カフェで話し合いをしよう!!
「話し合いにピッタリな場所って……ただのカフェじゃないか」
目の前の建物には人がびっしりと詰まっている。
せわしなく動く店員。
世間話をする主婦。
堂々とパソコンを開いてゲームをする青年に、どうしてこの時間に居るのか分からない学生服のグループ。
とてもじゃないが、俺達の話し合いに適している場所だとは思えない。
「一つ言っておくが……誰かに聞かれたら俺もミミミさんもおしまいだぞ?」
「大丈夫です!私についてきてください」
ふんす、と自信ありげに彼女はそう言った。
右も左も分からぬままに連れてこられたのは、これまた何の変哲もない一席だった。
「わざわざ他の客の会話を聞こうとする人はいません。こそこそ隠れるよりも自然で安全です」
「そうか?俺はどうにも不安で仕方ないぞ」
「大丈夫です。特にこの席なら問題ないって私の勘がささやいていますから」
また勘か。
まぁ、あれだけの芸当を見せられているからな。
今更ミミミさんの勘の事を疑う余地は無い。
普段おどおどしているミミミさんが妙に自信があるのも勘が働いているからだろう。
思うに、彼女にとっての『勘』って奴は俺にとっての『百玉様』と同じ絶対の存在なんだろう。
「で、では本題に入りましょう」
グルグルとフラペチーノをかき混ぜながらミミミさんが口火を切る。
「今まで私は毎日人を食べていました。一応今日もそのつもりで隣町の人を殺してきました」
「さっきのスマホに映っていた女か」
「はい……そこで健二さんに尋ねたいんですけど」
緊張しているのか、ミミミさんは一言喋るたびにストローを咥えていた。
ゴクキュゴキュと音を立ててフラペチーノを飲み干し、一息。
「健二さんの価値観的には毎日人を食べることってNGですか?」
やけに緊張しているから何を聞くのかと思えば、そんな事か。
「まぁ、確かに意味も信仰も祈りもなく毎日人の肉を食べるのは感心しないな」
「ヒィ、やっぱり」
小さく悲鳴を上げるミミミさん。
目のハイライトが無くなってるぞ。
「だが、ダメとは言っていないぞ。一つだけ約束を守ってくれるなら問題はないからな」
「ほ、本当ですか?!私は何をすれば!!」
席を立つ勢いでミミミさんが話に食らいついた。
「それは、俺の料理を食べる前に必ず祈りを捧げることだ」
「あ、祈りってこの前教えてくれたやつですよね」
「そうだ。毎日人を食うのであれば心を込めて祈ることだな。そうすれば百玉様も許してくださる」
百玉様だって、村が壊滅した今となっては生贄は多い方が良いだろう。
「以上のことが守れるなら毎日人肉料理を作ってやっても構わない」
「よ、よかった~」
ミミミさんはぐったりと安堵の息を吐く。
グネグネと体を揺らしながらテーブルに突っ伏し、いつの間にか空になったコップをガサゴソといじっていた。
「健二さんの料理は本当に美味しくて……言うなれば健康の為に必要なお薬が苦い味から母の味に変わったみたいな感じで」
「すまん。よくわからん例えだな」
「えぇ?!わ、私渾身のグルメリポートだったのに」
目に見えて分かるぐらいシナシナになったな。
相変わらず感情がコロコロと変わる子だ。
◇
そんなこんなであれから数時間。
俺達は互いのNGになることを話し合った。
とはいっても特段大きな事は無い。
うっかり知人を殺してしまった時どうするかとか。
万が一、億が一、この関係が第三者にばれたらどうするかとか。
正直俺にとってはどうでも良い話だ。
こっちに来てからの知り合いに未練ってないからな。
『全部ミミミさんの都合に合わせる』って言って大体終わったよ。
「話し合いとしてはこんな所か?」
気が付けば空はオレンジに染まっていた。
人の詰まった窮屈な場所に長い事いたもんだ。
少し腰が痛い。
「そうですね……あ!!」
「どうした?」
「私今日、健二さんに渡すものがあるんです」
今の今まで忘れていたのか?
そんな野暮なツッコミをあえて心の中にしまった。
ガサゴソと小さなカバンを漁るミミミさん。
『あった』と言って彼女が取り出したのは銀色の鍵だった。
「はい!健二さん」
「……これは?」
「私の家の合鍵です」




