第十五話 魔法使いの夜会
夜のアルディア。
街の灯りは
少しずつ消え始めていた。
東区。
古い倉庫街。
人通りはほとんどない。
クロエとアイリスは
静かに歩いていた。
アイリスが小声で言う。
「本当に行くの?」
クロエは
周囲を見ている。
「呼ばれたからな」
アイリスは
少し不安そうだった。
「罠かもしれない」
クロエは
小さく笑う。
「その時は」
「殺すだけだ」
アイリスは
ため息をついた。
「ほんとあなたって…」
⸻
二人は
古い倉庫の前で止まる。
扉が
少しだけ開いていた。
クロエが言う。
「ここだな」
扉を押す。
ギィ…
中は暗い。
だが
人の気配があった。
⸻
倉庫の奥。
数人の人影が立っている。
その中央に
紫髪の女。
リディア。
リディアが言う。
「来たわね」
クロエが答える。
「ああ」
リディアの後ろには
暗くてよく見えないが、五、六人ほどの女たち。
皆
クロエ達を見ている。
アイリスが言う。
「ここは…?」
リディアは
自分の髪を触る。
紫の髪が
わずかに揺らぐ。
黒髪。
一瞬だけ
本来の色が見えた。
リディアが言う。
「ここにいるのは」
「全員」
「魔法使いよ」
アイリスの目が
大きく開く。
「……!」
後ろの女が言う。
「安心しな」
「私たちは敵じゃない」
別の女が笑う。
「むしろ追われる側よ」
⸻
クロエは
周囲を見る。
魔力の気配。
確かに
魔法使いだ。
クロエが言う。
「なるほど」
リディアが聞く。
「驚かないの?」
クロエは肩をすくめる。
「別に」
⸻
リディアは
クロエを真っ直ぐと見つめる。
「あなた」
「詠唱してないわよね」
倉庫の空気が
少しだけ変わる。
後ろの魔法使いが言う。
「詠唱なし?」
リディアは続ける。
「試験の時」
「魔力が動いた」
「でも詠唱はなかった」
クロエは
普通に答える。
「そうだな」
魔法使い達が
ざわつく。
「そんなこと…」
「あり得るのか?」
リディアは
小さく笑った。
「やっぱり」
「普通じゃないわね」
⸻
その時だった。
外から
足音が聞こえる。
カツン。
カツン。
鎧の音。
兵士の声。
「この辺りだ」
「強い魔力反応があった」
アイリスの顔が青くなる。
「教会…!」
だが
倉庫の中の魔法使い達は
特に慌てない。
女が
小さく言う。
「流石にこの人数は勘づかれるか」
別の女が笑う。
「今日はリディアの番ね」
リディアは
軽く肩をすくめる。
そして
一歩前に出た。
「静かにして」
倉庫が
完全に静まり返る。
リディアが
片手を上げる。
そして
静かに詠唱した。
「影よ」
「魔力の痕跡を喰らい」
「我らを覆え」
「存在を闇に沈めよ」
空気が
わずかに歪む。
薄い闇の膜が
倉庫を包む。
クロエは
それを見ていた。
魔力の流れ。
構造。
発動の仕組み。
クロエの目が
わずかに細くなる。
(なるほど)
(こうやるのか)
⸻
外では
兵士が言う。
「……おかしい」
「反応が消えた」
「さっきは確かに」
「気のせいか?」
しばらく沈黙。
そして
足音が遠ざかる。
カツン
カツン
やがて
完全に消えた。
⸻
倉庫の中。
リディアが
手を下ろす。
アイリスが
大きく息を吐いた。
「助かった…」
リディアが言う。
「魔力隠蔽」
「教会の感知を騙す魔法よ」
クロエが言う。
「便利だな」
リディアは
クロエを見る。
そして言った。
「魔力の消費量はハンパないけどね」
そして
静かに言う。
「ところであなた」
「私たちと組まない?」
⸻
続く




