傾けた。
「なんかね、合わないの。本当はいい加減きちんとした会社に就職したいし、でもスーツを着るとなんか浮いちゃって……」
……そう言えば、かりんさんっていくつなんだろう?大学生かなって思っていたけど。門亜はかりんについて何も調べていなかったことに気が付いた。うっかりしていたな。ボク。
何か聞きたそうな門亜のサングラス越しの目線に、かりんはぼそり、と続けた。
「わたし、今年で24なの。本当は大学も卒業していていいんだけど、休学していて……学費を稼がないといけないから」
ふぅ。小さくかりんはため息をついた。そして、ぱっと笑顔になると、門亜に言った。
「昨日、あんなことがあって家にいたくなかったの。今日会ってくれてよかった。モーアちゃん、ありがとう」
かりんがそう言ったあと、タイミング良くオーダーしたものが運ばれてきた。
「わたし、モンブランも好きなの。茨城の……笠間の栗を使っているんですって。ね、一口食べてみて」
かりんはそう言うと、スプーンでマロングラッセとクリームの部分をすくって門亜の口に運んだ。
あーん、と言うかりんにつられて門亜は口を開けてしまった。
ぱくり。控えめな甘さのマロングラッセは香りを残しながらすっとのどへ流れていった。……びっくりだ!
しかも、パフェに乗っていたマロングラッセって1つじゃなかった?そんな大事なのたべちゃって良かったの?
門亜は慌てて自分のケーキを差し出すと、一口どうぞ、と言うようにフォークが置いてある方をかりんに向けた。
すでに同じスプーンでクリームを自分の口に運んでいたかりんは、ありがとう、と言うと門亜のフォークでケーキを一口、取り分けた。
「おいしい!モーアちゃんと一緒だからもっとおいしい」
かりんは満面の笑みを門亜に向けた。その時、ふと門亜はかりんの目の端に腫れたような跡があることに気が付いた。
……聞いていいのか。
門亜はどうしたの?と言うように首をかしげて、そっとかりんの目の端に手を伸ばした。そして触れるか触れないかギリギリのところで手を止めた。
かりんは慌てて……そして恥ずかしそうにうつむいた。
「ごめんね。心配させちゃったね。蚊に喰われたの。今の時期の蚊って腫れるのね」
そう言うと、かりんはそっと髪で腫れたところを隠した。そしてスプーンでクリームをすくうと、あーん、と言って門亜の口にクリームを運んだ。
……このパフェ、半分は僕が食べたんじゃ?数回門亜の口にクリームが運ばれたところで門亜ははっと気が付いた。申し訳ないな。……こういう場合、どうしよう?
門亜が考えていると、かりんはホットミルクティで両手を温めながら、そっと口に運んでいた。そして、ほぅ、と軽く息を吐くと門亜を見つめた。
「今日は本当にありがとう。誰かと一緒にいるって、こんなに安心できるものなのね」
モーアちゃん、やさしいから……と言うかりんのつぶやきが聞こえたとき、コンコン、と窓をたたく音が聞こえた。門亜が顔を上げると、男がかりんに向かって何か言っていた。
「あっ!あいつ!」
かりんは伝票を持つと立ち上がった。そして、さっさと支払いを済ませると外に出て行った。
門亜は伸ばした手からかりんがするり、と離れていくのを感じていた。突然のことにそのまま動けなかった。
はっと気が付き慌てて後を追うと、かりんが頬を男にはたかれているのを見た。
止めなくちゃ……門亜が駆けつけようとすると、男は門亜を一瞥して、かりんの手を引いて去って行ってしまった。
第7章②はかりんの孤独を描きました。
同時に、門亜の孤独も徐々に進行しています。
どうか、孤独が救われて欲しいと、願いながら書きました。




