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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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あの日、貴方に胃袋を掴まれたの

 「なぁ、人の死体隠さずに移動させていいのか?」

 「このルートなら警察にはバレないはず……そんな気がするので」


 殺したホストを肩にかけて女は夜道を歩く。

 オドオドとしているくせに、手際はいい。


 「気がするって言ってもな。そんな適当なことで大丈夫か?」

 「はい。今までもそうしてバレてこなかったので」


 彼女には緊張感のかけらも感じなかった。

 死体を担ぎ、スマホをいじって歩く始末。


 スマホの明かりが鬱陶しく眩しい。

 どうして外の人間はこんな板に夢中なんだか。


 「そういえばあんた、名前は?」


 「な、な、名前ですか?!個人情報……いや、でもこの機会を逃すと後悔する、よね」


 「あの〜」


 「ひゃい!!名前ですよね!!古島ミミミです」


 人を殺して食べるより、むしろ俺と話す方が苦労してる。

 よくわからん子だな。


 「俺は健二。捌キノ健二だ」

 「さばきの??珍しい苗字」


 百玉様に認められた俺たち一族の誇りある苗字なのだが。

 ま、外の人間には理解することも難しいだろうな。


 「捌キノさんはどうして人肉を食べようと思ったんですか?」

 「何か勘違いしてるみたいだけど、俺は人を食べないよ」

 「え?」

 「俺はただ、料理をするだけ。他でもない百玉様の為に」

 「ひゃくぎょく……様??」


 人肉を使った料理は神聖なものだ。

 食べていいのは、村の神様である百玉様と……百玉様に認められた巫女だけだ。


 「古島さんだっけ?あんたは逆になんで人の肉を食べる?」

 「きっかけは、昔好きだったお店の看板ラーメンです。その出汁に人の肉が使われていたみたいで」


 古島ミミミはつらつらと思い出を語っていた。

 

 「その事を知らなかった私は友達と毎週の様にラーメンを食べてました。そのラーメンを食べた次の日は異常に勘が良くなってて……それでいつか気づいたんです」


 「何に?」


 「人の肉を食べるたびに私は力を得ているんです。さっき話した勘だけじゃない。視力も、身体能力も、直観も、人間をはるかに超えてきてるって」


 「それじゃぁ何か?あんたはその超人的なパワーを得るために人の肉を食っているのか?」


 古島ミミミはどこか自慢げだった。

 正直な話、俺は人肉を食べると超人的な力が得られるなんて話は聞いたことがない。


 「はい。あ、で、でも本当に味はあんまり美味しく無くて……あのラーメンみたいに美味しく人肉を食べたいなと思っていた所だったんですよ」


 俺達みたいに別の神様を信仰しているって訳では無いのか。

 彼女が得意な体質なのか?

 それともうちの村とは違うルールが働いているのか?


 そのどちらかだとは思うが……今結論を出すことは出来ないな。

 というか、その必要もないだろう。

 にしても、まずいと思いながら人肉を食っていたというのは頂けないな。


 人肉料理は普通の料理とは別物だ。

 同種の肉を絶ち、神様へ捧げ、感謝を伝え、生贄となった人間の魂を浄化してもらう。

 

 まずく作るなんてのはあってはならない。

 人肉料理で失敗するのは神様にも食材となった人にも失礼千万なのだから。


 「ここです。私の家です」


 気が付けば、目の前にあったのは何の変哲もないマンションだった。

 特別な仕掛けがされているわけでもない。


 「家の鍵は開いているので」

 「開けっ放しで出て来たのか?不用心だろ、色々と」

 「さっき言っただじゃないですか。人の肉を食べてから異様に勘が良くなったって」


 なんて事もない様に彼女は扉を開ける。

 周囲の警戒など知らないふりで、ゆっくりと持っていたホストの死体を中にいれた。


 「こうやって勘に従っていれば失敗しないんです。警察にばれた事も、ドジ踏んだ事もないんですよ」


 殺風景な部屋だった。

 料理器具は……普通のものしかないな。


 「あ、あの健二さん。さっそくこの人料理してもらって良いですか?」

 

