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第63話 戦々恐々!! 新たな錬生術師の影

 

『……って感じだな。使い方、簡単だろ?』

「うん。次はいつ遊べるのかな?」

 日が傾き始めた時間、透はアーティフィスヴィトロガンの使い方をレヴァナントから教わっていた。子供の透が持つにはあまりに大きすぎる異形の銃を、一度黒い霧状に分解してレヴァナントの中に仕舞い込んだ。

『すぐに遊べるぜ。……っと、誰か来たな。一旦引っ込むわ』

 レヴァナントがベッドの中に飛び込むと同時に、個室のドアが開かれた。

「透くん、面会だよ」

 いつも透の世話を焼いてくれる看護師の女性。その後ろから姿を現した人物を見た透は首を傾げた。

「ん……?」

「あれ、知らないの?」

「すみません、透くんのお友達の代理で来たので」

「あ、そうなんですね。それでは私はこれで。透くん、またね」

 看護師が去ると、その人物は透へ歩み寄り、カーテンを閉める。


「お姉さんは、どちらさま?」

「ごめんね。私が用事あるのは君じゃなくて……」

『俺、だろ? 風の錬生術師』

 ベッドの隙間から飛び出したレヴァナントへ、翡翠はあるものを差し出した。

『え、何このクリアフラグメント?』

「まずは話をさせて。あって困るもんじゃないよね」

『いや、お前から俺に話があるって時点で十分面白いからいらねぇよ』

 レヴァナントは翡翠の目の前まで浮かび上がり、笑いながら黒い霧を溢す。

『ま、話に乗るかは内容次第だ。どんな面白い話をしてくれんだよ?』

「あんたに協力して欲しい事がある」

 翡翠はレヴァナントの中に隠されたもの、アーティフィスヴィトロガンを見ながら話し始めた。

「それの性能テストも出来るんじゃないかな、多分」




「……実験は無事に成功したようだな」

 自らの背後に並び立つ人影達へ、ラプラスは顔を向けずに語り掛ける。

 人影は4つ。いずれも外套を身に纏い正体を隠しているのは、ラプラスの言う実験による消耗が未だ完全に癒えていないことを表していた。

「報告は後でいい。5時間後にアーティフィスヴィトロガンとフラグメントを渡す。それまで体力の回復に努めてくれ」

 この言葉に、人影達は無言で去って行く。言葉を発する体力すら残っていない身体を引き摺るように。

 だがただ一人、去らずにラプラスを見つめ続ける影を除いて。

「余程強靭な精神力を持っているようだが、それを発揮するのは5時間後にして欲しい」

「……私だけ、先に行かせて欲しいのですが」

 虚な声で告げた言葉に対し、ラプラスはあるものを掲げて見せた。

 無機質な白いキャップで封じ込められたフラグメント。漂う結晶は、炎のフラグメントに似ていた。

 それを見た人影は、自らの頭を覆う外套を捲って見せる。


 彼の右眼には、生まれつき持っていた小さな紋章。そして左眼には、実験で得た新たな紋章が赤く輝いていた。


「さすがは炎の錬生術師の力。何か特別な能力が発現しているのか」

「私はあくまで贋作。欠けた偽りの炎ではありますが」

 身体のふらつきはいつの間にかなくなり、外套をその場へ脱ぎ捨てた。石灰のように白い身体に浮かび上がる無数の記号と、青白いフラグメントのエネルギーの奔流。


「私には見たいものがある。欠けたこの力を埋める……怒りと……その裏に秘められた、愛。実験の中で見た炎の本質」


 自分にはない何かを求める様に、左手で自らの胸を、右手で目の前の宙を握る。


「このベリルは欲しい。炎の師弟の、絆が」




「…………」

「……光結ちゃん、そんなに見なくても今日は何もしないよ」

 ジュエルブレッドのイートインスペースから監視カメラの如く睨みを効かせる光結を、ユナカは困惑した表情で見つめ返す。

「パン屋のお兄さんは目を離したらすぐに無茶をするって青いお姉さんが言ってた。ちゃんと休むまで見張ってる」

「学校は……」

「臨時休校。最近の騒ぎ……アトラムの所為で。女子校だからそういうのに敏感なんだ」

「なるほどね」

 光結の傍で山と化した課題を見たユナカは頷く。そんな彼女へのプレゼントを届けるべく、菓子パンが乗ったトレーを手に取った時だった。


 トレーが床に落ちる乾いた音。それに続くパンが転がる音。


「お兄さん」

「ごめん、手が滑った」

 ユナカは焦る様子も見せずにそれらを拾い上げ、片付ける。

 だが光結は見逃さない。彼の手には亀裂が入り、物を掴むことなど到底できないほどに震えている事を。

(これじゃ、大好きなパン作りは……)


『ゴァッ!! ゴァッ!!』


 その時、カウンターのカラスが騒ぎ出した。視線を向けた2人へカラスが告げたのは、奇妙な言葉だった。


『ナ……ナンカデタ! アトラム……ッポイノ、カモシレナイモノ、デタ!!』

「アトラム……っぽい?」

 戸惑いながらも飛び出そうとするユナカの前に、光結が立ち塞がる。手にはスマートフォンが握られていた。

「刑事さんに行ってもらう。お兄さんは休んでて」

「……琥珀くんなら、大丈夫、か」

 デーモンハートの完成を急がなくてはならない。だが今の状態では足を引っ張るどころか、制御に失敗して周囲へ被害を出す可能性すらある。光結の言葉に従い、ユナカがカウンターへ戻ろうとした時だった。


「ごめんくださぁい」


 店の扉が開かれる。そこから覗いた顔、その眼に刻まれた紋章を見たユナカと光結に戦慄が走る。


「お店……やってます?」


 左眼に浮かんだ炎の紋章を見せつけ、ベリルは粘つく様な笑みを浮かべた。



続く

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