第5章 経費請求①
お店の衣装でお出かけなんてできないよね……。
どうしよう、と門亜は伯父にメッセージを送った。
『お茶しよう、と隣のガールズバーの子に誘われたけど、着ていく服がありません』
とりあえず送ったから、後は伯父さんかすべっタローが持ってきてくれるでしょ。なんて言ったって、ガールズバーの子とお茶だもんね。門亜はそのまま仕事に入った。
モーアちゃん、と呼んでいるから、ボクのことは女の子と思っているってことだよね。
そんなことを考えながら、カウンターから隣の店を覗いてみた。
ミニスカートやホットパンツなど、すらりとした足をこれでもか、と強調する服は門亜には何の参考にもならなかった。
ボクもすらりとはしていると思うけど……丸みがないんだよね。あんなの履いたら、男ってバレバレ。
むぅ。門亜は表情に出ないようにこっそりと、顔をしかめてみた。
お茶をする、って何を話せばいいの?まさか、今月の事故件数や交通取り締まり情報なんて誰も面白くないでしょ!
門亜は誰に聞こうか、と頭を巡らせた。
音環は?……この話を振ろうものだったら、頬をひっぱたかれて終わった話しかしないな。モテるんだけどねぇ。よくわかんないや。
うーん。大河は?
ダメ、ダメ、ダメ。古典の話しかしなさそうだし、ボクには理解できない世界だ。
空河は?だめだぁ。受け持ちのクラスの子と校庭で遊んでいるところしか思い浮かばないよ。
えー。すべっタロー?「全人類呪いの歌」なんてタイトルをつけるヤツが参考になるかなぁ。でも、服のセンスはめっちゃくちゃいいんだよね。
「どうしたの?」
お店のお客がいったん引けた頃。和装の女性キャストが門亜に近寄ってきた。
「実は……お茶しましょ、って言われたんですけど、何を話せばいいのかわからなくて……」
女性キャストは門亜の話を聞くと、あーそうだよねー、と言いながら魔法少女のキャストを呼んだ。
「えー。ニコニコしながら話を聞いていればいいんじゃないの?」
魔法少女のキャストは言った。
「きっと、話をしたい方だよ。彼女。もし、プライベートに踏み込まれたらうつむけば察してくれるって!」
そして、相槌を打つように和装のキャストは言った。
「そうよね。そんな感じよね。モーアちゃんの方から話を振らなくても、向こうが楽しませてくれそう」
そんなものなのかなぁ。門亜はあっけにとられながら話を聞いていた。
「大丈夫よ!だって、モーアちゃんについているお客、たまにうなずきながら話を聞いているだけでとっても喜んでいるじゃない?癒しの雰囲気で和ませれば大丈夫よ!」
魔法少女のキャストの言葉に、癒しの雰囲気って初めて聞いたぞ、と門亜は驚いた。
――翌日。昼前にすべっタローが門亜の部屋をノックした。門亜は慌てて玄関に行って鍵を開けると、すべっタローは大きな袋を3つ抱えて入ってきた。
「二組買ったよ。一つはね、ジョナゴールドみたいに深い赤のスカートと黒いニットなんだ」
深い赤!門亜はそれを聞くと袋の中を覗き込んだ。柔らかな厚手のスカートは、しわ一つなく良い素材であることが門亜にもわかった。
「着てみてもいい?」
門亜はそう言うと、台所に行っていそいそと着替え始めた。
すとん、としたAラインのスカートはひざ丈で、上品さにカジュアルさを足していた。そして、深みのある赤を黒のニットがシックにまとめ上げていた。
「どう?」
門亜はすべっタローの前に立った。すべっタローはにっと笑うと、
「いいんじゃない?」とドヤッとした顔で言った。
「スマホショルダーはどんな服にも合わせやすいマットな黒にしたよ」
そう言うと、小物を袋から出した。そして、
「靴は二足買ったから、合わせて履いてみてね」
と言った。
その時、門亜はもう一つの袋からフリルがはみ出ていることに気が付いた。門亜の目線に気が付いたすべっタローは袋から中身を取り出した。
一つ一つ取り出すすべっタローに、門亜は唖然とした。
フリル、フリル、フリル!洪水のようにフリルが飛び出してきた。門亜はまるでフリルの津波に襲われたような感覚に陥った。どうやって着るの!
「この服はね、ワンピースの下にパニエを履くんだって」
ロリィタとか言ったかな、と言うとすべっタローはパニエを見せた。
そして、もう一つの袋から小物を取り出した。
フリルのついた淡いピンクの日傘、白のガータベルトとタイツ、そしてフリルで縁取られたバッグ。
「ニーハイだと慣れていないとずり落ちるから、ガータベルトの方がいいってお店の人が言っていたよ」
……お店に行ったんだ。どんな顔をして買ったんだ?
大真面目に説明をするすべっタローに門亜は妙に感心した。
……それで?これ、ボク着るの?
門亜の目線に気が付いたすべっタローは言った。
「アイマスクも服に合わせて白レースにしたよ」
それを聞いた門亜は崩れ落ちた。ボク、男なんだけど!
「これに合う靴はここに置いておくね」
すべっタローはそう言うと、袋から先の丸いピンクのエナメル靴を取り出すと玄関に置いた。そして、のろのろと立ち上がった門亜に「あっ!」と言った。
「ダメだよ。門亜。膝が開いてる。カウンターの中ばっかだったでしょ!普段から気を付けておかないと!」
へ?何を言っているの?門亜はぽかんとした。立ち尽くしたままの門亜にすべっタローは座ったまま近寄ると、手をのばして膝をぐい、と内側に寄せた。
あいてて!なんだよう!
門亜がしかめっ面をすると、すべっタローは続けた。
「膝が開いていると、だらしないし男ってばれるかもよ?せっかく素敵な服を買ったんだから、膝だけでも内側にして閉じようよ」
女の子とお茶をするんでしょ?とすべっタローが言うと、門亜はしぶしぶ膝を内側に向けた。使わない筋肉使ってプルプル言うんですけど!
門亜が姿勢を気にしだしたことに安心したのか、すべっタローは買ってきた服をハンガーラックに次々にかけて行った。そして、ちらり、と見ては「膝が開いてる!」と注意をした。
……そんなぁ。これでお茶しなかったらくたびれもうけなんだけど!
門亜は突然フリルだらけとなった部屋の隅をにらんだ。そして、フリルだらけになっている自分の姿を想像してブルブル、と横に顔を振った。
――すべっタローは小一時間ほど門亜の部屋にいた。時折門亜の姿勢を見てはチェックを入れていた。
そして、門亜の足の普段使わない筋肉が悲鳴を上げるころ、
「帰ろうかな」
とすべっタローは言いだした。すると門亜は
「足がプルプル言っているから送って!」
そう言うと、お店で着る服を持ってすべっタローの軽トラの助手席に乗り込んだ。
読んでくださりありがとうございます。
この章は4つに分かれます。
内容で切ったため、このエピソードと最後のエピソードが長くなってしまいました。
ゆっくり読んでいただければ、嬉しいです。




