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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
2章 疑似家族編

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波内アカリの願いは叶わない

 「それでさぁ!思うんだよ。それより先にこっちの業務終わらせるべきじゃないかって」

 「は、はぁ」


 目の前で悪酔いする上司。

 何一つ共感できない話の連発。


 色々考えて臨んだ打ち上げは例年通りに苦痛だった。

 いや、話をまともに聞こうとしている時点で例年より苦痛かもしれない。


 これ、いつも通りにミミミさんの家に帰った方が良かったんじゃないか?

 後悔の波が何度も押し寄せて来る。


 『健二さん、健二さん。いい考えだと思います!!打ち上げ、頑張ってくださいね』

 『そこまで言われて村の話とか神様の話につなげんのって感じはするけど。ま、まともに生活できるなら私はそれでいいし』


 ミミミさんとユーフォにそう言われた手前、そそくさと帰れない。

 少なくとも、何かしら今後に生かせる何かを持ち帰るまでは。


 「荒海さん、少し飲み過ぎじゃないですか?」

 「波内ちゃん、いやいやそんな事ないよ。俺が若手の時はもっと上司に飲まされてたんだから」


 後ろから波内の声。

 他のテーブルに座っていた彼女が麦茶をもってやってきた。


 「捌キノさん。隣座って良い?」

 「あぁ」


 何ならむしろ助かる。

 この状態の上司と二人っきりはかなりしんどい所だ。


 「昔はお酒が弱くてさぁ、本当につらかったよぉ」

 「じゃぁ無理に来なくても良かったんじゃ」

 「そう言う訳にも行かないよ健二君。今はハラスメントがどうこうって時代だけどさぁー」


 この人も苦労してるんだな。

 というか、そんな苦労しないと生きてこれない現代社会はやはり邪悪では?

 村では無理に酒を飲ませるなんて事は無かったし。


 『不躾なお願いかもしれないけど、次の生贄を俺にしてくれないか?』

 『どうしたんだよ』

 『この前、脚が折れちまってな。それ以来まとも力仕事が出来ねぇ。そんな状態で長らくい来るくらいならと思ったんだよ』


 村なら、嫌になった時に簡単にリタイア出来る。

 百玉様の贄となり、次はより良い人生に恵まれるように祈りを込めて魂は転生する。


 「波内ちゃんはそう言う話は嫌いそうだよねぇ」

 「そうですね。令和の時代で良かったと思いますよ」

 「おじさんは時代の荒波に飲まれててんやわんやだよ」

 

 こんな苦労をして生きても、次の魂を供養してくれる神は現代社会には居ない。

 

 「そう言えばさ、最近娘が反抗期でさぁ」

 「あぁ、もう高校生になるんですもんね」

 「そう。個人的にはSNSとかやめてほしいんだけどねぇ。価値観が若い娘と合わないと言うか」


 価値観が合わない娘との会話。

 これだ。

 この話だけ何とか聞いて帰っちまおう。


 「最近はネットに顔を出すのも普通とか……そう言うの怖いって俺は思うんだけど」

 「分かる様な気がします」

 「お!!健二君分かってくれるか」

 

