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第46話 光戦決着!! 輝く心が紡ぐ先へ

 

 晶は少女、白刃しらば光結みゆの生い立ちを全て見た。

 

 両親の顔を知らず、養護施設で育てられてきた彼女。しかしそこで共に暮らしてきた血の繋がらない家族達と助け合い、名門進学校である金敷女子中学校へ入学する事が出来た。だから自分が不幸だと思ったことなど無かった。


「光結」

 そんな光結の宝物。それは自分が姉と慕う女性から誕生日プレゼントとして貰ったクマの財布。

「これに貯めるのはね、お金だけじゃない。光結の幸せも貯めるの。辛い事があった時にそれを開けば、きっと乗り越えられるから」

 その言葉を信じてきたからこそ、努力し続けてこられた。


 だがそこから先、光結は自分の運命に打ちのめされることとなる。


 中学校の雰囲気に馴染めず、それを誤魔化す様に勉強に励み続けた結果、上がっていく成績と引き換えに周りから嫉妬の視線を向けられることになる。

 光結は自分が他人と良い関係が築けないことに気づいていた。それ故、無自覚に傷つけないようにクラスメイトと距離を取っていたつもりだった。だがそれはクラスメイトの目に、自分の能力を鼻にかけて見下していると映っていたのだ。

 根も葉もない噂を流され、嫌がらせは日を追うごとに苛烈さを増していく。追い詰められる度にクマの財布を少しだけ開き、また閉じる日々。壊れかけていく心をどうにか繋ぎ止めることが出来ていたが。


「私は」


 光結はクマの財布を開く。自分の心が死んだあの日、それまで光が詰まって見えた中身は空っぽだった。地面に叩きつけられて肉体が死に近づく中、壊れた心の気配を嗅ぎつけたアンフィスにより身体を乗っ取られ、傀儡と成り果てた。


「きっと幸せになれない運命なんだ。それを、受け入れるしか……」


 クマの財布を閉じようとする。そんな光結の手を、小さな手が止めた。


「受け入れることは……諦める事じゃないと、思います」

「っ……」


 晶は光結へ語りかける。あの時とは違い、晶の言葉は彼女へ届いていた。

「私も……君の過去を見たよ」

「僕の……」

「とても、幸せに見える。だからきっと私の気持ちは分からない……」


 光結の言う通りだ。光の紋章が覚醒するまでの間、晶は何不自由なく、人並みの幸せを享受して生きてきた。それだけではない。力が覚醒してからもユナカ達に守られて来たからこそ、ここまで来れた。

 今まで、自分ひとりの力で何かを成し遂げたことなどない。


「僕は……きっとあなたの苦しみの全ては分からないかもしれない……でも」

 晶は光結の手を握り、閉じかけたクマの財布を再び開く。

「幸せを見つける事なら、僕にも出来ます」

「あっ……!」


 クマの財布の隅。そこには小さな、本当に小さな光が残っていた。


「光結さんが本当に諦めていたら、もうここに心は残っていなかった。この中に貯まった幸せが、あなたを繋ぎ止めたんだと思います」


 宙に浮いた2人の身体はあの日の様に惨たらしく地面に叩きつけられることなく、地上へ静かに降り立つ。


「また少しずつ、幸せを貯めていきませんか? 頼りないかもしれないけど、僕も手伝いますから。こんな大変な事に巻き込まれちゃった者同士」

「……うん」


 涙交じりの返事と共に、光結の顔には小さな笑みが浮かんでいた。





「砕け散った人体の再生……禁忌に近い技を成し遂げたのは驚いたが」

 《アンフィス》の身体から光が溢れ出していく。

「既に童の魂は融け、私は完成しつつある。それだけのエネルギーを使ってなお、私と戦うだけの力が残っているのか?」

 《アンフィス》の足が一歩踏み出される。彼の言葉は真実だ。今の《イグナイトリーパー》は再生にほとんどの力を使い果たし、力を増していきつつある《アンフィス》と戦うにはあまりにも不十分な状態。その証拠に彼が纏う炎は不安定に揺らいでいる。

