異文化交流
「ただいま。ミミミさん、居るか?」
「残念。今はユーフォちゃんしかおりませ〜ん」
ミミミさんの家でユーフォをかくまうようになって数日がたった。
「この時間に居ないって事は、バイトが長引いてそうだな」
「そうなんじゃない?知らんけど」
ユーフォはヤクザだの警察だのに追われている身で気軽な外出ができない。
ミミミさんは大学にバイトに勤しみ、ついでに食べる用の人間を攫うことも多く、帰りが遅い。
その結果、俺とユーフォの二人で過ごす時間が多くなった。
「それより健二〜。私の晩ご飯は?」
「ほら。これでいいんだろ?」
思わず漏れたため息。
コンビニ袋に詰め込まれたカップ麺を俺はユーフォに渡した。
「何度も言ってるが、巫女でもないお前に人肉料理を食べさせるつもりは無い。普通の晩飯ぐらい作ってやる」
「いや、普通に考えて人間解体ショーやってる奴の手料理なんか食べたくないでしょ」
カップ麺なら何かを仕込まれる事もないから安心。
何より、まともな人の手で作り出された普通の食べ物なのが良い。
そういう理屈らしい。
極めつけはマスクだ。
ユーフォは黒いマスクを頑なに外そうとしない。
飯も必ず一人。
誰にも見られない所で食べる。
村に居た時は皆で食卓を囲うのが当たり前だったもんだがなぁ。
「てかさぁ、健二はちゃんとスマホ使いなよ。メッセ何送っても見ないじゃん」
「スマホは好きじゃないし、メッセージは逐一確認しない。いつも言ってるだろ」
ぶっちゃけた話、ユーフォと二人は疲れる。
会社にいる時と変わらない息苦しさがある。
米を炊く準備をする。
気づけばまたため息をついていた。
そうこうしていると、ガチャリと扉の開く音が。
ミミミさんが帰って来たのだ。
「ただいま〜」
「あ、ミミミちゃん聞いてよー」
我先にとユーフォが玄関に走る。
そしてー
「え?」
ユーフォの騒がしい声は、一幕の沈黙をおいて事件性を感じる悲鳴へと様変わりした。
「ミミミちゃん……血まみれ」
「あぁこれ?大丈夫だよ、今日は少し雑にころしてもバレない気がしたんだ」
リビングにはいったミミミさんは全身かえりちまみれだった。
肩には大柄な男の死体を担いでいる。
「その血の量だと臭いがきついだろう?風呂を沸かせているから早く入るといい」
「ありがとうございます。因みに健二さん、今日は何を作ってくれるんですか?」
そうだなぁ。
ぶっちゃけ言うと、ここまで大柄な人間が運ばれてくるとは思わなかった。
唐揚げを作ろうかと思っていたが。
可食部を全部唐揚げにしてしまうと恐ろしい量になる。
さすがのミミミさんも油で胸焼けしてしまうだろう。
さいわい、ユーフォとのゴタゴタがあってまだ油の用意は出来ていない。
ならー
「今日は久しぶりに鍋にするか」
「いいですね!!なんだが出会ったばかりの事を思い出しますね」
ウキウキと話すミミミさん。
その後ろでぺたんと座っているユーフォの姿が目に入った。
「そういえば、ユーフォも風呂まだだろ?ミミミさんが出た後に入ー」
「今日はいい。風呂キャンする」
風呂キャン?
聞き慣れない単語に困惑している間にユーフォは姿を消していた。
元々ミミミさんの部屋だった場所に引きこもってしまった。
「死体を見るといつもこれだな」
「ま、まぁ私たちの方がおかしいので、しかたないとは思いますけれど」
ミミミさんとの関係と、ユーフォとの関係は大きく違う。
食人という共通の価値観を持つミミミさん。
利害が一致しているだけで、根本の価値観は相容れないユーフォ。
今の所、互いにとって大きな問題は起こっていないが……この価値観の不和が後々大きな問題を起こすのではないかと。
俺は今更になって不安になった。
「大丈夫ですよ、健二さん」
そっと、ミミミさんが俺の手を握っていた。
「今はこんなですけど、きっとユーフォちゃんとも仲良くなれるはずです」
「そんな気がするって感じか?」
「はい」
ミミミさん以外の人間がそう言ったなら、俺は笑飛ばして否定しただろう。
何せ、全く想像ができないからな。
でも、他でもないミミミさんの勘がそう言っているのだ。
なら、問題はないだろう。
◇
「健二さん……ユーフォちゃんの事で不安そうだったなぁ」
リビングに敷いたマットの上に寝転ぶ。
健二さんは家に帰り、ユーフォちゃんは占領した私のベッドで寝ている事だろう。
「本当に大丈夫なんですよ、健二さん」
ユーフォちゃんが家に来て、色々大変だったなぁ。
健二さんとユーフォちゃんは馬が合わなそうだし。
私も見てるだけでハラハラしてた。
「健二さんには言っておくべきかな?」
そして、私にも大きな変化が一つ。
ユーフォちゃんが来てから、『特別な夢』を見るようになった。
「う~ん……やっぱり健二さんには言わない方が良いような気がするなぁ」
ユーフォちゃんの悪魔の力というのが私の勘と干渉してる?
それとも、健二さんが作ってくれる人の肉をいっぱい食べた結果芽生えた力?
それとも、百玉村に行ったときに神様の肉を食べたのが原因?
詳しい事は分からない。
でも、どうでも良いの。
大事なのは夢の中身。
『私を料理するのは健二が良いなぁ』
『おいおい、俺はもう引退してるんだぞ』
『それでも、健二が良い。色々あって、ほんっと詰みゲーな人生……そんな私の人生を終わらせるのは健二とミミミちゃんが良い』
夢の世界は、いつも決まって荒廃した世界の中。
風化したビル。
溶けた電柱。
コンクリートを引き裂くように生えた植物。
『いつも言ってるだろ。終わりじゃない、お前の魂は次へ向かうんだ』
『えーこんな時も説教ぉ』
『大事な話だからな』
『ジジイになってもそういう所は変わんないよね』
世紀末の世界に、どこか懐かしい村の雰囲気を合わせた不思議な世界。
そこで、健二さんとユーフォちゃんが仲良さげに話しているのだ。
『ミミミちゃん、どうやって私を食べるかなぁ。う~ん。がつがつ噛まれるのは嫌かも?』
『ならスープにするか?』
『それはそれで芸がない。安直』
『お前もいい年だろうに、我儘な所は変わらないな』
夢はこの辺りで不意に終わる。
次に意識が覚醒するのは目が覚めた頃だ。
ただの夢かもしれない。
何の意味もない光景かもしれない。
でも、私の勘がささやくの。
これはきっと、もう少し先の未来のお話だって。




