第45話 属性衝突!! 反撃の狼煙
景色が再び闇へと戻る。
晶は自身の手を見る。糸がほつれる様に光へ変わっていた。
だが以前のような焦りはない。晶は最早、ここから出る事を考えてはいなかった。
(僕が本当にやらなきゃいけないことは……!)
抱きしめられ、取り込まれていく身体。それに抗わず、むしろ中へと進んでいくように身を委ねる。
(この人を……助けること……!!)
自分は錬生術師ではない。誰かを助けられるような力はないかもしれない。
でも自分が知る人達なら、きっとこうする。
完全に取り込まれた晶の魂は少女、白刃の中へと入り込む。
あの時見た過去の光景が再び広がった。白刃が大切にしていた財布を追い、学校の屋上から飛び降りたあの瞬間。晶はその背を追って共に飛び降りる。
必死に伸ばした手が白刃に届く刹那、彼女の顔が僅かに晶の方へと振り向いた。
「その技術は認めよう」
《エレメンタルレイス》の姿を見た《アンフィス》は賛辞を贈る。彼が生きていた時代でも、多属性の同時制御を形に出来た錬生術師は存在しなかった為だ。
「だが、それで私を倒せると思っているなら甘いな」
光を纏った《アンフィス》の足が地を蹴る。瞬間移動にも等しい速度で《エレメンタルレイス》へ迫る。
《サモンリアクション テラ・ノーム》
しかし《アンフィス》が振るう拳が《エレメンタルレイス》に届く事はなかった。地中から飛び出した大地の精霊がその身を挺して防いだのだ。
《サモンリアクション イグニス・サラマンダー》
《サモンリアクション ヴェントス・シルフィーネ》
続いて炎の大蜥蜴と風の妖精を召喚。風の息吹を喰らった大蜥蜴は業火を《アンフィス》へ吐きつける。
「これ、は……!」
黄金の装甲に焼け跡が刻まれる中、業火の中からイリガルヴィトロガンを発射。大蜥蜴と妖精を怯ませると、一度飛び退いて距離を取った。
「水の錬生術師の末裔が、これをやるか!」
取り出したアルゲントゥムワイバーン・フラグメントとアウルムワイバーン・フラグメントをステラゲートへ装填。
《アルゲントゥム・ワイバーン!!》
《アナライズ》
《アウルム・ワイバーン!!》
《アナライズ》
《デュアルリアクション アルゲントゥム アウルム アルケミックマルチプルストライク》
《アンフィス》が拳を地面へ突き刺すと、金と銀の飛竜が出現。《エレメンタルレイス》へ迫る。
《サモンリアクション アクア・ウンディーネ》
それに対し、《エレメンタルレイス》は水霊を呼び出す。そして、
《フュージョンリアクション イグニス プラス テラ》
《フュージョンリアクション アクア プラス ヴェントス》
フラグメントエクステンダーが輝きを放つ。
《イラプション・ライダー!!》
《ハリケーン・デュオ!!》
黄金の飛竜を、炎の大蜥蜴に跨った大地の精霊が。銀の飛竜を、水霊と風の妖精が放つ嵐が。それぞれ迎え撃った。
「何……!?」
《アンフィス》はその技を理解した。理解したからこそ、本来あり得ないその技を見て絶句した。
「同時制御に加えて、融合制御を……!」
この装置とフラグメントを生み出したザクロの脅威。否、理論の構築や実現方法自体は《アンフィス》も理解出来るもの。才能と経験さえ備わっていれば作り出せる。
真に脅威なのは、それを理論上のみに留めている制御の問題を意に介していない、灰簾の存在。
「見誤ったか……!」
イリガルヴィトロガンで弾幕を張りながら、《アンフィス》は《エレメンタルレイス》へ接近。
「一気にケリをつける!!」
「っ!」
対する《エレメンタルレイス》は、その手にヴィトロスタッフに代わる新たな武器を生成。
《錬生分離器 フラグメントシェイカー》
杖状ではあるものの、その先端には4つのホルダー、そして槍の穂先の様な刃を備えている。
フラグメントシェイカーを振るうが、刃を潜り抜けるように回避した《アンフィス》の拳が《エレメンタルレイス》の胸へ刺さる。
「うっ!?」
「はぁっ!」
続いて掌底が迫る。
(やっぱり接近戦は、無理!!)
