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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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この機を逃すと後悔する気がした

 『健二、最近料理の腕を上げたんじゃないか?』


 『ナタ捌きを見て惚れ惚れするわね。きっと生贄になった人も楽に百玉様の所へ行けると思うわ』


 『罰当たりだけどさ、百玉様に嫉妬してるぜ。健二の作った飯食えるのは巫女と神様だけだからよ』


 『良いか健二。儂ら捌キノ家は百玉様の料理人。神に使える一族だ。その誇りを忘れるな』


 『ねぇけーくん。私今年の生贄なんだって!!せっかくなら私の肉でハンバーグ作ってよ』


 あぁ、そうだな。

 今日も百玉様の為に生贄を調理しよう。


 にしても、波内が今年の生贄か。

 だったら美味いハンバーグにしてやらないとな。


 『そ~だね。でもけーくん大丈夫?最近腕にぶってないか心配だよ?』


 大丈夫だよ、馬鹿にすんなよ。

 むしろ最近だいぶ慣れて来たんだ。

 生意気言ってると思われるかもしれないが、オヤジより美味いもの作れる自信があるぜ。


 『でも健ちゃん……今は外の人間になってしまったからね』


 え?

 母さん何を言ってんだよ。


 『そうだな……警察が村を壊したあの日』

 『大人が捕まったあの日』

 『子供が洗脳教育を受けたあの日』

 『村の歴史と誇りを壊されたあの日』


 ちょっと待てよ!!

 皆、どこに行くんだよ。


 『あの日に全部なくなった』

 『最後の生き残り。百玉様に認められた村人はお前だけ』


 おい、待てよ。

 待ってくれよ!!


 


 『それならせめて、百玉様の為に精進する事だ』

 『その腕が鈍ることのないよう、料理を続けることだ』


 「料理をするって言ったってよ!!よそ者がうじゃうじゃいるこの街でどうやって人肉料理を作ればいい?」


 『機会を見逃さない事だ』

 『お前が腕を鈍らせたその時が百玉様の終わり』

 『百玉様の終わりは村の終わり』


 『だから忘れるな。#######』


 「俺を置いていかないでくれ!!!」


 ノイズ混じりの声をきっかけに、意識がはっきりとする。

 俺はまた、悪夢を見ていたようだ。


 「仕事……行かねぇと」


 このマンションに住んで4年。

 今年で25歳。


 未だにスーツには慣れない。

 川のせせらぎも土の臭いもない、監獄の様なコンクリートジャングルで生きた心地がしない。


 「あの時、大人と一緒に死んでいれば良かったのかもな」


 そんな事をぼやきながら、今日も憂鬱な毎日が始まった。




 俺の生まれ故郷は、百玉村だ。

 決して日本ではない。


 土地的には日本国内にあった村かもしれないが……文化も生活も、何もかもが外とは違っていた。


 「健二君。頼んでいた資料は?」

 「すみません。明日には出来そうです」

 「う~ん。今日中とかには出来なさそう?」

 「……はい」

 「そっか。もうここに来たずいぶん経つんだから、次はもう少し早くできるようにね」

 