 せっかく来たんだから、何かしら持ち帰って帰ってやる。



 じっと、隣に座るけーくんの顔を見ていた。

 げっそりとして、あまり楽しそうには見えなかった。


 でも、やっぱり今年のけーくんは何か違う。


 「娘にさぁ、位置共有アプリなんて怖くない?っていったら分かってないって言われるんだよ」

 「いや、普通に考えて怖いでしょ。それ」


 あのけーくんが皆と話してる。

 ただ聞き流すんじゃなくて、ちゃんと会話してる。


 「そうだよね。健二君もそう思うよね」

 「言えば良いんですよ。そんなもの使ってロクな事は無いって」


 「それが甘いんだな健二君。そう言うのは上から否定しちゃダメなんだよ」

 「えぇ」


 けーくんが今も嫌っているであろう現代社会を生きる皆と話してる。

 これはいい兆候だ。


 きっと、まだ私の様に現代社会を受け入れてはいない。

 けーくんの心はきっとまだ、百玉村にあるんだと思う。


 でも、きっかけは作れた。

 ここからどんどん、けーくんの興味をこっち側に引き寄せよう。


 「すみません。少しお手洗いに行ってきますね」


 スマホと少しの荷物をもって席を立つ。


 「お、波内ちゃん大丈夫かい?」

 「少し悪酔いしてしまったみたいで」


 本当はもう少し、けーくんの様子を見守りたい。

 会社の人たちとも色々喋りたい気持ちもある。


 「そう言えば毎年途中で悪酔いしちゃうよね、波内さん」

 「毎年?そうだったけか?」

 「健二君、それは流石に酷いんじゃない」

 

 でも、約束の時間が近づいてる。

 今年も、酔ったふりをして店の外に出ないと。

 

 「大丈夫です。捌キノさんがそう言うのに疎いのは知ってますから」


 トバリさんが今年も外で待っているから。



 「やっほ~波内ちゃん」

 「すみません。お待たせしちゃって」

 「良いの良いの」


 酔いを醒ますと言って店を出る。

 そこに立っていたのはいつものロングコートを羽織ったトバリさんだった。


 「今年の彼はどう?」

 「例年に比べてかなり前進してます。楽しそうでは無かったですけど、ちゃんと会社の人間とコミュニケーションを取っていましたから」


 この会社は毎年この時期に課の打ち上げをする。

 忘年会でも、締め日でもない。

 何の記念日でもないこの時期に。


 「そっか。ならあとは捌キノ健二がこっちの世界で居場所を作ってくれれば一気に好転しそうだね」

 

 この打ち上げは、仕組まれているのだ。

 私とトバリさんが、けーくんの様子をチェックするために。


 「いや~。それにしてもここまで来るのが長かったねぇ」

 「全くです。けーくんがずっとこっちを見ようともしてくれなかったので大変でした」

 「まぁ、それだけ彼の心が百玉村にあったんだろうねぇ」


 この事実を知っているのは、私だけだ。

 

 打ち上げというイベントを通して、けーくんが社会に馴染んでいるかを観察する。

 酒を飲ませて、普段何をしているのか言いやすい環境を作る。


 プライベートが虚無なのであれば、けーくんを支える方針を立てる。

 それなりに充実していそうだったら見守る。


 そして……万が一。

 万が一にもプライベートで百玉村復活の計画を立てているのが発覚した場合、外で待機していたトバリさんがけーくんを捕まえる。


 毎年胃が痛いんだから。

 けーくんが変な事してないかって心配になるし。


 「ねぇ波内ちゃん」

 「なんですか?」

 「今年も買ったの?遊園地のチケット」


 そう言われて、私はポケットからペアチケットを一つ取り出した。

 毎年買っている、近くの遊園地のチケットだ。


 「今年は彼を誘っても良いんじゃない?」


 このチケットは叶うことの無い私の夢だ。

 いつか、現代社会をうけいれたけーくんを誘って遊園地に行ってみたいと言うだけの夢。


 毎年毎年、誘おうとはするんだけどねぇ。

 あの過去に囚われている目をしているけーくんを誘うなんて私にはなくて。


 「いえ、今年も遠慮しておきます」

 「いいの?だって、今の彼なら話は聞いてくれるでしょ」


 トバリさんの言う通りではある。

 今年のけーくんは、ほんの少しだけ現代社会に目を向けてくれている。


 話ぐらいは聞いてくれるかも。

 上手く丸め込めば、一緒に遊園地に行けるかもしれない。


 でもー


 「ごめんなさい……今のけーくんにはまだ早い気がするので」


 ここで焦って、ミスをするのが一番怖い。

 私のせいでけーくんが百玉村側の人間に戻ってしまうのが一番怖い。


 「そう。だったら今年も私と行こうか」

 「すみません、毎年」

 「良いの良いの。私だって、たまには息抜きしたいしさ」

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