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第62話 殺鬼滅光!! 殺人鬼の行方

 

 眩い光が夕暮れの金識町を照らす。それに応える様に、夕陽の光もまた《ウィスプ》を照らし出した。


「見た目が変わったくらいで!!」


 その威圧感に抗うが如く《マーダーアトラム》は叫び、全身に巻き付いた腕を展開。《ウィスプ》へ掴み掛かる。

「なガっ!?」

 刹那、《ウィスプ》の全身から光の刃が突出。輝く剣山となった身体に突っ込んだ闇の腕が瞬く間に斬り刻まれる。

 だが《ウィスプ》はそんな事など意に介さない。ゆっくりと《マーダーアトラム》へ向かって歩き始める。

「このくらい!!」

 すぐに《マーダーアトラム》は腕を再生。手にしたナイフから無数の衝撃波を乱れ打つ。

 その全てが直撃、しかし《ウィスプ》の身体には裂傷も、焼け跡も刻みつけられない。


《錬生砲剣 フラグメントバスター》

《バスターキャノンサイド》


 《ウィスプ》はその手に巨大な銃を出現させる。自らの身長に迫る長さに加え、光竜を模した銃身が《マーダーアトラム》を睨む。

 側部の翼状のグリップを大きく引くと、砲口に光が集まっていく。斬撃の嵐の中を進みながら、《マーダーアトラム》へ静かに向ける。

(来るっ!!)

 その緩慢な動きを見切れない《マーダーアトラム》ではない。影へ潜行し、一瞬で《ウィスプ》の側面に回った。

 手にしたナイフが煌めく。後は無防備な首へその凶刃を潜り込ませるだけ。子供達を手にかける為、何度も繰り返して来た動き。

(どんなに偉そうなこと言ったって、所詮は!)


 ナイフが立てたのは身体を貫く鈍い音ではなく、空に溶ける様な澄んだ音。

「っ!? そんなっ、何が!?」


 刃は《ウィスプ》へ届かない。身体まで僅か数ミリ、壁の様な何かに阻まれて。


《チャージコンプリート》


 《マーダーアトラム》に生じた隙は、光が収束しきった銃口の狙いを向けるには十分だった。


《カンデラ・ブラスト!!》


「うわぁぁぁぁぁっ!!?」

 フラグメントバスターから放たれた光線は《マーダーアトラム》を吹き飛ばし、ガードレールへ衝突させる。それでも途切れることなく、ガードレールを突き破ってフェンスへ叩きつけた。


《カウントオーバー》


 直後、ガラスが割れる様な音を立てて《ウィスプ》の身体から光の破片が飛び散る。

(晶くん、バリアはここまで。でも太陽が沈んでない今なら)