 施設の人間は言った。

 俺の村は変な迷信に囚われて酷い事をしていたと。

 君たち子供は被害者だから、私達が全力で保護すると。


 そんな余計なお世話のせいで俺は今こうして会社に入り、人並みの生活とやらを送っている。

 外の人間が考えた、俺達の常識を度外視した人並みの生活を。


 「ほら、同期のあの子……波内さんなんかは結構仕事早いから参考にしなよ。幼馴染なんでしょ」


 村の子供たちは見事に施設の洗脳教育にしてやられた。

 心の底から百玉村の文化……中でも生贄とそれを使った人肉料理の事を嫌悪するようになった。

 そして、情報と人工物にあふれる外の社会に心酔している。


 「波内は……やめておきます。過去に色々あったので」

 「そっか。あんなにカワイイ女の子の幼馴染とイチャイチャみたいなのはやっぱり2次元の中だけなんだね」

 「下手したらセクハラですよ、それ」

 「マジ?」

 「俺は気にしないですが……波内はそう言うの結構気にしますので」


 表面だけ取り繕っているのはもはや俺だけ。

 この世界で村の文化を……いや、百玉様の教えと誇りを護っているのは捌キノ健二ただ一人になってしまった。



 「もうこんな時間か」


 仕事終わり。

 ぐったりした気分で夜道を歩く。


 飯を作る気力もわかない。


 「チーズ入り激辛チャーハン……そうだな、もし百玉様に捧げるなら」


 唯一、外の世界の飯だけは認めている。

 その味を再現して、いつかは自分の料理に組み込みたい。


 ま、どれだけ俺にその気があろうと生贄を集める方法も人肉料理を作る場所も無いわけだが。


 「村が平和だった時代に戻りてぇな」


 そんな愚痴をこぼした瞬間の事だった。

 ツンと、慣れ親しんだ人の血の臭いがした。


 「あっちの方か?」


 外の世界でこれだけ濃い血の臭いを感じたことは無い。

 好奇心から、何より懐かしさから俺は臭いのする方向へ足を運んだ。


 そして、俺はそれを見た。


 「が……は……」

 「ご、ごめんなさい。私みたいな陰キャが急に首の骨を折ってごめんなさい」


 おとなしそうなメガネっ娘が、ホストの男の首を握りつぶしている。

 その首からは大量の血液が流れていた。


 「で、でもしょうがなかったんです。ホストの人の肉は比較的マシなので」

 「……」

 「貴方を見た時、良いカモに出来るなって思ったんです。ご、ごめんなさい。私みたいな人間がこんな上から目線でごめんなさい」


 明らかに絶命している男に向かって、メガネの女性は何度も何度も謝罪を繰り返す。

 その光景は、外の世界の常識に当てはめれば異常であるのだろう。


 「えっと、ナンバー2ホストだって言ってましたよね。それだけ優秀な人の肉を食べれば私は私で居られるんです」


 だが、そんな事はどうでもよかった。

 俺にとって、もっと大切な事をその女は口にしていたのだから。


 「あんた……人を食うのか?」

 「え?」


 思わず言葉にしていた。

 驚いた様な表情の女性に対し、俺は歯止めが利かなくなっていた。


 「どうやって食べるつもりだ?」

 「え?!えぇっと……食べれそうな肉を適当に切って焼きます。あと、人肉はまずいのでマヨネーズで味を上書きして食べます」

 「もったいねぇ!!!俺だったらもっといいものを作ってやれるのに!!!」


 そう、叫んでしまった。

 

 シンとあたりが鎮まる。

 しばらく女性と見つめあった後、俺は冷汗を垂らした。


 「も、もしかして……同志?」

 「へ?」

 「一生見つからないと思っていた、カニバリズム同志?というか……料理、出来るの??人の肉を?」


 ぐいぐいと、女性が近づいてくる。

 その眼鏡を曇らせながらぎゅっと俺の両手を掴んだ。


 「あ、あのあのあの。もしかして、このホストの人美味しい料理に出来たりしちゃいます?」

 「あぁ……それは誰よりも自信がある」

 「そっか、だからこの道だったんだ」

 「えっと」

 「あの!!私の家に来ませんか??そこで思う存分、ホストの人の肉を料理しませんか??」


 何か奇妙な光景だった。

 この外の世界で、まさかこんなお願いをされるとは思わなかった。


 さすがの俺でも異常だと思う。

 さすがの俺でもちょっと危ないと思う。


 でもー


 『それならせめて、百玉様の為に精進する事だ』

 『その腕が鈍ることのないよう、料理を続けることだ』

 『機会を見逃さない事だ』

 


 夢で聞こえた言葉が頭を駆け抜ける。

 俺には彼女の申し出を断る理由は無かった。

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