 村の厨房には人を捌く用の鉈なんかがあったもんだが、無いものはしょうがない。

 凝った料理を作ることは出来ないが。


 「キッチン借りるぞ」


 百玉様に失礼のない料理を作る。

 贄となった人間が来世で穏やかに暮らせるように料理を作る。


 道具が無いからなんて言い訳をするなんて言語道断だ。


 「古島さんだっけ」

 「あ、ミミミで良いですよ。だって、私と健二さんはカニバリズム同志なんですから」

 「そう?じゃぁ、ミミミさんな。一個聞きたいことがあるんだけどよ」


 この家にある包丁である程度は捌くとして……それでも手の届かないところが多いな。

 可食部をいくつか諦める事になる。


 「アンタ一人では殺した人間の全部を食べられないだろ?残った部分はどうしてる」

 「色んな方法で捨てています」

 「そうか。捨ててんのな」


 このキッチンで贄と百玉様を思うなら……やはり鍋だな。

 家庭用の包丁で切りづらい肉も鍋で煮込めば食べやすいだろう。


 「あ、ももももしかして健二さん的にはNGですか??もう私の事嫌いになったり」

 「ミミミさんが一人でやる分には構わねぇよ。ただ、俺が料理を作る時にはこっちのルールに合わせてもらいたい」


 少し不格好に切ってしまっても見た目を損なわない点も良い。

 煮込む時間を増やせば、その間に村の礼節を最低限ミミミさんに教えることも出来るだろう。


 「それだけ、俺の村にとっては人を調理するのは神聖な事なんだ。よそもんのアンタには理解できないだろうが、飲み込んでくれると助かるよ」


 一本、骨を丁寧に抜く。

 一番大切な工程だ。

 この包丁だと苦労する。



 「うわぁ!!おいしそう!!」


 苦労したが、一品出来上がった。

 人肉を煮込んだ鍋。

 そして、きれいに磨いた人骨。


 「こ、これ本当に人肉で作ってるんですか?!」


 ミミミさんは目を輝かせていた。

 スマホで料理をパシャパシャと……よそものは本当に写真が好きだな。


 そんな感じで呆れていると、一通り満足したのかミミミさんはスマホをしまった。


 「えぇっと、健二さんの地元だと人肉料理を食べる前に骨を噛むんでしたっけ?」

 「そうだ。贄になった人間の魂が正しく輪廻転生できるように祈りを込めながら口にくわえる」


 煮込んでいる間にミミミさんに仕込んだ村の礼儀。

 不器用ながらも彼女はそれに応じてくれた。


 そっと骨を加え。

 目を閉じ。

 両手を合わせて祈る。


 #######(オレハナニカヲ)#########(トナエテイタヨウナ)


 #####(タイセツナ)####(ナニカヲ)######(ワスレテイル)###(ヨウナ)


 「あ、あの~」

 

 すこし、頭がぼーっとしていた。

 気付けば、ミミミさんが骨を加えたままじぃっとこちらを見ている。


 「すまん。ぼーっとしてた。もう祈りは大丈夫。食べて良いぞ」

 「良かったです。それでは、いただきます」


 ミミミさんの口に一つ、また一つと料理が運ばれていく。

 しきりに美味しい美味しいと言いながら、彼女はズズッと俺の料理を食べていった。


 自分の作った人肉料理でこんなに人が笑顔になる。

 あぁ、久しぶりだ。


 穏やかで、静かで。

 誰もが優しく、のんびりと協力的な村での生活を思い返す様な。


 「え、えぇ?!健二さん?!」

 「どうしたんだよ。急にそんな声出して」

 「だって、健二さん泣いてるじゃないですか」


 ミミミさんに言われて気が付いた。

 俺は泣いていたのだ。


 俺が知っている村の皆はもういない。

 今となっては百玉様を信仰しているのは俺だけだ。


 「すまない。少し昔を思い出して……感傷に浸った、みたいな?」


 こうやって人肉を料理するのはいつぶりだろう。

 自分の得意な事をするのはいつぶりだろう。


 神聖な食人を野蛮な文化だ決めつけるこの街に放り込まれて始めて嬉しかった。

 ひたすらに競争を押し付けてくるこの世界にもまれて初めて嬉しかった。


 その事実を何度も確認する程嬉しかった。

 余所者の女の前でみっともなく泣いてしまうほど嬉しかった。


 「ねぇ、健二さん」

 

 そんな俺を彼女はジッと見つめ続けた。

 そうして、右手をすっと差し出してー


 「良かったらまた、私の為に人を料理してくれませんか?」


 優しい音色でそう言った。

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