第40話 怪変胡乱!? 進化の代償
「この、パワー……!」
ひしゃげた車を押し除け立ち上がる《ファントム》。だが《ガーデル》の猛攻は続く。
「おりゃーもう一発」
右腕の戦斧を振り下ろす。受け止めようとした《ファントム》だったが、強烈な圧を感じて咄嗟に回避。刃が喰らい付いた車は粉々に粉砕、砕け散った破片が《ファントム》の身体に弾かれる。
「まともに喰らうのはダメだ……」
「そのとーり。でも刑事さん、俺と一緒で鈍臭いからさ」
《ガーデル》は戦斧を嵐の様に振り回しながら跳躍。その高さは歩行者信号程だが、落下のエネルギーを伴った一撃は《ファントム》へ直撃。
「がぁぁぁ、ぁぁっ!?」
堅牢な土の装甲が大きく抉れ、後方へ吹き飛ばされた《ファントム》は市営バスへ激突。
『ドアが閉まります、ご注意下さい。ドアが閉まります、ご注意下さい』
「あらぁ? なんか耐えてるし。硬すぎ〜」
《ガーデル》は左手の爪で鼻と思しき箇所をほじるような仕草を見せる。
直後、市営バスが内部から爆裂。中から《ファントム》が姿を現す。
《カーボン・ゴーレム!! さぁ、レボリューションの始まりだ!!》
する両腕にはゴーレムを想起させる巨大な拳、肘から噴射口が突出した装甲を纏っていた。
「避ける戦い方は、僕には難しいから!」
噴射口は黒煙を吐き、《ファントム》を突進させる。両腕を用いたパンチが《ガーデル》へ突き刺さった。
「おっふ!? ……いったぁ」
しかし《ガーデル》は一切退かず、巨大な角を頭突きのように返した。
「がっは!?」
《ファントム》は後ずさるが、すぐにフラグメントゲートを開閉。
《クリティカル リアクション!!》
噴射口が吐き出す黒煙は勢いを増す。《ファントム》は両腕を突き出した構えを取ると、右足を引き、腰を深く落とす。
《ノーム・ゴーレム!! アルケミックストライク!!》
そして両腕の装甲を発射。ロケットの様に飛翔する拳は《ガーデル》を狙い撃つ。
「おっと」
《ガーデル》は頭と戦斧を用いてそれを受け止めた。両足が地面に刺さりつつも、
「ほいっ!!」
2つの拳を弾き飛ばした。
「はぁ、はぁ……これでも、ダメなのか」
《ファントム》はよろめき、遂に変身が解除される。今までのダメージが蓄積した結果だ。それを見た《ガーデル》は挑発する様に腰を左右に振って見せた。
「これは勝ち確って奴だろ〜。じゃあこのままフィニッ……」
「……っ?」
そこから先の言葉は続かなかった。硬直した身体から大量の黒い泥が溢れ出したかと思うと、《ガーデル》の姿は人間の擬態まで戻ってしまったのだ。
「い、いやさ……デメリットなしとは思ってなかったけど……」
そのままゆっくり後ろへ倒れた。
「時間、短くねぇ……?」
「っ、く……!」
トドメを指す絶好の機会。だが琥珀が負った傷は、再び立ち上がらせる事を許さなかった。
「あっはははははは!! おら消え失せろ錬生術師ぃ!!」
無差別に降り注ぐ光弾と光線の豪雨。瓦礫の影から出られない《スピリット》は歯噛みする。
(こりゃ、無理にでも行かないとダメだ)
懐からフラグメントを取り出す。それはユナカから預かった《フェルム・アルミラージ》。
「そりゃあ!!」
《フェルム・アルミラージ!! オールマイティジャンプ、決めて魅せろ!!》
《スピリット》の右足にウサギの顔と角を、左足にギアとシャフトを備えた装甲が合体。同時に勢いよく飛び出した。
「出た出た! 死ね死ね死ね死ねぇ!!」
無差別だった攻撃は《スピリット》へ集中。僅かな隙間を、空中に生成した空気の足場を蹴りながら潜り抜ける。そして一瞬、《セレスタ》への道が見えた。
「ここだぁぁぁ!!!」
ヴィトロガンとフラグメントマグナムを空気の足場へ発射。加速しながら飛翔した。右足の角、そして高速稼働するギアとシャフトの左足底部に竜巻を纏う。
《シルフィーネ・アルミラージ!! アルケミックストライク!!》
《スピリット》は《セレスタ》へ両足で蹴りを喰らわせた。渦巻く風の刃は寸分違わず彼女の中心を捉えていた。
だが、
「ザァァァコ!! 効かねぇよバカ!!」
「うぇっ!?」
《セレスタ》の踵落としが《スピリット》の腹を打ち、地面へ落下。フラグメントが外れ、変身が解除される。
「あっちゃぁ……やばい」
「はっ! こんな雑魚に今ま ──」
次の瞬間、《セレスタ》は大きく痙攣。身体から大量の黒い泥を撒き散らしたかと思うと、同じ様に地面へ落下した。
見れば人間の姿に戻り、口からも黒い液体が流れ落ちていた。
「あのカス人形……出来損ない、渡しやがってぇ……!!」
そのまま意識を失い、動かなくなった。翡翠はその光景を這いながら見ていることしか出来なかった。
「なーんも……分からん……」
荒れ狂う大蛇は毒を吐き散らし、霧を周りに散布。《レイス》はヴィトロスタッフから水流を放ち、追い討ちのごとくヴィトロガンで射撃。
だが水流は勢いを失い、《モルオン》に辿り着く頃には水鉄砲と見紛う程度の威力、ヴィトロガンの弾丸に至っては霧を越えられずに消え去ってしまった。
「イヤァッホォォォウ!!」
突如、毒霧の中から《モルオン》が飛び出し、強靭な爪を振り下ろした。《レイス》は滝の様に水を降らせて障壁を形成するが、それすら布を裂くように破壊。
「ぐぅっ!?」
ヴィトロスタッフで受けた《レイス》だったが、大きくよろけてしまう。直後に尾の蛇から毒液が噴射。
《レイス》は倒れる事を覚悟で前方へ一気に水を噴射。跳ね飛ばされる様に後方へ飛び、的を失った毒霧はアスファルトの道路をグシャグシャに溶解させる。
「このままじゃ……」
懐からフラグメントを取り出す。《マグネシウム・ケルベロス》をフラグメントゲートへ装填しようとする。
「そんなんじゃ変わんねぇよ」
しかしそれを見た《モルオン》は嘲笑う。
「ここで水の錬生術師をやれるのはでけぇ。このまま一気に……」
と、そこまで話した《モルオン》が急に黙り込む。
異変に気づいた《レイス》がフラグメントゲートに手をかけたまま硬直していると、《モルオン》は突然変身を解除したのだ。
「……何のつもり?」
「これ以上は危ないからね。上手く使えば君達を何とかできることも分かったし、目的は果たしたからもうおしまいで良いと思って」
見ればモルオンの口の端からは黒い液体が流れ出ていた。
「ここで私が逃すとでも思うわけ?」
「逃げるだけなら簡単だよ。それに、しばらく君達は僕達に構ってる暇なんてないだろうし」
そう言って《レイス》に背を向ける。
「1つだけ言っておく。光の錬生術師を本気で倒したいなら、手段は選んでいられないってことを」
「っ、それってどういう……!?」
同様の隙を突かれ、《レイス》はモルオンが霧の様になって逃走する事を許してしまった。
変身を解いた灰簾は疲労からその場に座り込み、《モルオン》の言葉を反芻する。
「手段……光の錬生術師を倒す為の……」
続く
 