「はい、分かってます光結さん」

 《ウィスプ》の背中に折り畳まれていた翼が展開。彼方から街を照らす夕陽の光が集まっていく。

「そう、か……それが……!!」

 《マーダーアトラム》はようやく気づく。今まで自分の攻撃が通じなかった理由に。


「狡い……狡いよそんなのぉ!!!」


 絶叫と共に放出される無数の腕。バリアを失った無防備な《ウィスプ》を囲む様に襲いかかる。

 対する《ウィスプ》はフラグメントバスターのグリップを2回スライド。銃口を天へ向け、トリガーを引く。


《チャージコンプリート》

《ルーメン・スプレッド!!》


 発射された光弾は空中で炸裂。光の剣となって分裂し、《マーダーアトラム》の腕を全て切断。

「また腕を、でも……あ、あれ……!?」

 切断された腕にエネルギーを送り込む。だが先程の様に再生できない。

「そんな……!!」

「僕は」

 絶望した声を漏らす《マーダーアトラム》へ《ウィスプ》は告げる。


「僕は、お前の行いを、お前のプライドを全部否定する! 全部否定して……お前を倒す!!」

「ひぃっ!?」


 小さな命をいくつも奪ってきた腕。小さな幸せを斬り刻んだナイフ。その全てを取り上げられた《マーダーアトラム》は芋虫の様に這いつくばりながら逃走を図る。

 《ウィスプ》はフラグメントバスターを投げ捨て、フラグメントゲートを力強く叩いた。


《リアナライズ・リアクション》


 翼に蓄えた光のエネルギーが腹部のクレストへ集結。巨大な竜の頭が具現化し、虚空を喰らわんばかりに顎門を開く。


《カンデラドラゴン!! ブライト・ザ・ストライク!!》


 竜の顎門から螺旋状のエネルギーが放たれた。腕を失い、恐怖から影に潜ることすら忘れた《マーダーアトラム》は、

「あああぁぁぁぁぁぁ!!?」

 成す術なく光に包まれ、激しい爆発へ姿を変えた。


「これが光の……晶くんと光結ちゃんの力……」

「……まだだ」

 立ち上がろうとしたユナカをザクロは制止する。爆煙の向こう側に立つ影が見えた為だ。


「は、はは……まさか……子供に殺されるなんて……」

 変身が解け、力無く立ち尽くすリシアだった。だがその顔はとても穏やかな、否、快楽に満ちた笑顔を浮かべていた。

「まぁいいや……それなりに楽しかったし……怪物のまま死ねるのは気分が良い……うぐっ!?」

「……」

 身体を震わせ、痙攣するリシアを《ウィスプ》は黙って見つめる。

「おめ、でとう……君は僕を殺してヒーローになった……僕と、同じ……うぅあぁ……!!」

 リシアの身体から黒い水晶が析出。そのまま身体が崩壊していく。




 事はなかった。



 黒い水晶だけがリシアの身体から剥がれ落ち、砕け散った。苦悶の表情が、呆然としたものへ変化する。

「え……?」

「言っただろ。全部否定するって」

 変身を解いた晶と光結。晶の目は何処か、悲しいものを見る色をしていた。

「僕は、君達に負けて……死ぬ……筈……?」

「死なない」

 晶の言葉を聞いても理解出来ない様子のリシアへ、光結がその真意を伝える。

「今の攻撃であなたの身体に埋められたフラグメントだけを破壊した。もうあなたはアトラムじゃない。ただの人間」

「…………は?」

「アトラムとして消滅させる事も出来た。でもそれじゃ、あなたは自分の罪に気付かないまま消える」

 光結は晶と違い、厳しい表情を向けて言葉を連ねる。

「消えて逃げるなんて許さない。裁かれなさい。1人の人間として」

「……ぁぁぁあああぁぁぁ!!!」

 錯乱し、頭と腕を闇雲に振り乱すリシア。何度も転びながら後退り、晶と光結から離れていく。


「許さない! 僕から、僕から何もかも……何もかも奪いやがって!! この報いは必ず……ぅぅ!!」


 走り去って行くリシア。晶は追わず、情けなくふらつきながら小さくなっていく姿を静かに見送っていた。

「警察には通報しておく。もう簡単には逃げられないと思うから」

「はい……お願いします、光結さん」

「……辛そう、だね」

 先程までとは違い、いつもの優しい口調に戻っていた晶。そんな彼の様子を見た光結は肩へそっと手を置く。

「きっと、あの人は変わらないんじゃないかって……自分が今までにした事は正しいんだって、これから先もずっと……」

「向き合うかどうかを決めるのは、あの人自身にしか出来ない事。でも晶くんは、その最後の機会を与えた。きっと私だったら…………誰にでも出来る事じゃない。晶くんは凄いよ」

「……ありがとう、ございます」

 倒れたユナカの元へ行き、ザクロと共に助け起こす晶。そんな彼を、ユナカは微かな笑みを浮かべて見ていた。

「晶くん」

「はい」


「ありがとう」

「っ……はい!」




(クソッ!! クソ、クソ!!)

 日がほとんど沈み、街が暗くなっていく。少し前までは何とも思わなかったパトカーのサイレンが、リシアの恐怖心を大きく煽る。

 アトラムになる前までは足がつかない様に殺人を実行していた為、遺体が発見されても特定まではされなかった。だがそれももうここまで。

(もう家には帰れない……もう一度、もう一度アトラムにさえなれれば……!)

 フローラは常に実験材料を欲している。身体を差し出すと言えば喜んで協力するだろう。ダルストンズのアジトへ向かうべく、暗い路地裏を懸命に駆ける。

 路地裏を抜け、土手を下り、高架橋の下を通ろうとした時、リシアは見覚えのある黒い影と出会う。

「君は、確か……」

「……」

 モルオンだった。足元に散らばった黒い結晶、そしてグラインドゲートとフラグメントを見た時、リシアは何が起きたのかを悟った。

「誰か……死んだの?」

「あぁ。ガーデル……いや君は名前だけじゃ分からないか。いつも気怠そうにしてた方」

「へぇ……っ、それだ」

 リシアはグラインドゲートへ駆け寄る。黒い結晶を足で払い、拾い上げた。

「まだ使えるんだよね、これ」

「……」

「僕がこれを使える様にしてもらう。いいだろ、仲間が1人消えたんだ。僕がそいつの代わりになる」

「…………」

 モルオンの返答を聞かず、リシアは踵を返す。フローラならば、ガーデルが使っていたグラインドゲートを自分用に調整する事が出来るだろう。使いこなせば、今まで以上の力を得られる。


「これで……今度こそあの2人、ぉっ!?」

 肉を裂く音、遅れて骨を砕く音が追いつく。リシアの左胸から、心臓を掴んだモルオンの腕が突き出ていた。


「なっ、で、ぁぁ、ぇぇ……!?」

「……やっぱり人間に戻ったんだ。どうしてかは知らないけど……良かったよ、同族殺しにならなくて」

 そのまま手を深く握り込むと、リシアの心臓は破裂。赤黒い果汁を滴らせ、拍動が止まる。

「君が役に立たなくなった事はまぁ仕方がないんだけど……タイミングと言葉選びが悪かったね」

 倒れ伏したリシアの後頭部をわざと強く踏みつけながら、モルオンはその場を後にする。


「さようなら。弱くて小賢しいだけだった、人間くん」




 最期まで何が起きたのかを理解出来ないまま、自らの罪に向き合う事もないまま、リシアは人間としてその生命を終えた。


 彼の凄惨な遺体が発見され、ニュースで報道されたのは、次の日の朝だった。



続く

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