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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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記憶の断片1

 『ねぇ、健二くん。君にとって百玉村はどういう所?』

 

 そうだ……どうして忘れていたんだ。

 俺は、覚えているはずだ。


 『余所者に話すことは無いって?もう、厳しいなぁ』


 村を襲った警察の事を。

 村の大人を一人で制圧した栗毛の女の事を。


 『信じられないかもしれないけど、私は君の助けになりたいんだ』


 村が壊滅したあの日、また成人を迎えていなかった俺達は見知らぬ施設に送られた。

 そこで一人一人、その女と面談をしたはずだ。


 『もう神様に囚われる必要はないんだよ。君は色んな世界を見て良いんだ。世界中に散らばる楽しい事、やりがい、出会いを全身全霊で堪能して良いんだよ』


 その声は努めて優しい声音だった事は覚えている。

 あの女は心から君達の事を思っていると言うスタンスを崩さなかった。


 波内を含む村の子供が現代日本に順応してしまったのはこの女の口車に乗せられた所も大きいのだろう。

 だが、俺は違った。

 あの女の言葉から感じ取れるのは不信感だけだった。


 『え?お前には騙されない??俺はお前の本性を見ている……あ~、もしかして私が戦ってる所、見てた?』


 だって俺は見たんだ。


 『いや……あれは何というか……戦ってるときは口調が荒くなっちゃうんだよね』


 この女が暴言を吐きながら百玉様を圧倒していた所を。

 酒を飲みながら緑の鎖をぶん回して……何度も何度も百玉様を殴りつけていた瞬間を。


 『######。###########なかったね。私は警視庁超常現象課の####、酒呑角(しゅてんかく)トバリだよ』


 クソ。

 また頭痛が。


 きっと俺の記憶が曖昧なのはこの女のせいだ。

 この後だ……俺はこいつに何をされた。


 『トバリ、彼は百玉村と深く関わりすぎている。話し合いではらちが明かない』

 『天使君、いつの間に』


 そうだ。

 あの時、女の後ろで光が差したんだ。


 まるでこの世の物とは思えない光。

 俺の脳がそれを現実だと受け止めきれない何かが光の中から出て来たはずだ。


 『村の子供達は被害者だ、せめてやり直すチャンスを……君の気持ちを考慮したとしても、彼をこのまま野放しにするのは危険すぎる。ある程度の記憶は消さざるを得ない』


 『君が言うなら間違いないんだろうね……ごめんね天使君、甘い事言っちゃってさ』

 

 『謝ることは無い。私は酒呑角(しゅてんかく)トバリという人間を知っている』


 背中に四枚。

 白い羽を生やした天使。


 そうか。

 あいつが俺の記憶を!!


 『お前の心は優しくお人好しで悪人にも手を差し伸ばすが、どうしようもない時は世界の為に悪を殺せる人間だと』




 「はっ……ここは」


 ミミミさんの家?


 「今何時だ?」


 時計を見る。

 時計の針は2時を指していた。


 窓を見れば青空が広がっている。

 つまりは昼の2時だ。


 「あ、健二さん。ず、頭痛は大丈夫ですか?!」


 思考を整理する前に、ミミミさんの声が頭に響いた。

 彼女は市販薬の箱とペットボトルを持ってドタドタと飛び込んで来た。


 「俺は……あの後ずっとここに?」

 「はい。すっごく苦しそうだったので無理に体をに動かさない方が良いと思って」


 彼女の事を聞いてやっと気づく。

 自分の体に毛布が掛けられている事を。

 頭に冷えピタが張られている事を。


 「健二さんの会社には私が連絡してます。一応有給って事になってるみたいなので大丈夫です」

 

 なのでゆっくりしましょうと、彼女は言った。

 でも、落ち着かない。

 落ち着けるはずがない。


 「なぁ、ミミミさん」

 「はい。何ですか?」

 「俺は……今どんな言葉を話してる?」


 外の言葉なんて話すつもりは無い。

 いたって普通に、今まで通りに話そうとしているつもりだ。


 「……ほ、本当は言いたくないです……でも、正直に言った方が良い気がするので……ちゃんと言います」


 ミミミさんの喉からゴクリと音がした。

 『大丈夫、大丈夫』『私の勘は絶対だから』と自分に言い聞かせるミミミさんの顔には大量の汗が流れていた。


 「健二さんが話しているのは標準語です……健二さんの嫌いな、外の世界の言葉です」

 「あぁ……あぁ!!」


 吐き気がする!

