第4章 控えめにしてください②
「いつものショッピングモールに新しい店舗がオープンしたんだ。だから半額。着てみなよ」
門亜がそっと袋の中を見ると、光沢のあるライラック色のドレスがちらり、と見えた。
「伯父さんからさ、ドレスの相談を受けたんだよ。買ったものの画像見せてもらったけど、ひどいメイド服だったね。大河のばあちゃん見習ってほしいよ」
と門亜と同じことをすべっタローは言った。そして
「これ、門亜着ないよ。もっとかわいいか美しくないと、って言ったんだ。
そうしたら領収書を渡してくれれば経費で落とすからとりあえず買ってきてくれって頼まれてさ。だから2着買ったよ」
だから着てみなよ、とすべっタローは再び勧めた。
袋の中を見た門亜はモジモジしだした。ふと、察した音環は
「2階の防音室。前にギターとか練習した部屋があるだろ。そこで着替えてきたら」
と門亜に声をかけた。ふぅ。研修でVバーに勤めるとかあるか!
糸口だ。すべっタローが買ってきたドレスは、門亜の秘密の糸口に音環には見えた。
門亜はリビングを出ると、足取り軽く階段を上って行った。そして、バタン、と扉の閉まる音がした。
音環はすべっタローに聞いた。
「Vバーって……ほかに何か聞いていない?」
すべっタローはうーん、と言いながら答えた。
「ドレスの相談しか受けていなかったよ。でもさ、普通は何かの事件の捜査だよね」
すべっタローの説明に、やっぱりそうか、と音環は首をかしげた。一体、何で交通機動隊の門亜に……?
しかも、相当ストレス溜めていたぞ。フォローなしか?そう、音環が考えていると、
「良く見つけられたな」
と大河が感心するように言った。
「さすがすべっタローだな。食べるところだのショッピングモールだの、用事がなくてもうろうろしている」
と、大河は半ば呆れたように続けた。
「ひどくない?空いている時間を素敵なお店を見つけるために費やしているだけだよ。収穫期なんて労働基準法なんて全くないからね!」
すべっタローは慌てて言った。そしてその顔には大河の真似をしてシートマスクが貼られていた。
「それにしても、これ、上手いな……」
おっとと、たれがこぼれる……、と大河はトレーの上に顔を出した。隣ではやはりシートマスクをしたままの空河が黙々と豚足を食べていた。
……サバトだ。何かのサバトだ。昨日の歌で何かを呼び出したんだ。やっぱり全人類呪いの歌だったんだ。
音環はソファに突っ伏した。
――トン、トン、トンとまるで戸惑うかのように階段を下りてくる音がした。トン、と下り終わった音がすると4人の目はリビングの入り口に集中した。
ふわり。まるで蝶が舞い降りるかのように一瞬だけ姿を現すと、門亜はリビングの入り口にしがみついた。
「恥ずかしいんだけど……」
門亜は顔を真っ赤にして言った。
ライラックの花を思わせるような淡い紫のAラインのドレスは、大人すぎず、可愛らしすぎず、門亜のイメージをそのまま保っていた。
オフショルダーの上に重ねられた濃いめの紫のレースヨークは、門亜の白い肌に主張することなく張り付いていた。
そして、レースヨークと同じ模様の黒のタイツが甘さを添えていた。
蝶。否、妖精。
すべっタロー、なんてものを買ってくるんだ!音環は唖然とした。
「これ、合うかな……」
そう言いながら、門亜はアイマスクをした。すると、突然大河と空河はひれ伏した。
「門亜様」
その姿に、ふん、と門亜は仁王立ちしてまんざらでもない、という顔をした。
「やっぱり、かわいいものか美しいものを着ると気持ちが違うよね」
とすべっタローは言った。
大河たちのしぐさに満足したのか、2着目の服に着替えに門亜は再び階段を上がって行った。そして、扉が閉まる音がすると、ぼそっと大河は音環に言った。
「多分、門亜からは何も言わないだろうな……あの性格だからな」
竜飛崎の時もそうだったし、と大河は続けた。
「もし、何か情報を得たら共有してくれ。力になれるものがあったら力になりたいし……。仲間だからな」
「ああ。今日、ドレスの話を聞いてやっと理解が追い付いたところだ。大河も……何か情報あったら共有よろしく。俺、いつも情報が来るの、最後なんだよね」
残念なことにさ、と音環は続けた。
「多分、門亜が話すのは音環だけだと思うぞ。一番に情報が来るから、もう来てるんだと思って最後になるんじゃないか?」
と、大河は言い、まあ、拗ねるな、と言った。
「門亜は大体、何かあるとお前の所で大暴れしているからな。気になってきてみたらやっぱり思ったとおりだ」
大河の言葉に、音環はそうなのか?と首をかしげた。そう言われて悪い気はしないが、悪乗りして悪化させてるのは大河だろ!
そう、音環が反論しようとした時、2着目に着替えた門亜が、今度は足取り軽く階段を下りてきた。
「どうだ!」
と、仁王立ちした門亜に、再び大河と空河はひれ伏した。そして、お前もやれ、というように大河に手で促されたすべっタローもひれ伏した。
音環はまじまじと門亜の姿を見た。深紅に近い赤のノースリーブのワンピースは、胸より上はレースだけだった。
そしてそのレースも刺繍が施されており、ロマネスク模様を思わせる刺繍は、門亜の貴婦人さを引き立てていた。
門亜、どこ行っちゃうんだよ……。音環は門亜が何か黒いものに飲み込まれていくのではないか、というような思いにとらわれていた。
その時だった。門亜は口をとがらせると、そっと胸のあたりで両手を下から救うような仕草をした。それを見た大河は一言言った。
「控えめにしろ」
門亜は口を尖らせたまま横をプイ、と向いた。
読んでくださりありがとうございます。
どんな服を着ていても、門亜は門亜だと思いました。




