線の外側
パーキングブレーキを解除し、アクセルを
めいいっぱい踏むと、車は急発進した。
30メートルほど前方のバリケードが
ぐんぐんと迫ってくる。
サイドミラーでちらりと確認すると、
車のケツに結ばれたロープが追従している
今、橋から吊り下げられた網の片側だけが、
急激に橋桁のほうへと上がっている最中だろう
そして、こちらを追ってくる2人の男
「あいつらは人型と同じなんだ。
いかなる感情も持たずに、
淡々と処理するべき相手だ」
特に衝撃もなくロープが地面に落ちた
つまりは、ロープが切れたのだ。
今度は、橋桁のほうまでせり上げられた網が
急激に川に向けて落ちているはずだ
ヨッシーはサイドミラーから前に向き直った
「本来の目的はこれで達したが....
前もって警告したから、リナとリサは
ロープに気をつけてくれているだろう。
ジジイも、川を流れてくる網を
避けてくれるはず」
しかし、すぐ目前まで迫ってきたバリケード
”橋の上の住民を皆殺しにする”
新しく追加された目的を達すべく、
ヨッシーはそのまま突っ込んだのだった
バアンッ!!
凄まじい衝撃で、一瞬、意識が飛んだ
・・・・・・・・
・・・・・
「やっぱり、シートベルトは大切だよね」
衝撃でハンドルにめり込んで身体が痛い
しかし、そんなことは後だ...
ヨッシーはすぐさまシフトレバーをRに入れて
アクセルを踏んだ
ピー、ピー、と警告音を出しながら
車がバックで急発進する。
遠ざかって行くバリケードは、後ろ向きに
ひしゃげている。
まるで巨大な拳で殴ったかのようだ
ドンッ、ドンッ!!
と、ふいに連続して二つの衝撃が来た
おそらくは、追ってきた2人を
”撥ね飛ばした”のだろう
ヨッシーはミラーで後ろを確認することもなく
独り言を呟いた
「よっしゃ、やったぜ、敵を2体排除した。
生きてるのか死んだのか不明だが、
脅威ではなくなったぜ。
でも、問題はボウガンだ!
あれって、近距離では車のガラスを
ぶち抜けるものなのかな?」
そして、シフトレバーをDに入れると
再び前進する
「でも、この車に向かってボウガンを
撃つどころじゃなくなるぜ。
俺もお前らも、これからもっと酷いものに
対応しなきゃならねえからな」
再び、バリケードが迫ってくる
金属製のシャッターやフェンスや看板やらを
主材にして、重ね合わせて角材で補強し、
ボロ板で隙間を塞いだ粗末なバリケードだ
先ほど、車がぶつかった箇所はひしゃげて
後ろ向きに大きく倒れかけている
ヨッシーのこすからい鋭い目には、今や
狂気が宿っていた。
そして、口角をニヤリと上げて叫んだ
「さあ、もう一発ぶちかませば
地獄の門が開くぜ!
お前ら、お待ちかね!!
外界からのお客さん達だ」
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ジジイは、あっけにとられて橋のほうを
見つめていた
橋の上の連中が、こちらをボウガンで
狙い撃ちするつもりだという旨のメールを
見てから操舵室に籠り、
なんとなく下流に流されているそぶりを
続けていた。
そして、フロントガラス越しに橋の上を
注意深く観察していたのだが、
まさかこんな事態になるなんて....
「あの野郎、人を撥ね飛ばしやがった....」
橋の右端で、2人の男がバックしてきたRV車に
もろにぶつかって
後ろ向きに吹き飛ばされている
そして、支えのロープが切れた網が、こちらに
流されてきている。
今や網は、左端のほうだけがロープで
繋がっている状態だ
舵をうまく操り、船首を上流に向けたまま
「つぎはぎ丸」を後進させる
そして、ジジイはつぶやいた
「目的は達したじゃないかヨッシー、
そこまでする必要はあるのかよ。
お前が今、やっていることは、もう二度と
取り戻せないんだぞ。
俺のように、生涯、頭の中にこびりついて
苦しみ続けることになるんだ」
でも、だからと言って今の自分に
ヨッシー以上のことが出来るのか?
(この世界で生き残るには、
そうなるしかないのかもな)
ジジイには答えが出せなかった
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.....先ほどよりも衝撃は少なかった
つまり、RV車はバリケードを突破したのだ
ぶつかった反動で、
ヨッシーは少し上を見上げていた
まるで頭上にのしかかるような緑色の木々の葉
すぐ下を向いて、シフトレバーをRに入れて
アクセルを踏む
あまり進みすぎるとバラック小屋に
突っ込んでしまうので、適当な場所で停車する
そして、ようやく目の前の光景を直視した
「一体、何体居るんだ?」
昨日、ヨッシーは初めて人型と遭遇した。
まるで艶のある泥人形のような顔、
こちらに噛みつくために大きく開かれた口、
そして、ただ単にそこにあるだけの、
乾ききって顔に張り付けたようになっている目
それらが、無数に
こちらに迫ってきているように見えた
「やべえ、拳銃はどこに行った、拳銃だ」
警察用のリボルバーは助手席に置いたのだが、
先ほどバリケードに衝突した時に
ふっ飛んでいったのだろう
身を屈めて助手席の下を探る
ふと顔を上げると、一体の人型が
こちらをスルーしていった
続けて何体もの人型がその後に続くのが、
助手席の窓から見えた
「多分、車に閉じこもっている俺よりも、
剥き出しの人間のほうを優先して
狙うんだろう」
だからと言って、悠長としていられない。
いずれ、自分を狙ってくるのは確実だ
「クソ、少しは車内を整理整頓しとけよ
アホどもが!
ハジキはどこだ?
ハジキは一体どこに行った?」
謎の電線やら、ティッシュの箱やら、
ビニール袋やら
ゴチャゴチャしすぎて拳銃が見当たらない
ゴンッ!!
車の窓が叩かれた....
ゴンッ、ゴンッ、ゴンッ
かなりの力で叩いているのが分かる。
ふと、ヨッシーは可笑しくなって笑った
「ハハハッ、俺もお前らも絶対絶命だな。
もしも幸運にも生き残ったら、
また再び殺し合いしようぜ!」
そして、ヨッシーは気が付かなかったが、
橋の上に白くて大きな何かが飛来していた
それは、川の上流からやってきたのだった




