大殺戮
これから、自分が何をしようとしているのか
考える....
橋の上に何人居るのかは不明だが、
これを行うことで”全員が死ぬ”かもしれない
(回避する手段は?)
従来の計画では、この橋桁の下の
アーチの鉄骨上で網のロープを切った後、
川の中に飛び込み、船に拾われる手筈だ....
今思えば、そうとう呑気な事を考えていた。
しかし、相手はボウガンを持っている
この場合、逆上した相手がボウガンで
狙い撃ちするだろう。
自分以外の仲間たち、つまりは
リナとリサとジジイが危険に晒されてしまう
拳銃で連中を脅して言うことを
聞かせるか?
いや、自分の持つ警察用リボルバーは
装弾数がたったの5発だ。
相手が複数のボウガンを持っている場合、
戦うことを選ぶ可能性が大だ。
負けてしまった場合、やはり他の仲間たちにも
攻撃が及ぶだろう
しかし、これから行うことは、最悪の場合でも
”自分が死ぬ”だけだ。
そして、相手を確実に全滅させる自信があった
「そもそもが、
こちらを殺す気マンマンな相手を
気に掛けてやる必要はあるのか?
海賊といい、この橋の連中といい、
俺は何の躊躇もなく殺せるぜ」
結局のところ、答えはそれだった
ヨッシーは素早く覚悟を決めた。
そして振り向くと、こう言った
「俺は、これから大量殺戮者になるつもりだ
リナ、リサ、ここで待機してろ。
切れたロープが落ちてくるから、
巻き込まれないように注意してろよ」
これをやってしまうと、
もう今までの自分には戻れないことは
分かっている
一線を越えてしまうと、もう二度と元には
戻れないのだ
・・・・・・・
リナの目の前の少年は、
こすからい鋭い目をしていた。
普段は、それでもまあ、目つきが悪いという
程度だった
しかし、今の彼は違う
その鋭い目に宿るのは、
思わず身震いするほどの”殺気”だ
でも、今の自分には彼を止めることはできない
まず自分達がここまで来た理由は、お気楽な
道楽旅行の為ではない、
島の人たちの命が掛かっているのだ
(それに、よそから来た人たちが
地元に陣取って勝手なことを言っているのに、
どこかムカついている自分がいる...
3年前は、横浜から来た私たちも
まったく同じことをしようとしていたのね)
「わかった、頑張ってねヨッシー」
リナの口から出た言葉はそれだけだった
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
橋の上には5人の男たちが居た
その内の3人が、橋の真ん中に密集している
粗末なバラック小屋の中に入っていった
小屋の中には、女性と子供たちが居る
そして、こうして隠れながらも
壁の隙間から、下流の船を見ていた
その中の、十代前半の少女が言った
「私たち、これからどうなるんや...
あの船の人ら、私たちを
酷い目に会わせるんちゃうの?」
近くでボウガンを取り出していた男が答えた
「大丈夫やって、心配すなやキラちゃん!
俺達がちゃんと君らを守ってやるさかいに、
何の心配もすることあらへん」
キララにとって、『今の世界』は
この橋の上が全てだった
風向きによって頻繁に漂ってくる腐敗臭、
それが外界だ
そして、ボロ板で出来た壁の隙間から見える船。
明らかに生きた人間が操作していて、
それは、『昔の世界』との繋がりを感じさせた
しかし、昔の世界も
彼女にとって決して優しいものでもなかった
「キラねぇ、怖いよ...
なんか、すごく悪人っぽいジージが居たよ、
えらいゴツくて、背が高くて、
白い髭を生やしてた。
怖いよ、ものすごい悪い予感がするねん」
怯え切ったトシ坊がしがみついてくる
昔の世界の記憶も曖昧なトシ坊にとって、
下流の船は、自分よりも怖く感じているに
違いない
キララは、小さなトシ坊の身体をギュッと
抱きしめた
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そして、ヨッシーは、
橋の上の住民を皆殺しにすべく行動を開始した
素早くアーチの鉄骨を四つん這いで駆け登り、
すぐ横の橋桁に移って手すりを乗り越えた。
左側に、2人の男の姿を確認する
薄汚れた着衣に、伸び放題の髪
しかし、男たちは左側のほうを向いて、
「つぎはぎ丸」とジジイを注視している
ヨッシーは右側のほうへとダッシュした
目指すは、
橋の外のほうへと頭を向けた”緑色のRV車”
つまり、こちらにケツを向けたRV車には、
橋の上流側と下流側から伸びた2本のロープが
繋がっている
(よし、思った通りだ)
少し前方の手すりに滑車が取り付けてあって、
下方向のロープの向きを、RV車のほうへと
変えている
ヨッシーは、身を屈めてロープをかわすと、
車に向けて無我夢中で走った。
その手には、リュックから取り出しておいた
拳銃が握られている
「もしも、車の中に誰かが居たら、
迷わずに撃ち殺すからな」
そして、運転席にたどり着き、中に入って
ドアをロックした。
思った通り、車の中には誰もいなかった。
誰かを射殺することが無くてホッとすべきか?
「いや、どのみち、これから自分がやることは
殺戮だ、拳銃で誰かを殺そうが殺すまいが
一緒なんだ」
ブツブツと狂ったように独り言を呟きながら、
とりあえず、拳銃を助手席に置く
目の前にはハンドル、手元には
オートマチックミッションのシフトレバー
埃をかぶったフワフワやら
LEDで光るタイプの装具やらで運転席は
ゴチャゴチャしているが、今はどうでもいい
ヨッシーは独り言を続けた
「オートマ車でマジラッキーだぜ!
確か、左がブレーキで右がアクセル、
ブレーキを踏みながらエンジンを掛けて
シフトを、Dにセットするんだ」
エンジンは切ってあったが、キーを回すと
エンジンが掛かった。
ブウウウウウウッ
そして、鼻孔に強烈に残る人型の腐敗臭....
「よっしゃ、俺の勝ちだお前ら!
これから、地獄への旅路が始まるぜクソが」
脳内に溢れたドーパミンによって興奮状態に
なったヨッシー
フロントガラス越しに、バリケードが見える
廃材の寄せ集めで造ったようだが、やはり
それなりに堅固に作られている。
何重にも重ねて、内側から衝立で補強してある
しかし、バリケードというのは
外側からの力に対して強いが、
内側からの力に対して比較的に弱い
ヨッシーはシフトをDに入れて
ブレーキから足を離すと、
続けてアクセルをめいいっぱい踏みこんだ
ドブウウウウウンッ!!
「あっ、パーキングブレーキだ、忘れてた!
いっけねえ~えへっ」
ヨッシーは可愛らしく片目を瞑って舌を出した
誰も見ていないにも関わらず、愛らしい仕草で
自分の頭をこつんと叩く
そして、運転席横のパーキングブレーキを
解除したのだった




