貴方にこの世界を見てほしいのです
『折り返しとはね……例年通り、無視されると思ってた』
「迷惑だったか?」
『驚いただけ。そのまま切らないで』
電話は結局外でした。
家の中だとミミミさんやユーフォに何を言われるか分からなかったからな。
「要件は部署の打ち上げだろ?」
『捌キノさんは強制参加です。用事なんか無いだろうけど、一応スケジュールを聞こうと思ったの』
ほらみろ。
例年通り強制参加じゃないか。
「特にないよ。そっちで決めてくれ」
『そう』
これ、掛けなおす必要あったのか?
ぶっちゃけ、ミミミさん関連以外に用事ってないし。
こんな確認電話じゃなくても会社で出来ただろうに。
「話はこれで終わりか?なら切るぞ」
『まって』
「なんだよ」
今の波内と他に話す事なんて無いと思うけどな。
仕事の説教とかだったらだるいが。
『どうして今年は掛けなおしてくれたの?』
少し意外な質問だった。
口調もいつもより柔らかい気がする。
『毎年怒られるからな。掛けなおした方が良いかと思っただけだ』
ミミミさんやユーフォの事は言わない方が良いだろう。
会社で下手に突っ込まれてボロを出すのが怖いしな。
『そう……前に比べて随分と現代社会に寛容的になったわね』
「お前」
そう言えば、波内は事あるごとに言っていたな。
『もう私達、子供じゃないの。いつまでも昔の価値観のままじゃいられないのよ』って。
波内はどこまで覚えているんだろう。
俺と同じぐらい……あるいはそれ以上に記憶を消されているのかもしれない。
『ねぇ知ってる?荒海さん、今度子供が高校生になるんだって』
「荒海?」
『ほら、うちの上司。いっつも名札とかホワイドボードで名前確認してるから覚えてないんでしょ?』
ぶっちゃけ、会社の人間と交流する気なんて無かったからなぁ。
というか、あの人子供いたのか。
初耳だった。
『あと、捌キノさんが対応してる取引先の美井子さん。お菓子作りが好きなんだって』
「お前よく知ってるな」
『貴方が気にしなさすぎなの』
波内の口調はかなり砕けた感じで、会社に居るときの冷たいセリフとは何かが違った。
会話の内容は現代社会に毒されたものだが……不思議と、ただの幼馴染だったあの時に戻ったみたいな。
『ねぇ……今年の打ち上げはさ、もっと他の人の話を聞いてみたら?』
「毎年聞いはいるだろ」
『右から左に聞きながしてるだけでしょ、全く』
はぁとため息をつく。
そのため息でさえ、普段の波内から感じる嫌悪感の様なものは無かった。
『少し、視点を広げてみようよ。嫌いかもしれないけど、もう少し仕事に頑張って取り組んでみたり、嫌いかもしれない相手の話を真剣に聞いてみたり』
「そんな事して何になる」
『新しい出会いがある。今までの自分に無かった選択肢をくれる出会いが』
「新たな……出会い」
ふと脳裏によぎったのはミミミさんの顔だった。
あの日、彼女と会わなかったら今の俺は居ないだろう。
ずっと死んだ顔で、この地獄の様な現代社会を生きていたはずだ。
それが今は毎日人肉料理を作って、百玉村も見つけた。
記憶だって、ユーフォを余所者だと突き放せばここまで戻らなかった。
俺も、知らず知らずのうちに出会いで人生を変えてたわけだ。
それも、俺が憎む現代社会で生まれた人間との出会いで。
「なぁ波内」
『何?』
「聞く価値もないような戯言でも新しい出会いをくれることってあると思うか?」
『そんなの状況次第だと思うけど……少なくとも、私はあったよ』
もしかしたら、俺はもったいない事をしていたのかもしれない。
上司の愚痴や家族の話を聞いていれば、ユーフォみたいな外の人間の扱いも分かったかもしれない。
波内の話をよく聞いていれば、天使が行った記憶消去の法則が見えるかもしれない。
あの地獄の様なオフィスの中に。
あわただしい電車の中に。
俺の嫌う現代社会の全てにあったかもしれなかったんだ。
俺の人生を。
百玉様の復活を。
ミミミさんの人生を。
手助けする何かとの出会いが。
「ハハ……そう考えたら、ただただ嫌々仕事するのはもったいないよな」
『だからずっと言ってたでしょ』
どのみち、会社からは逃れられない。
下手に動けば酒呑角トバリに詰められるかもしれないからな。
『次の打ち上げ、楽しみにしてるから』
「あぁ……上手くは出来ないだろうが、話を聞くよう努力するよ」
『それじゃぁまたね……けーくん』
「あぁ、明日また会社で」
なら、利用してやろう。
ミミミさんが居て、俺が居て、いつものように料理をする。
この幸せな生活を続けるために。