 吐き気がする!!


 俺の誇りは……俺の持っていた村への思いは……あの時、天使とやらに殺されたんだ!!


 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


 他にも消されている記憶があるかもしれない。

 村の記憶だって奴らにとって都合の良い様に捻じ曲げられていてもおかしくない。

 

 「健二さん、落ち着いてくださー」

 「これが落ち着いていられるか!!」


 振るった腕がミミミさんの持っていたペットボトルを振り払っていた。


 「知らない間に憎むべき敵の言葉を喋っていたなんて、それを気づけなかったなんて、こんなに屈辱的な事があるか!!」


 酒呑角(しゅてんかく)トバリと天使。

 こいつらのせいで!


 「百玉様の為の料理人である『捌キノ健二』はもういないも同然なんだ!!だからー」


 だから、何なのだろう。

 勢い任せに吐いた言葉は詰まって要領を得なくなった。


 言葉を吐いたからか、落ち着いた。


 そもそもの話ー

 

 天使に汚された俺の肉なんかを献上されても百玉様に毒だろう。

 外の世界に汚された俺が料理を作るなんてもってのほかだ。


 じゃぁ、外の世界に隷属して生きていくのか?


 そんなものは論外だな。

 

 「だっからもうー」


 視界の端に映るカッターナイフ。

 それが何故だか異様に輝いて見えた。


 「だ、ダメ!!」

 「な?!」


 ミミミさんの体が凄い勢いで俺に抱き着いた。

 華奢な体からは考えられない馬鹿げた力で全身を包まれる。


 「大丈夫です。健二さんは大丈夫なんです」


 「これの何処が!!」


 「絶対に大丈夫なんです。私の勘が……そう、言ってますので」


 弱弱しい声で懇願する様に、必死にミミミさんは声を上げていた。


 「もし、声を出すのが嫌なら無理しないでください。多分ですけど……ちょっと不安ですけど……私の勘があれば健二さんの言いたい事を何となく察することは出来るはずです」


 「……」


 時計が針を進める音が響く。

 じっとりとした体温が伝播する中、ミミミさんは切り出した。


 「健二さんがどれだけ村に誇りを持っていたか、私は知ってるつもりです。だから、えっと、その……健二さんの感じている悲しみは誰よりも理解してます」


 「……」


 「あ、その、ごめんなさい。理解してるって言いきるのはちょっと傲慢ですよね……そうじゃなくて、えっと、えっと」


 あわあわとしながら。

 下手をするとさっきの俺よりも要領を得ない言葉で彼女は必死に声を発していた。


 「くどいようですけど、私健二さんと出会ってからずっと幸せだったんです」

 「……」


 「まずかった人肉が美味しくなりました。食人行為の理解者が居るだけで孤独じゃないと思えました」

 「……」


 「私実は、両親と妹を昔食べてしまったんです……エヘヘ。あ、いや、後悔はしてないんです。ただ、家に帰ると誰かが居る温かみを健二さんが思い出させてくれた所もあって」

 「……」


 呼吸はもう落ち着いていた。

 俺の体を抱くミミミさんの力も少しづつ緩くなっている。


 「私が抱えた不安とか問題は、ほとんど健二さんが解決してくれているんです。もしかしたら健二さんにはその自覚は無いかもですけど」


 「…………」

 

 「だ、だから、次は私が健二さんの問題を解決する番だと思うんです」


 ミミミさんの頬が赤くなっていた。

 声も震えていた。

 

 荒ぶっていた俺の思考でも流石に分かる。

 人見知りのミミミさんが心から勇気を出して伝えた言葉だった。


 「健二さん。私に何をしてほしいですか?私は、何をあなたに差し上げられますか?」


 だったら俺も、勇気を出して声にするべきだと思ったんだ。


 「記憶を……取り戻したい」

 「はい」

 「場所はもう分からないが、村に戻りたい!」

 「はい!!」


 もう何も残っていないかもしれない。

 行った所で記憶は戻らない可能性だってある。


 「大丈夫です、約束します」


 それでも、無くした記憶を埋めてくれるのはもうこれしかなかった。


 「私が絶対!!健二さんを百玉村まで連れて行きますから!!」

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