天才水泳姉妹
橋の下の通行を妨げられた時点ですでに、
ヨッシーとリナとリサの3人は船尾から
川の中に入水していた。
スミレは、ブリッジの後ろのエンジンルームの
上を這うように進み、ハッチから
エンジンルームの中に入り、トイレに隠れた
今、3人は、船尾のピットに括り付けて
そのまま後ろに流したロープに掴まっている。
微速前進する「つぎはぎ丸」に
引っ張られている形だ
ちなみに、この船は
漁具や潜水夫を巻き込まないように、
プロペラに格子状のプロペラガードを
付けているので安全だ
川面から肩と頭だけを出しているヨッシーは
リュックを背負い、その中にビニールに包んだ
拳銃と弾、そしてナイフを数本入れている。
そして、片手でロープに掴まり、
もう片手に自分のスマホを持っていた。
ちなみに、スマホはバッチリと防水機能付きだ
そして、スマホに向かって言った
「ジジイ、俺とリナとリサの3人は船尾から
入水したぞ。
スミレはエンジンルームのトイレに隠れた
さっきチラリとのぞき見したんだが、
車と繋がっているロープを
切ればいいんだろ?
あのアーチの鉄骨は陸のほうから伸びてるし、
俺達なら登れそうだ。
人型が居たとしても、奴らは水を
嫌っているから川縁には近づかないはずだ。
人型が追ってきたとしても、とっくに
アーチを登っているだろう
俺たちは、ロープを切った後で川の中に
飛び込むからよ、しっかりと拾ってくれよ」
スマホからジジイの返事が聞こえる
「おいおい、お前たち、無茶はやめろ!
橋の上の連中が何者なのか、
まだわかんねえだろ」
ヨッシーは振り向いた
フワリとしたセミロングの髪に、
切れ長の目のリナ、
フワリとしたショートボブの髪に、
パッチリした目のリサ
ヨッシーと同じく、ロープに掴まり
肩から下は水に浸かっている。
この二人の天才水泳姉妹が、こちらを力強く
見つめ返していた
そして、ヨッシーはスマホに向かって言った
「何者なのか知らねえがよ、あんな
むかつく妨害行為をしてくる連中なんて
気に掛ける必要はねえよ」
「いや、連中が橋の上でどうやって食料を
得ているのかとか、
どういう武装をしているのかとか、
何人居るのだとか...
未知の脅威に対してあまりにも軽薄だぞ」
「俺達は御立派な軍隊なんかじゃねえんだ、
情報収集だの偵察だのしている暇はねえ。
もう、勢いで突破するしかねえんだよ」
結局、ジジイは言った
「...もうすぐ橋まで100メートル程だ。
こちらから見て、橋の中央より右寄りに
数人が集まっている。
俺は、しばらくして左側に船を寄せて
連中の視線を集めるから、
お前たちは、右側の岸を目指せ
いいか、右側だぞ
川岸は、低い岩で切り立っていて
水深が深そうで、
木々が岸のすぐ側まで迫っていて、枝葉が
低く垂れている。
そこまでたどり着けば、
お前たちは見つかりにくいだろう
やはり、以前と比べてこの川は水量が
増しているのか?
とにかく、
幸運を祈るぞヨッシー、リナ、リサ」
そして、ヨッシーはスマホを切ると、
リュックの中に入れた
・・・・・・・・・
息継ぎなしで、約30メートル....
できるだけ深く潜水しながら、
川の流れに対して斜め前方向に泳ぐ
狂気の沙汰かもしれないが、リナとリサは
将来、オリンピック選手になるのを
確実視されていた天才水泳姉妹なのだ
ヨッシーは水中でただひたすら息を止めて
じっとしていた
そして、それぞれの片手で
ヨッシーの左右の腕を引っ張り
もう片手で水を掻く姉妹。
双子ならではのピッタリと息の合った
コンビネーション
ゴゴゴゴゴゴ...と、水中音が聞こえる。
目を開けると、緑色に濁った水と
左右には、自分の手を引っ張って泳ぐ姉妹
流れに対して45度の角度で前方に泳ぐ、
いわゆる”フェリーアングル”というやつだ
ヨッシーも水泳にはそれなりに
自信はあったものの
やはり、オリンピック級の二人は凄すぎた
・・・・・・・・・
「ぶはあああ!!!」
ようやく、岸にたどり着き、大きく息を吸う
水深は、まだ立つことができないくらい深く
ヨッシーは立ち泳ぎをしている
すぐ目の前には、ゴツゴツとした岩、そして
頭上には木々の枝葉だ
隣には、水面から顔を出したリナが居る。
フワリとした髪が水で濡れて、前髪が
額に張り付いていて普段と違う感じだ
リナは、息をまったく切らしていない余裕の
口調で言った
「そもそも、なんで、じっとしてただけの
あんたが一番疲れてるのよ?
こんなん余裕っしょ
これから、岸に沿いながら
上流に向かって泳ぐよ。
ほら、前方に小さな窪みがあるでしょ
あそこなら橋から見えにくいと思うから、
そこまで息継ぎなしで行くからね」
さらにリサが言った
「橋の麓にたどり着くまでに、ヨッシーの
体力を温存させてあげるから安心してね。
ほら、つぎはぎ丸も、反対の岸の方向へと
遠ざかっている。
橋の上に数人いるけど、顔があっちのほうを
向いてるように見えるわ。
チャンスだよ!」
ヨッシーは言った
「....はい、お願いします」
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橋の上で固まってヒソヒソ話をしていた連中は
やがて、1人がジジイのほうを向いた
そして、大声で怒鳴った
「よっしゃ、ええで~
ほなら、通行料を払ってもらおうやないけ
左側に来いや、そこから桶を下ろすからの、
中に、イセエビとアジを入れろや」
男から左側ということは、こちらから見て
右側だ...
今、そこではアーチの鉄骨を
ヨッシーが登っている最中だ
ジジイは、操舵室に入ると、わざと舵を
左に切ってアクセルレバーをわずかに押した
左岸寄りの位置の船が、さらに左方向に
前進する。
橋の上の数人が、大きく身振りしながら
怒鳴り散らす
「アホかおっさん、そこは便所があるんや!
ワシの左側やっちゅーねん、
お前から見たら右側やアホ」
ジジイは、さらに、わざと舵を切ると
アクセルレバーをニュートラルにして
船の姿勢を崩した
そのまま、僅かに川に流されながら、
姿勢を正そうとあたふたとしている演技をする
橋の上では、数人が話しているようだが
声は聞こえてこない。
しかし、彼等のすぐ近くの下のアーチの
鉄骨にたどり着き、
そこにしがみついているヨッシーが見える。
さらに、リナとリサも後を追っている
ヨッシーは、
彼等の声に耳を傾けているようだった




