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邂逅  作者: 群青 ひら
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第5章 経費請求②

――門亜が開店前の掃除をしていると、かりんが入り口から覗いているのに気が付いた。


男性キャストに目線を送ると、開けたら?というような仕草をした。


門亜は扉の鍵を開けた。


リンゴのインク壺をありがとう、と言おうとした時、かりんは門亜の手を握ってにっこりと笑った。


「ねぇ、明日のお昼前って時間空いてる?お茶しない?」


ぐいぐいくるなぁ。門亜は目を丸くした。そして、少し考えた後、うん、うんとうなずいた。


かりんは満面の笑みを浮かべると、門亜の手を握ったまま軽く上下に振った。そして


「ありがとう!それじゃ、11時くらいに弘前駅前のアプリーズの前で……どう?」


首を軽く横に傾けながら下目遣いに門亜を見た。


門亜は軽くうなずいた。


「キャー嬉しい!じゃ、明日ね!」


そう言うと、かりんは軽い足取りで隣の店に戻って行った。


あ!膝!門亜は慌てて膝を閉じた。大丈夫かな。見られなかったかな。


ぎこちなく歩いて戻る門亜に、男性キャストは


「まあ……頑張って」


と同情するように言った。




翌日。門亜は早起きをすると、YouTubeを開いてロリィタ服の着方の動画を流した。


……普通に服を着て、パニエを履くの?もっと膨らませたいときはパニエの重ね履き?


門亜はすっかりハンガーラックを圧迫しているパニエを見て首をかしげた。これ、二つあるのはそう言うこと?って言うか、何ですべっタローそこまで理解してるの?


まず、門亜はワンピースを着た。そして、パニエを履くとガータベルトが目に入った。


これはどうやってつけるんだ?


動画を止めると、検索を始めた。


げ!パニエの前に履くのか!やり直しだ。門亜はげんなりした。


もぞもぞとパニエを脱ぐと、ガータベルトをつけ、タイツを履いた。


するん。ガータベルトの留め具からタイツが滑り落ちた。


……挟みこみが浅かったのか。門亜は再度止めてみた。今度は上手く止まったがパニエを履こうとしたときに、するん、と落ちてしまった。


もー!難易度高いものを選ばないでよ!もうちょっと楽なのないの!


4、5回ほど挑戦して、上手く止まるようになったが、その頃にはすでに門亜は疲れてしまっていた。


それでも、パニエでスカートがふんわり広がり、ヘッドアクセで髪をフェイスラインに沿わせながら押さえると、黒髪が淡いピンクのワンピースに美しく映えた。


機嫌をよくした門亜が足元をみると、リボンのついた襟のようなものやショールのようなものが散らばっていて、再びげんなりとした。


丁度その時、動画も最後に差し掛かっていた。


「こう言った重ねアイテムもあるので、上級目指して頑張りましょう!」


ボク、上級目指さないといけないの?


動画の声に、門亜は突っ込みを入れた。そして、それらアイテムをまとめると、丁寧に袋に入れた。


はぁ。女の子って大変。門亜はため息をつくと、ヘッドアクセを外し、メイクを始めた。


――タクシーを呼んだ門亜が待ち合わせの場所に着いたのは、約束の時間の15分ほど前だった。


門亜はフリルのついた日傘をさすと、ショーウィンドウに映る自分の姿をまじまじと見た。時折、気恥ずかしくなって日傘で顔を隠すと、姿勢だけがショーウィンドウに残った。


ショーウィンドウの中の赤いベルベットのカーテンに白とピンクで飾られた自分の姿が写った。


何だか、絵画みたいだ。門亜は背筋が伸びるのを感じた。


門亜はそのままそっと、通りに目を向けた。自分に目線を向ける人、ちらり、と見てそのまままっすぐ通り過ぎる人。全然目線を向けない人。


様々な目線を見ては、自分が風景に溶け込んでいることを知って、気持ちが落ち着いて行った。


それでも、駅前を警らしているらしいパトカーが目の前を通るときはさりげなく日傘で顔を隠した。そして、門亜は改めて日傘の便利さに驚きを隠さなかった。


この傘……本当に便利だ。


気持ちが落ち着いてくると、周りの風景を見る余裕が出てきた。


門亜は、ざっとあたりを見渡すと、感覚で感じる違和感を探した。そしてその後、人が隠れられそうな場所や自分をじっと見る人など細かくチェックして行った。


しばらくすると


「モーアちゃんかわいい!」


と言う、女の子の声がした。振り向くとかりんが立っていた。


門亜はかりんの服装をまじまじと見た。ひざ丈のワンピースに革のジャケット。淡いピンクを黒の革のジャケットで抑えた、甘さと辛さのちょうどよいコーデだった。


門亜は気づかれないようにため息をついた。


テンネンモノノオンナノコハ、カワイイフクガニアッテイテ、ウラヤマシイデス。


そんな門亜の心に気づいたのか気づかないのか


「モーアちゃん今日はロリィタなのね。すらっとしているから甘すぎなくていい~。あーん、かわいい~」


とかりんはべた褒めをした。そして、色がおそろいね!と言うとかりんは門亜の腕に抱き着いた。


ぷにゅ。やわらかいものが当たって門亜はドキリとした。そして


……後で男とばれたときSNSに載せないでください。セクハラではありません。不可抗力です。


門亜は泣きそうになった。


読んでくださりありがとうございます。

ロリィタ服の着方、私もネットで調べました。

愛らしく着こなしている姿にほっこりとするのですが、影の努力にただただ頭が下がります。

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