第4章 控えめにしてください①
門亜かよ!よかったけど、びっくりさせるなよ!
音環は起き上がるとキッチンに向かった。そして、コップに水を入れると一気に飲み干した。
うぇ。飲みすぎたせいか水がまずい。
音環はコップをゆすぐとシンクの隅に置いた。そして、冷蔵庫を覗いた。
……何かお腹に入れておかないと二日酔いがひどくなる。
ところが。冷蔵庫には朝食の材料になりそうなものは入っていなかった。音環は目をぎゅっと閉じた。
……買いに行ってくるようだな。音環は財布が入ったカバンを持つと
「ちょっと朝食になりそうなもの買いに行ってくる」
と行ってリビングを出ようとした。その時、クリームを頬にくるくると塗りつけていた門亜は音環に声をかけた。
「音環、シートマスク顔に張り付けてあるから取ってから行きなよ。お酒でぱりぱりだったから貼っておいたんだ」
それでか!音環は慌ててシートマスクを外すと丸めてくずかごに入れた。確かにふっくらしてるけど……さっき水がまずく感じたのはこれごと飲んだからか?
いいか……もう。頭が追い付かない。
音環は玄関を出ると、歩いて近くのスーパーへと向かった。
パンにするかなぁ。音環は外まで漂って来た焼きたてのパンの香りに、気持ちが傾いた。
玉子すらなかったからな。後はハムとサラダと……簡単に作ってしまおう。
自動扉をくぐると、店内は人がまばらだった。緑のエプロンを付けた店員が、レタスを丁寧に並べていた。
音環は邪魔しないようにレタスとその隣のトマトをそっと取ると、そのまま奥へと進んでいった。
ベーカリーショップは丁度音環が入って来た入り口と反対側だった。音環はそのまま玉子、ハムと次々にかごに入れて行った。
途中、パックに入った豆大福を見つけた。門亜の喜ぶ顔が浮かんだが、同時に昼ご飯をこれで済まされそうな気がして、顔をしかめつつこれもかごに入れた。
会計を済ませていると、大河から『あれから帰ったのか?』とLINEが来た。
そうだった。大河はお酒が飲めないから、ラーメン屋で別れたんだっけ。音環は
『家にいるよ。スキンケアしているよ(困)』
と返した。
ベーカリーショップの棚には食パンとクロワッサンが並び始めていた。どちらにしようか……。バターの香りもちょっと今の俺にはきついかな。
音環は少し悩んだが食パンを選んだ。
店を出ると、音環は買ったものの中から冷えたトマトジュースのパックを取り出した。
そして、ストローを挿すと一度に飲み干した。
ふぅ。少しは頭が動き出したな。本当に昨日は飲みすぎたな……。
帰って朝食を食べたらもう少し寝よう。まったく。あれくらいで二日酔いするようになったか……。
大きく膨らんだエコバッグを抱えると音環は自宅に向かって歩き始めた。それでも、新鮮なレタスやトマトのの感触が音環の気持ちを上向きにしていた。
――玄関を開けた時、音環は違和感を感じた。靴が増えている。なのに、家の中は静かだ。
音環は静かに靴を脱ぐと、足音を消してリビングに向かった。そして、開いている扉からそっと中を覗いた。
……音環は唖然とした。そして、忘れていた頭痛がよみがえってきた。
「音環、おかえり。大河と空河が心配してきてくれたよ」
門亜は音環の姿を見ると、声をかけてきた。そして「おう」といいながらソファに座った大河が手をあげた。
ただ……その顔は、朝、音環がしていたシートマスクと同じものがかぶさっていた。隣の空河は「うまく貼れない」と言いながらずれたシートマスクを直していた。
「門亜、ひげをそった後にこれを載せると妙に痛いんだが……」
上を向いていた大河は言った。そして
「お前、肌ホントキレイだな」
と続けた。
「そうかぁ。大河はまだひげ、剃っているんだね。ボクは面倒だからひげ脱毛しちゃったよ」
ひげ脱毛?音環は思わず門亜を見た。
「朝、剃らないからすぐに化粧水パック出来ておすすめだよ」
剃刀で肌痛めないし、と言うと、門亜はレンジで温めた蒸しタオルを顔に乗せた。
「スキンケアならコラーゲンじゃないの?」
テーブルの椅子に座ったすべっタローがそう言いながら袋をごそごそ開けた。途端に、リビング中にニンニクが効いた豚骨の匂いが広がった。
う、うわ……二日酔いにそんな匂い嗅がせるなよ……と言うか、このカオス、何?
音環はソファに座り込むとそのまま倒れこんだ。
――はい、とすべっタローは門亜に豚足を渡した。そして、自分の分も取り出すとぼり、ぼりと軟骨をかみ砕きながら豚足を食べだした。
俺、サラダ食べたい……。でも豚足の前を通らなくちゃいけないんだよな……。
音環はソファに座りなおすと頭を押さえた。ああ……頭痛い。もう酒なんか飲むか!
「そう言えば、門亜、今弘前のVバーに勤めているんだって?」
豚足の油が付いた指をしゃぶりながらすべっタローは言った。
えっ!門亜は慌ててすべっタローを見た。音環も思わず顔をあげた。
なぜ知ってる!門亜は真顔ですべっタローに詰め寄った。すべっタローは慌てて続けた。
「だって、門亜の伯父さんが教えてくれたよ。ほら、この前の竜飛崎での捕り物の時、仲良くなったから……」
色々とおかしい。仲良くなるのもだが、仲良くなったからって……守秘義務はどこに行った!
門亜は肩をがっくりと落とした。警察官としての矜持もあるけど、知られたら勝手に巻き込まれに来る奴らだぞ!
門亜はこの時ばかりは伯父を呪った。彼らに傷一つでもついたら許さないからな!
「怒らないでよ。オフショルダーのレースヨークのドレス買って来たから」
すべっタローは門亜の目線から逃れるように言った。そして、横文字の羅列に固まっている門亜に、はい、と傍らに置いておいたブランドのペーパーバッグを渡した。
――よく豚足の汁、つかなかったな!音環は心の中で毒づいた。そして、いつも門亜の情報が一番最後に届く自分に嫌気がさした。
読んでくださりありがとうございます。
この章は4つに分かれます。
そして、音環の受難も続きます。