 本来ならこの後に来るであろう《アンフィス》の高速移動にも対応出来ない、筈だった。


「なっ、ぐぉっ!?」

 内側から溢れ出していた光が突如として弾け、《アンフィス》はそのまま崩れ落ちた。

 見れば自らが纏う黄金の装甲が、まるで色が抜け落ちていくように燻んでいた。

「なん、な、何が……!?」

「……ふふ」

 唐突にザクロが失笑する。

「どうやら状況が傾きつつあるようだねぇ」

「まさか、馬鹿な!? なぜ魂の融解が止まった!? それどころか……がぁっ!!」

 《アンフィス》の身体から光条が迸る。エネルギーが増大しているのではない。

「力が、抜け……!?」

「アンフィス」

 《イグナイトリーパー》は、残された炎の全てを身体に纏う。


「お前の中でまだ……晶くん達は生きている! 返してもらうぞ!!」

「ほざくなぁぁぁ!!」


 飛翔する《イグナイトリーパー》、駆け出した《アンフィス》がぶつかり合った。

 炎と光のぶつかり合い、それは最初こそ拮抗して見えたが、

「はぁぁぁ!」

「ぬ、ぐぁう!?」

 光の拳を躱すと同時に放たれた炎の蹴りが《アンフィス》の側頭部を捉える。揺らいだ身体へ更に《イグナイトリーパー》の両足が突き刺さった。

「うがぁぁぁ!?」

 地面を抉りながら吹き飛ぶ《アンフィス》。すぐさま立ち上がり、光を生み出そうとするが、

「光が、収束しない……!! こんなことが……!!」


《アクアウンディーネ シングルアクション!》


 《エレメンタルレイス》はその間にフラグメントシェイカーのホルダーへ、アクアウンディーネのフラグメントを装填。

「2人とも、フラグメントを貸して!!」

「はいっ!」

「任せた、おりゃあ!!」

 そして琥珀と翡翠から託された2本のフラグメントを装填する。


《テラノーム ダブルアクション!!》

《ヴェントスシルフィーネ トリプルアクション!!!》


「妙な真似を!!」

 それを見た《アンフィス》は怒号と共にイリガルヴィトロガンを構える。

「させるかぁ!!」

「それはこっちのセリフだ!!」

 しかしそれは《イグナイトリーパー》の踵落としによって地面に叩き落とされ、勢いそのままに旋風脚を打ち込まれる。

「がっ!? 貴様ぁ!!」

 反撃に打ち出した《アンフィス》の光の掌底が《イグナイトリーパー》の胸部へ命中。吹き飛ばしはしたものの、命中する直前で光が消え、その威力は致命に至らない。

「何故だ…………童ごときが、こんな足掻きを……!?」

「晶くんは確かに子供だ」


 立ち上がろうとした《アンフィス》へ、《イグナイトリーパー》の翼が羽ばたき、生まれた炎の衝撃波が襲いかかる。

 もはや防ぐだけの反応も出来ず、煽られた《アンフィス》は地に膝をつく。だが同じように力を使い果たした《イグナイトリーパー》も地に手をついた。


「だけどお前より強い!! お前の身体に起きている変化がその証拠だ!! 晶くんの魂は屈しなかったんだ!!」


 《イグナイトリーパー》は空になった自身の奥底から更に炎を滾らせる。消えかけた炎が、彼の魂を燃料に再び煌々と輝きを放つ。周りの雨が蒸発するほどの熱量。

 フラグメントゲートを開閉、その直後に自らのイグニスサラマンダーフラグメントを背後へ投げる。

 それを《エレメンタルレイス》が、フラグメントシェイカーのホルダーでキャッチ。


《イグニスサラマンダー クァトロリアクション!!!!》


 そして手元のトリガーを引く。ホルダー部が4つの残光の軌跡と共に高速で回転。エネルギーが分離、混合、圧縮されていく。


《フラグメント セントリーフュージョン!!》


 光はフラグメントシェイカーの穂先へ移動。刃は未だ回転し続ける光を纏い、虹のように辺りを照らす。


「目障りな光が……!!」

 自身の目の前で放たれる2つの光。自らの身体から溢れ続ける光。その全てが《アンフィス》にとって不愉快なものばかり。

 光は、自分のものだけであるべきだ。

「私を照らすな!! 消え失せろぉ!!!」


《リアナライズ サードタ……》


 しかしステラゲートは遂に輝きを失う。

「ば、かな……!?」



 《イグナイトリーパー》が飛翔。同時に射線が開いた《エレメンタルレイス》がフラグメントシェイカーを振り下ろした。


《クァトロフラグメンツ アルケミックスパイラルグラップ!!》


 刃から伸びた4光のエネルギーは巨大な手へ姿を変え、《アンフィス》の中心へ侵入。



 晶と光結が立つ空間に亀裂が走り、やがて4光の手が突き破って現れる。

「何あれ!?」

「……行きましょう!」

「あ、あれに!? 怖いよ……!」

「大丈夫です! 一緒なら!!」

 光結の手を引き、晶はその手へ迷わず飛び込んだ。


「うわぁぁぁ!?」

「ここから抜け出せる!!」



「あ、がぁぁぁぁぁぁ!!?」

 《アンフィス》の中から、手に掴まれた晶と光結が飛び出した。宙を舞う2人の身体を《エレメンタルレイス》が抱き止めた。


「ぁぁぁ……私の、身体……核が……!!」

 《アンフィス》の姿は以前の、否、黄金の光すら失った漆黒に堕ち、力の象徴である装飾の一切が消失する。それは彼から戦う力のほぼ全てが消えた事を意味していた。

「ふざけるなぁぁぁ!!! 私は、これからだったというのに……私の身体を返せぇぇぇ!!!」


