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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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故郷 / 別れ

 「その後はけーくんも知っての通り。子供たちは連行されて、今は現代社会で暮らしてる」


 また視界が歪んだ。

 憎きトバリの姿も、荒れた故郷の姿も正しく認識できない。


 「私達は天使によって何かの細工をされた……その結果、百玉村の言葉を話せなくなった」

 「なぁ波内……この空間でも、前の言葉を取り戻すことは出来ないのか?」

 「ごめんね。それは無理みたい」


 何となく、分かっていた事だ。

 残念だが仕方がない。


 それにしてもー


 「まいったな……今のを見て、怖くなっちまった」


 もちろん、現代社会は嫌いだ。

 百玉様や村の皆を滅ぼしたトバリにだって復讐したい……何よりするべきなんだろう。


 でも、無理だって思ってしまった。

 今の光景を見て……どうやったらあれを倒せると思える?


 『私が絶対!!健二さんを百玉村まで連れて行きますから!!』


 せっかく、理解者と呼べる人を見つけられたのに。

 クソみたいな現代社会の中で、生きがいを言えるものを見つけられたのに。


 それをまた、トバリや警察に壊されるかもしれない。

 そう考えただけで、俺は恐ろしい。


 できればもう、俺に関わらないでほしい。


 「それで良いんだよ、けーくん」

 「え?」

 「無理に復讐とかする必要は無いの。だって、あんなのどう頑張っても勝てないでしょ」

 「でもー」


 そんなのは軽薄なんじゃないか?

 もう、百玉村の生き残りは俺しかいないのに、皆の無念を知るのは俺しかいないのに。


 「いいの。けーくんは百玉様を復活させた。まだ力の一部しか残っていないけれど、それで十分なの」

 

 ぎゅっと、子供の体で波内は俺を抱きしめた。


 「けーくんは自由に生きて良い。それを百玉様も望んでる」

 「百玉様が?」

 「そう言ってたよ。今のけーくんの生活の先に、次の百玉村があるって」


 ぱっと波内が離れる。

 幼かった瞳がキッと凛々しくなる。


 「おいおい……やっぱり、その姿の波内は苦手だな」

 「それでいいですよ。もう、貴方の幼馴染だった百玉村の波内はいませんから」

 「……そうだよな」


 気づけば波内は大人の姿に変わっていた。

 現代社会に隷属する、見慣れたスーツ姿の波内に。


 「じゃぁ、なんでそんな悲しそうな顔するんだよ」

 「さぁ、それは捌キノさんがそう思っているからでは」


 口調もすっかり現実と同じ冷たさになってまぁ。

 一気に引き戻されちまった。


 「さぁ、もう必要な情報は集まったでしょう?早く現実に帰りなさい」

 「見送る時ぐらい、最後まで良い気持ちにしてくれないか?」


 この夢が終わるって事は、この百玉村ともお別れになる。

 オヤジや母さん……それに、俺が仲良かった頃の波内も。


 寂しいな。

 出来ることなら、ずっとここに。


 「いつまでも、過去に囚われる訳にはいかないでしょう?」


 ふと、ミミミさんの事が脳裏に浮かんだ。

 俺の料理を心待ちにしている彼女の姿が、鮮明にイメージ出来た。

 

 現実の世界でミミミさんが待ってる。

 俺がこの世界で怠ける訳にはいかねぇか。


 「あぁ……そうだな」


 波内に会社で言われたその言葉。

 いつもは冷たく、俺を引き離すための言葉。


 不思議なもんだ。

 同じ音の言葉なのに、いつもと違って良い気分がする。


 「それに、女の子を待たせるものではありませんよ」

 「それってー」


 問いただそうとしたその瞬間の事だ。

 俺の意識はぷつんと暗闇に落ちた。

 

 ◇



 「ん。ここは」


 感じたのは土の匂い。

 背中がゴツゴツとした何かに当たっている感覚。


 だが、それよりも俺の五感を刺激したものがあった。

 

 「け、健二さんまだ寝てる。もしかして……ほっぺにチューとかしてもばれない?」


 バクバクとなる心臓の音だ。


 「良いのかなそんな事して。で、でも……だって、神様も良いよって言ってたし」


 もちろん、俺の心臓の音ではない。

 何故か、顔を真っ赤にして抱き着いているミミミさんの心臓がうるさくなっている。


 「とととと言うか……百玉様って健二さんのご先祖様って……どうしてあんな事しちゃったのかなぁ私」


 ちょ。

 痛い。


 ミミミさん。

 痛いし、この位置だと上手く息できない。


 「ミミミさん」

 「は、健二さん?!」


 バッと慌てた様子でミミミさんが離れる。

 顔はまだ赤く、ほんのりと汗もかいているようだった。


 なんか、不思議な気分だ。

 ミミミさんの顔を見ただけで、帰ってきたんだなって気分になる。


 「えっと健二さん……ここは」

 「あぁ分かってるよ」

 

 ゆっくりと、腰に力を入れる。

 立ち上がって、ボロボロになっている集落を見渡した。


 「ここが、現実の百玉村」


 現実の村は懐かしい匂いなんてしなかった。

 あったのは、静かな風の音だけだ。


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