《エレメンタルレイス》は自らの足に風を纏い、一気に飛び上がる。引き離されまいと《アンフィス》も跳ぼうとするが、
『モギュッ』
『キヒヒ』
「ちぃっ!」
それを阻むように、足へ大地の精霊と風の妖精が纏わりつく。その一瞬の遅れで追いつけないと判断した《アンフィス》はそれらを振り払う。
《リアナライズ サードタイム》
全てを終わらせにかかる。
《E リアクション!!》
《エレメンタルレイス》も迎え撃つべく、フラグメントゲートを開閉。額と手の甲のクリスタルの輝きは4つの輝きを放ち、召喚された4体のフラグメントモンスター達が融合。
炎の角、水の尾、土の甲殻、風の翼、4属性エネルギーを宿した核を持つドラゴンへ姿を変える。
《アンフィス》は背中に格納された光の翼を開き、身体にも同じような光を纏う。その姿を光の竜へ変え、《エレメンタルレイス》へ突撃。
《エレメンタルレイス》が召喚したドラゴンは胸の核を輝かせ、口から4色のエネルギーを吐き出して迎え撃った。
光の竜となった《アンフィス》はエネルギーの中を突き進み、ドラゴンと衝突。巨大な爆発が空中で炸裂する。
「灰簾さん!」
「灰簾ちゃん!」
琥珀と翡翠が彼女の名を呼んだと同時に、《エレメンタルレイス》が地面を削りながら着地。大きなダメージではないものの、身体の至る所から煙が上がっている。
「どう!? あいつ倒せそう!?」
「……今のままじゃ厳しい」
《エレメンタルレイス》は、手にしたフラグメントシェイカーを見つめる。
「私が1人で扱える属性じゃ限界がある。私達……4人の力が必要」
「4人……でも……」
「炎のフラグメントはどうするつもりだ」
琥珀が言おうとした先を、煙の向こうから現れた《アンフィス》が続けた。
「確かにその力、私と対等に戦うに足る。だがそれだけだ。そこから先へ行く事は叶わない。行き止まりの力に過ぎない」
その言葉の意味を示すように、《アンフィス》が纏う光の強さは増していく。
「だが私は違う。私の力に果てはない。たとえ今この時が対等であったとしても」
「倒す事は出来ない」
だが更にその先の言葉を遮る者が現れた。
「炎の錬生術師の弟子……」
「確かに言う通りだ。《エレメンタルレイス》の本当の力は4属性のフラグメントが揃った時に真価を発揮する」
ザクロは自らの目を指差す。《アンフィス》は嘲るように小さく笑う。
「まさかとは思うが、貴様が炎の役割を務めるとでも?」
「馬鹿を言うな。私はもう現役引退済みだ。それは私の弟子の仕事だ」
「……何を言っている」
気でも違えたのか。そう問おうとした《アンフィス》の目の前を、一欠片の灰が通り過ぎる。
戦いの前に握り潰した《リーパー》の残滓。最初はそう考えたが、ある違和感に気づく。
灰の端が、燃えている。
「何故……炎が……」
「これって……」
「なにこれ、うわぁあっちぃ!!」
「炎が……!」
3人の声がする方を向く。炎を灯した灰が、風に乗って雪のように降り積もっていた。
その光景を見ている中で、唯一ザクロだけが笑っていた。
「ユナカは……そんな簡単に死ぬような奴じゃない」
《RE BURN!!》
山のように積み重なった灰が、一気に爆発。周りにいる誰もが目を瞑るほどの爆炎が逆巻き、4人と《アンフィス》の間に1つの影が舞い降りた。
「馬鹿な!! どういう、事だ!?」
「あの時、言った筈だ」
《業火絢爛!! Re バースト!!! イグナイト・リーパー!!!》
「ここで終わる気はないって」
《イグナイトリーパー》は帰還した。《アンフィス》ですら予想出来なかったこと、自らの死を乗り越えるという試練を乗り越えて。
続く