《クリティカル リアクション!!》


「っ…………」


 《アンフィス》の怒号は、空を見上げた瞬間に彼自身の絶望に呑まれる。


 巨大な翼を広げ、その右足底の刃に炎の結晶を纏った《イグナイトリーパー》が目前まで迫っていた為だ。


「俺達の……勝ちだ!!」


《サラマンダー・フェニックス!! アルケミック・イグニッションブレイク!!》


 抵抗しようと拳を振り上げようとした《アンフィス》だったが、それより早く《イグナイトリーパー》の蹴りが突き刺さる。


「ガっ……!?」


 空っぽになった《アンフィス》の中へ全ての炎を叩き込み、そのまま一気に蹴り抜いて吹き飛ばした。


「私の……身体……未来……光……ぬぉぉぉぁぁぁ!!!」


 《アンフィス》は地にその背を着ける寸前で、



 巨大な爆炎へその姿を変えた。




 雨が止み、雲の切れ間から差し込んだ太陽の光が皆を照らす。

「お……おぉ……!? もしかして……!!」

「うん、アンフィスは……!」

 煙が止んだ先、そこには砕け散ったステラゲートの破片が転がっていた。

「い……よっしゃああああああ!!! アンフィス、撃破ぁぁぁぁぁぁ!!!」

「なんとか、なったね……って痛い痛い痛い!!?」

 怪我をした琥珀の肩を叩きながら翡翠が歓声を上げる。それを聞いた晶は、自分達を抱き止めた灰簾を見上げた。

「あ、の……?」

「お疲れ様。アンフィスを倒せたのも、女の子を助けられたのも、晶くんがいたから出来たんだよ。ありがとう」

「はい……っ」

 緊張が解けたのか、晶は光結と共に深い眠りへ落ちていった。


「まったく、今回は無茶ばかりしたなぁユナカ」

 ザクロは変身が解けたユナカへ歩み寄り、自分より遥かに大きい彼を背負う。

「最大出力のフラグメントエネルギー、その余剰分を使って砕けた肉体を再構成、おまけに自分の魂の一部を燃料にして再変身と戦闘分のエネルギーの確保。教えてもいないのによくやったものだ」


 僅かに開いていたユナカの目が閉じる刹那。彼の目の紋章を見たザクロはある事に気づく。

 しかしそれを口にすることはなかった。


(アンフィスはもう脅威でなくなった。本当の戦いはこれからだ)



『うっ、ぐっ……!!』

 アンフィスは自らの魂をフラグメント・Vへ移し変え、離脱していた。しかし彼の輝きは今にも失われそうなほどに弱々しい。

『この際、器は選ばん……! 回復を急がねば』

「ゲッチュ!」

『ぐぅ!?』

 しかし宙を舞うアンフィスを掴み、拘束する影が現れる。その正体を見たアンフィスは絶句する。

『シャー、マ……!?』

「今はその名前じゃねぇって言っただろ」

 それは変身した《レヴァナント》だった。

「いやー残念だったなぁ、せっかく俺と相棒がお膳立てしたのに負けちまったか! ま、こっちはいいもん見れたから良いんだけどな」

『離せ! 貴様に構っている暇は、なぁぁぁ!?』

 言葉の先を待たず、《レヴァナント》はアンフィスの魂が入ったフラグメント・Vを握りしめていく。アンフィスの悲鳴と鈍い音を響かせながら徐々に亀裂が走る。

 これが砕ければ無論、アンフィスの魂は完全にこの世界から消える。二度と復活することは叶わない。

「頭が良いから分かってんだろ。お前は彼奴らに負けた。言い訳できねぇくらいに完全敗北だ。もうお前のストーリーは終わったんだよ」

『や、やめろ……よせ……!! 貴様はソウリストゲートに興味はないのだろう!? ここで私を消して何の益が貴様にある!? 私が辿り着けば、貴様が望むもの、もぉぉぉ!!?』

 亀裂は遂に全てを覆う。隙間からアンフィスの生命である光の粒子が漏れ出した。


『まだ、だぁ……まだ私は、終わってないぃぃ……!! 私こそが、私だけが、ソウリストゲートにぃ……!』


 そこから先の言葉は続かなかった。《レヴァナント》は最期に一際強く手を握り込み、アンフィスの魂もろともフラグメント・Vを粉砕した為だ。

「中々いい最期だったんじゃねぇの? 悪役の末路にしちゃあな。これにて一件落着、このエピソードはハッピーエンドってわけだ」

 手に付着した破片と粒子を払い、《レヴァナント》は語りかける。


「で? 次のエピソードを早く観てぇんだけど何すりゃいい?」


 一部始終を見守っていた人物へ。その人物は《レヴァナント》の元へ歩み寄っていく。

「自由にしてくれて構わない。協力に感謝する」

「そうかよ。とりあえずこのかっちょいいヴィトロガンは貰っておくぜ」

 《レヴァナント》はアンフィスの遺品であるイリガルヴィトロガンを取り上げ、協力者へ背を向ける。

「俺達はソウリストゲートなんざ1ミリも興味ないが、適当に応援しとくよ。また楽しそうなことがあれば絡むからよろしくなぁ」

 そう言い残し、《レヴァナント》は姿を消した。


「これでようやく、私達の計画が実行できる」


 協力者 ── 時計の仮面を被った男は独白する。



「まずは初代炎の錬生術師の遺産……ソウリストゲートの鍵の完成に動かなければ」




続く

Next Fragment……


《ルクスドラゴン レフト》

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