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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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日常/容体急変

 「カレー鍋か」


 仕事帰りの夕方。

 ふらっと寄ったドラッグストアで目に入ったのはカレールーだった。


 ミミミさんと出会って今日でちょうど一週間が経つ。

 だというのに、彼女に提供する人肉料理は鍋ばかりだった。


 まぁ人肉用の調理器具がない以上は食卓のレパートリーを増やしようがない。


 せめて村にあったナタさえあればな。


 「ずっと同じような味ってのも飽きるよな」


 昨日と同じ鍋料理ではあるが、カレー鍋ともなれば味変にはなるだろう。


 そういえば爺さんは『巫女の機嫌をとるためにも色んな品を作れる男になれ』とかよく言ってたな。


 百玉様より巫女のことかジジイと思って聞き流していた時期もあったが、今なら何となく共感できそうだ。



◇


 「ミミミさんは今日もバイトか」


 彼女から貰った合鍵でドアを開ける。

 いつも通りなら8時には帰ってくるだろう。


 「さて、やるか」


 部屋の中にある死体を丁寧に捌く。

 最近は随分と綺麗に人を殺してくれるようになった。


 百玉様の事を思えば生贄の状態は綺麗な方が良いからな。

 

 「後は、飯を炊いて」


 鍋の締めなんて、本当は作る必要もないんだがな。 

 百玉様的には人肉の入ったカレー鍋だけで十分だから。


 しかしー


 「ミミミさん結構食うからな……俺の分の合わせて……二合で足りればいいが」


 俺は協力してもらっている身だ。

 彼女の食い意地も考慮して料理を作るのが筋ってものだろう。


 鍋を煮込む。

 いけ好かない炊飯器のスイッチを入れる。

 死体から取り出した大きな骨を丁寧に洗って置いておく。

 人肉に祈りを込める。


 あとは、待つだけ。

 なら少しの片づけと風呂の用意もしておくか。

 

 そんなこんなで1時間が経っただろう頃。

 

 「健二さん~。ただいまです~」


 ニヘラっと笑ったミミミさんが玄関を開けて帰ってきた。


 「こ、この匂いは……今日はもしかしてカレーですか?!」

 「正確にはカレー鍋だけどな。あと少しで出来るから、先に風呂入ってろよ」

 「そ、それではお言葉に甘えさせていただきます」


◇


 「凄いですよ健二さん!!肉はほろほろですし、ジャガイモを始めとするカレーの具材も人肉と喧嘩する事なく見事なハーモニーをですね」


 「おいおい、そんな調子だと喉に詰まらせるぞ」


 本当にすごい勢いで食べていくな。

 もう鍋の半分も残ってないぞ。


 「そう言えば、今やってるバイトは今日で終わりとか言ってたっけか?」

 「はい。また新しい短期バイトを探さないといけなくて。イベントスタッフとかやってみようかな」


 「う~ん……こう言っては失礼だが」

 「な、なんですかその不安しかない前置きは」


 「ミミミさん、ちょっと人見知りな所あるだろ。向いてないんじゃないか?」


 脳裏に浮かぶのは初めて出会ったあの日の事。

 自己紹介するのも大変そうだったミミミさんの姿。


 とてもイベントスタッフ向きとは思えない。


 「あぁ。それならご心配いらないです。私、バイトしてるときは何も考えないようにしてるので」

 「何が大丈夫なのそれ」

 「その代わりに、全部勘を頼りにして仕事をしてますから」


 なるほど。

 ぱっと飲み込むにしては余りにインパクトの強い言葉ではある。

 

 でもなぁ。

 ミミミの勘の鋭さはもはや異次元だからなぁ。


 自分で考えるより勘に頼った方が上手く行く。

 そう言う事もあるのか。


 「わたし、昔から出来が悪くて……人の肉を食べて得られる直感が無いとまともな社会生活が出来ないんですよね」


 ミミミさんの目には俺の作った料理が映っている。


 「昔はある意味義務的に人肉を食べていたんです。私の自尊心を護るためだけに」


 カレールーで作ったスープをミミミさんはゴクリと飲んだ。

 その表情はどこかうっとりとしている。


 「でも今は、健二さんの料理を食べるのが毎日楽しみなんです。こんなに幸せな事があって良いのかって考えちゃうぐらい」


 「そう思ってくれるなら、腕を振るった甲斐があるよ」


 気づけば鍋はすっからかんになっていた。 

 もういい時間だし、片付けだけしたら俺は帰らないとな。


 「そう言えば健二さんって不思議ですよね」

 

 そんな事を考えていた矢先にミミミさんから飛び出した一言。


 「不思議って何が?」

 「この一週間、ずっといますけど……健二さんって話しやすいじゃないですか」

 「それってそんな不思議な事か?」

 

 なぜか、少し嫌な予感がした。

 俺はミミミさんみたいに超人的な勘の良さは持ち合わせていない。


 「だって健二さんっていわゆる因習村的な所の出身なんですよね。もっとドギツイ訛りとかあるのかなって思ってたんです」


 しかし、妙に胸騒ぎがする。

 嫌な汗がじわっと首筋を伝っている。


 「でも、健二さん標準語で話してくれるから」

 「標準語?それって外の世界の喋り方だろ。馬鹿言っちゃいけねぇよ、百玉村の人間が外の人間と同じ訛りで言葉を話すなんてー」


 そこまで言って、気づいた。

 違和感がある。


 百玉村ではこんな言い回しをしていただろうか?

 俺の口から出る言葉というものは、もっと違う形をしていたのではないか?


 ########。

 ########。


 「あれ?」

 「健二さん?大丈夫ですか、顔が真っ青ですよ」


 違う。

 違う。


 違う違う違う。


 俺の口から出る言葉は、こんな形をしていない。

 今俺が言葉として吐き出している音は、にっくき外の人間同じ音だ。


 思い出せ。

 昔、皆が話していた言葉を。


 『###########』

 『###』

 『#######、##。#######』


 思い出せない。

 なんでだ。

 思い出せない。

 思い出せない

 頭が痛い。


 「健二さん?!健二さん大丈夫ですか!!」

 「あ、頭が……痛い?」

 「頭痛ですか?えぇっとどうしよう……とにかく私のベッドまで運びます」


 俺の口から出る言葉に違和感が残る。

 気持ち悪い。

 俺は今日までずっと、ずっと外の世界の言葉を?

 違和感も持たずに??

 ずっと???


 ######。

 ######。

 ######。


 過去を思い出そうとする度にノイズが走る。

 必死に俺を看病するミミミさんの声もうまく聞き取れない。


 #######。

 #######。

 #######。


 やがて俺の意識は闇へと落ちていった。

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