怒り
橋の麓に近づくにつれ、どんどん強い腐敗臭が
漂ってくる。
ヨッシーは、最後の潜水を終えて
水面から顔を出していた
目の前には、高さ1メートルほどの網が
こちらの川岸から川を渡り、反対側の岸まで
続いている。
網の端からは、太いロープが上に伸びている
さらに、この下流側だけでなく
橋桁を挟んだ上流側からも、
太いロープが川の中から上へと伸びていた
漁師だけあって、すぐにピンと来た
「なるほど、橋桁を包み込むように
網を仕込んでいるわけか。
上流側は水没させて、下流側をこうして
1メートル程高くしてるってことは、
上流から流されてくる”何か”を
掬い取るためなのかもしれない
まあ、どうでもいいことだ
俺達がやるべきは、上流側と下流側の
2本のロープを切ることだ。
やはり、
水に浸かったままだとやりにくいから
アーチの鉄骨を登って上から切ったほうが
いいな」
何の為に、川幅をすべてカバーするくらい
長い網を仕込んでいるのか?
ヨッシーにはそれは不明だった。
しかし、橋の上の連中にとって、
それはライフラインかもしれないが、
だからと言って
こうして船の通行を妨げていいわけはない
「まあ、俺たちがロープを切ったとしても、
後で修繕くらいはするだろう...
リナ、リサ、俺達はこれから鉄骨を登って
上からロープを切るぜ。
今から、アーチの麓に行くために上陸するぞ」
ヨッシーの隣の双子姉妹は頷いた
そして、3人は行動を開始した
川縁の低い岩を登り、草ぼうぼうの坂を一気に
駆け上がると、アーチの土台があった
急いで、そこからアーチの鉄骨を登る
緩やかな曲線を描く太い鉄骨の上を、
サルのように両手両足を使って無我夢中で登る
....取水場とわくわくポートで体験した
あの腐敗臭が濃厚に漂ってくる
そう、人型だ...
ゾンビパンデミックが起きて3年、
つまり人間の活動が停止してから、
植物たちは野放図に繁殖している。
周囲は、草木が生い茂っていて、陸の状況は
全く分からない。
しかし、この橋に人型が群がっているのは、
臭いで明らかだった
やがてヨッシーは、細い一本の鉄骨が、
縦方向に伸びている箇所にたどり着いた。
そして、リュックをゴソゴソと探って
中からロープを取り出す
その縦の鉄骨にロープの端をくくりつけ、
アーチ沿いに垂らす。
リナとリサも、ヨッシーの後を追うように
アーチの鉄骨をよじ登っていたが、
ヨッシーの垂らしたロープのおかげで
すぐに追いついた
....と、上の橋桁から人の声が聞こえてきた
「お前、誰やねん!
この橋はワシらのもんやさかい、
勝手に通ることはでけへんで~
もちろん、橋の下も通られへんで」
ピタリと動きを止めていたヨッシーは思った
(んんっ!この言葉使い....
西のほうからやってきた”よそ者”かよ)
下流のほうを見ると、ジジイが船の操舵室から
身を乗り出していた
ジジイと、橋の上の連中との会話を
聞いている内に、ヨッシーの心の中に怒りが
沸き上がってきた
(ふざけるな、何を勝手なことを言ってるんだ)
アーチの先を見ると、ここと同じく縦の鉄骨が
ある箇所があって、ちょうどその辺りを
網を吊り上げている太いロープが通っている
反対側のアーチには、
こちらから水平方向に伸びる補強の鉄骨が
何本も等間隔で通っているので、
それを伝っていけるだろう....完璧だ!
「リナ、リサ、あそこにたどり着いたら
2人で下流側のロープを切ってくれ。
俺は、あの水平の鉄骨を通って、
上流側のロープを切るからよ」
そう言って、くくりつけていたマイ・ロープを
外して、再びリュックに入れた。
同時に取り出したナイフを、リナに渡す
「多分、川面からの高さは8メートルくらいだ
ちょっと直に飛び込むのは怖い高さだから、
あそこにたどり着いたら、マイ・ロープを
下に垂らすからよ、
それを伝って川に飛び込もうぜ!
こんな所、長居は無用だ、
ちゃっちゃと事を済ませてずらかろう」
・・・・・・・・・・・・・・
今の時点では、ヨッシーにもジジイにも、
橋の上の連中を殺す気はなかった。
特にジジイは、イセエビとアジの通行料を
払って無事に通してくれるならば、
ヨッシー達を止めて
事を穏便に済ませてやろうとすら思っていた
・・・・・・・・・・・・・・
ヨッシーは、網を吊り下げている太いロープの
場所にまでたどり着いた。
そして忘れずに、
リュックから取り出したマイ・ロープを
すぐ側の縦の鉄骨にくくりつけて下に垂らした
すぐ近くで、水平方向の鉄骨が反対側の
アーチを繋いでいる。
ここは双子姉妹に任せて、
自分はその鉄骨を伝って反対側に行こう
後は、それぞれが上流側と下流側の
2本のロープをナイフで切って、
下に垂らしたロープを伝って川に飛び込めば
任務は完了だ
しかし、橋の上に居る連中の会話が
わずかに聞こえてくる。
(一体、何を話しているんだ?気になるな)
ヨッシーは、さらにアーチの上を登って
連中の会話を盗み聞きすることにした。
そして、すぐ上を橋桁が迫ってきている場所
にまでたどり着いた
連中は結構、近くに居る...
そして、何やら話し合っているみたいだ
数十メートル離れた「つぎはぎ丸」には
届かないだろうが、
こちらからは十分に聞こえる声量だった
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「おい、ヤス、武器オタクのお前が
収集しとったボウガン、
ついに活躍するときが来たで~」
「マサノブさん~やっぱり殺るんスか?
大丈夫っすかね、
あのおっさん、遠目からでも見るからに
強者っぽいねんけど」
「確かお前のボウガン、3丁ほどあったよな?
大丈夫やって、
3人で一斉に撃てば1発くらいは当たるやろ
ええか、あのおっさん、上流の連中と
関わるつもりや。
つまり、この川の下流と上流で繋がりが
復活するってこっちゃ!
そないな事になったら、俺達、ヤバいやろ」
「そうすね...ここの地元の連中が
繋がりを取り戻して、往来が復活して、
んで、俺達に目を付けたら....
俺達が、ここでやってきたことが
バレるんちゃいます?」
「そやから、あのおっさんを殺って、
あの船を奪って、
川を下って逃げるんやないかい!
とりあえず、ヤスとテッペイとタク、
お前らは、小屋の中でボウガンを用意せい」
「うーん、しゃーないっすよね、
上流から流れてくる援助物資、惜しいけど
もう、諦めるしかないっすね。
また新天地を目指さなあかんな~しんどー」
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(ボウガン?......船を奪って逃げる?)
ヨッシーは即座に、
リュックからスマホを取り出した
急いで、ジジイのタブレットPCに
ダイレクトメールを打つ
『ボウガンで撃つつもり、ボウガン、危険』
そして、湧き上がってくる激しい怒り
”ふざけるな、ぶち殺してやる!”




