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邂逅  作者: 群青 ひら
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第5章 経費請求③

ところが、いこ、とかりんは門亜のそんな気持ちに気が付かずに、駅ビルの中へと引っ張って行った。


「モーアちゃん、食べられないものとかある?」


門亜の腕を引っ張りながらかりんが聞いてきた。門亜がかりんに顔を向けるとふんわりとシャンプーの香りがした。


あ!このシャンプー、ボクも使ってるやつだ!


少しだけ心がほぐれると、ううん、とかりんの質問に答えた。


「良かった!パフェの美味しいお店があるの。牧場から直接取り寄せているらしくて、生クリームがホントに美味しいのよ。一緒に食べたくて!」


かりんが笑顔を向けてきた。……まぶしい!門亜は、自分がする愛想笑いのような笑顔と違って、満面の笑みを見せるかりんに、羨ましさを感じていた。


10分ほど駅ビルの中を歩くと、木の枠にステンドグラスのようなガラスをはめ込んだような外壁が見えてきた。そして、小さな扉をそっと引いて中へ入って行った。


落ち着いた照明の店内は、大きな窓ガラスから入る光で程よい明るさだった。かりんは壁際の4人掛けの席を選ぶと、座ってメニューを開いた。


「ここ、生クリームだけじゃなくて乳製品がおいしいの」


そう言うと、門亜が見えるようにメニューをくるっと回した。その仕草に、門亜の心の中にほんのり温かいものを感じた。


本当に美味しそうだ……。門亜は写真が付いたメニューを上から眺めると、きれいに食べられそうなものを探した。


どれも、フォークを刺したら崩れてしまいそうなくらい、繊細な形をしていた。


セットでチーズケーキと紅茶、かな。門亜が紅茶のページを開くと、カナ文字の羅列に一瞬思考が飛んだ。


ミルクティー、とかじゃないの?ナニコレ。ダージリン、とかイングリッシュ・ブレックファースト、とか。しかも、アールグレイがない!


ない、ない、とメニューを下に追ってみていくと、フレーバーティの欄にアールグレイがあった。


アールグレイ、フレーバーティだったんだ。ボク、知らないで飲んでいたよ……。


ぽつり、と別枠に書かれた文字が、門亜の目には所在なさそうに見えた。


「私、ストロベリーティにしようかな」


かりんは門亜が持っていたメニューを覗き込みながら言った。


「甘い香りがして、幸せな気分になれるのよ」


そう言うと、かりんは門亜に向かってにっこりと笑った。


……ああ、本当にまぶしい。


「モーアちゃんて、大人なのね」


かりんは門亜が選んだメニューを見てそっと言った。


「わたし、ついパフェとかたくさん乗ったのを選んじゃって」


少し恥ずかしそうに言うかりんに、門亜も気恥ずかしくなった。……イイエ、ボクはスカートにこぼさないものを選んだだけです。


「モーアちゃんて、イメージは愛らしいのに、中身は大人の女性なんてそのギャップが素敵!」


イイエ、イメージは愛らしいものを着ていますが、中身は大人の男性です。


ごめんなさい、と門亜は泣きそうになった。


「そう言えば、モーアちゃんって誰かと付き合ってるの?


ふいにかりんは言った。


ドキリ。それを聞いた門亜の目は丸くなった。ぴたり、と固まった門亜に慌ててかりんは続けた。


「ごめんなさい。ちょくちょく服を変えているみたいだから、だれかプレゼントする人がいるのかなって思って……」


慌てて目線を外すかりんに、門亜は少しだけ肩の力が抜けた。


良かった。その服、捜査経費、なんて言われなくて。ああ、ボクもうどっかおかしくなってる。


買った人か……伯父さんって言ったらパパ活だな。うん。すべっタローだ。うん。


「お兄ちゃん……」


ぽつり、と門亜は言った。すると、かりんはほっとしたような不思議そうな顔で門亜を見た。


「そうなんだ……。でも、夜働いていて大丈夫なの?心配しない?」


かりんは聞いてきた。


ふぅ。ぐいぐいくるなぁ。すべっタロー、むしろ楽しんでいるよ。


「私が、やってみたいって言ったから……」


あ、長文は地の声が出そうだ。それに。ボクはやってみたいって言ってない!


嘘って大変……。門亜はうつむくとコップの水を飲んだ。


門亜のしぐさに、かりんは慌てて言った。


「ごめんなさい。私のうちが上手くいっていないから、つい……。本当にモーアちゃん想いの優しいお兄さんなんだね。素敵」


しょぼん、とするかりんに、門亜は申し訳なく思った。


かりんさん、あなたが言った優しいお兄さんは、男のボクにぴったりのドレスを見繕うことが出来て、歌のタイトルに「全人類呪いの歌」とつけることが出来る不思議な奴なんです。


門亜は、かりんとすべっタローと3人で出かけているような気になってきた。なんで会話の最後にすべっタローが思い浮かぶんだろう。


その時、失礼しまぁす、とちょっと甘い声がしてケーキが運ばれてきた。


テーブルの上にレースのような紙ナプキンを敷くと、それぞれ、ケーキやパフェを静かにカタ、カタ、と並べて行った。


静かに置かれていく手元をじっと眺めていると、かりんは門亜に


「ここ、店員さんも上品で……素敵でしょ」


と言った。


いただきます、と門亜が手を合わせているのに、かりんは驚いたようだった。そして、


「門亜ちゃんって、本当に育ちがいいのね……」


と感心するように言った。


読んでくださりありがとうございます。

舞台の弘前駅のアプリーズは実在する場所ですが、かりんと門亜がいる喫茶店は私の空想です。

こういう喫茶店があるといいな……と思いながら書きました。

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