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邂逅  作者: 群青 ひら
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第4章 控えめにしてください③

――昼過ぎ、弘前へ電車で帰る、という門亜を音環は送っていく、と言った。


「荷物もあるだろ。ドレスの袋なんて……よくすべっタロー豚足で汚さずに持ってきたな。これを持つだけで両手がふさがるだろ」


確かに。それに、これを持ってうろうろしているのを人に見られるのも、職務的にもあまり嬉しくはない。


門亜は音環に送ってもらうことにした。何となく、気持ちが晴れていた。


穏やかな顔をした門亜に音環は一言、


「何が出来るかわからないが、頼れ」


と言った。




ライラック色のドレスを着た門亜に、門亜目当てではないお客の心にも刺さったらしい。


……服の力は大きいな。カウンター越しに向けられる視線がいつもと違っていることに、門亜は小さく感心した。


「もうそろそろ、週5で出ても大丈夫だね」


マスターはニコニコしながら門亜に言った。


週5だと……ドレスが足りない……あのだっさいメイド服はもう来たくない……。


そうだ!


門亜は、自室に戻ると寝ているはずの伯父にLINEを送った。


『週5の要請を受けました。つきましては追加のドレスにつきまして購入もしくはこちらで購入し、経費請求をしたいと存じます』


そこまで打ち込むと、ふん!と言いながら門亜は送信ボタンを押した。あのだっさいメイド服はやだよ!せめてすべっタローに選ばせてよ!


すると翌日の昼過ぎ、すべっタローが新しいドレスを持ってきた。


仕事が早い……と言うか、自分の家の仕事は大丈夫なの?門亜は急に不安になった。


「ねえ、リンゴ園は大丈夫なの?」


門亜は心配になって聞くと、すべっタローはうなずいて、


「もう、収穫はほとんど終わっていて、農機具の手入れとか冬支度とかなんだ」


と言った。


相変わらずニコニコしていたが、門亜の目には、どこか疲れがたまっているように見えた。


ボクの仕事の手伝いで、疲れていたりしない?


門亜がそう、聞こうとしたとき、すべっタローはどや、としながら言った。


「そうそう、衣装のとは違うけど、シスター服も買ってきたよ」


ん?シスター服?いいの?教会とかに怒られない?今更だけど。


シスター服と聞いて門亜は驚いた。


「逢瀬で着ていたじゃん。モア、と言ったらシスター服、くらいに思われてるよ」


……何だかなぁ。門亜は気乗りしないまま服を引きずり出すと、ベルベット状の手触りの良い生地に心臓がトク、とした。この生地、気持ちいい!


すべすべ。毛の流れに沿うと滑らかで、逆らうと柔らかな毛がくすぐって、なんだろう、撫でるのがやめられないよ!


「気持ちいいね!」


思わず、門亜の口からほぅ、と言う吐息が漏れた。


「でしょ。楽市楽座で売っていたやつだったんだけど、生地を見たらこれなら門亜、ご機嫌になるよねと思って買ってきたんだ」


門亜の表情が緩んだのを見て、すべっタローは言った。最初、黒だと思ったその生地は、光に当てると赤みがかった濃い紫をしていた。


「これから寒くなるしね。ちょっと生地が厚いけど、丁度いいと思うよ」


すべっタローは買ってきたドレスをハンガーにかけながら言った。そして


「じゃ、今日はこれで帰るから、体に気を付けてね」


と言うと、そそくさと外に出た。


ありがとう、と門亜はすべっタローを見送ると、壁にかけたドレスを眺めた。


これで4着。あと1着あれば完璧。


門亜は腰に手を当てて、ふん、と鼻を鳴らした。


――その日、門亜はあえてシスター服を着て店に出た。


「なんか……今日は雰囲気が違うね……」


あっけにとられた和装ビジュの男性は言った。そして、ニヤニヤとした顔を見せる男性キャストに門亜はにっと笑って見せた。


「暖かそう。ねぇ、触っていい?」


別の魔法少女の衣装に着替えた女性キャストがシスター服のスカート部を触ってきた。


「やーん、気持ちいい!これ、いいやつじゃないの?」


女性キャストが聞いてきた。


そうなの?門亜が首をかしげると


「いいパトロン捕まえた?なんてね。モーアちゃんはそんな子に見えないもんね」


と笑いながら、冗談よ、と続けた。


キャストの反応に門亜が気をよくしていると、マスターがキッチンから出てきた。シスター姿の門亜にマスターは目をぱちくり、とした。


「……クリスマスにはまだ早いよ」


ぶっ。いつもはそう表情が変わらない男性キャストが噴き出した。




――今日も、変わったことのない一日だったな。


「ゴミ出しに行ってきます」


門亜はアイマスクを薄手のものに取り換えると、シスター服のまま門亜はごみを外に出しに出た。


『逢瀬のモアちゃんの雰囲気そっくり!』


と喜ぶお客に気をよくした門亜は、滅多にしない愛想笑いをした。すると、追加注文が来た。


へぇ。人ってこう言うところで喜ぶんだ。何だか新鮮だ。それに。


この服、着心地いいし、手触りいいし、今日はいい一日だった……あれ?


あれ?ボクは何をしに来たんだっけ?


ひんやりとした、秋も終わりの風に門亜は我に返った。


……まいっか。だって、向こうが来ないんだもん。


読んでくださりありがとうございます。

逢瀬の衣装の時も音環はナイトでしたが、門亜のリアルの世界でもナイトだなと思います。

一番に情報が来る人は一番最後に情報が来るんだな、とも。

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