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ハッピー・カニバリズム・スローライフ~因習村育ちの社畜、人肉料理を振る舞ったら女子大生に世界を壊すほど愛された~  作者: アカアオ
1章 はぐれ者、二人

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ロキの死骸

 「死にかけの神様」

 「そそ。何隠そう私もそうなんだよねぇ」


 心臓がバクバクとなっている。

 あの虹髪の借金取りは危険だ。


 私の勘が警鐘を鳴らしてやまない。

 こんなの、初めてだ。


 落ち着かないと。

 健二さんを守れるのは私だけなんだから。


 「君は北欧神話で有名なロキって知ってるかい?」

 「な、名前ぐらいなら」

 「ほうほう。最近はゲームとかでも出て来るもんね。いやー有名人は困るなぁ」


 現状、一番警戒しないといけないのは正面の虹髪。

 気がかりなのは、この状態になっても健二さんが目覚めない事。

 そして……なぜかこのタイミングで健二さんが信仰している百玉様が現れた事。


 「ロキって神様は実在してたんだ。ほんの数年前まで」

 「数年前?」

 「そ。色々好き勝手やってたロキは他の神様や世界を書き換える力を持った災厄、そして何人かの超能力者によって殺されたの」


 私の勘が告げている。

 健二さんと百玉様の事は気にしなくても良いと。


 私は、きっと虹髪の女から目を離しちゃいけない。


 「だけど、私ってあきらめが悪い神様でね。死ぬ間際に自分の細胞を霧散させたの、ウイルスみたいにさ」

 

 「じゃぁ、今のあなたは一体?」


 「そのウイルスと適合した人間の体を奪ってる状態。えっと何だっけ、こういう事案を対処している警察達は私の事を【ロキの死骸】って呼んでるみたいだよ?」


 勘に頼らなくても分かる。

 彼女はただの中二病とは違う。


 きっと、本物の神様。 

 その成れの果てなんだ。


 「んま、そんな事はどうでもよくってさぁ……私が用あるのはこの家の主の方なんだよね」


 一言、選択を間違えるだけで殺される。

 

 「ウチの金を借りてたクズは今どうしてるの?もしかして死んじゃったかな?」


 ポンコツな私の頭が出した答えは沈黙だった。 

 だって正直に言ってもいい方向へ進むビジョンは見えない。

 そもそも、こんな人に正面切って立ち向かうような事を言うのは怖い。


 でも、そんな私を叱咤する様に全身から勘がつぶやくんだ。

 『正直に全部話した方が良い』って。


 「食べました」

 「あぁ、なるほど食べたの……ん??なんて?」

 「だから、食べたんです。この家に住んでいた人を、殺して、私が、食べました」


 部屋が静まり返る。

 私が自分の選択を後悔し始めた、その時の事だった。


 「あははは!!!!あははははははははは!!!」


 突然、ロキの死骸を名乗る彼女が笑い始めた。

 地面をのたうち回り、おなかが痛いと言いながら。


 愉快そうに、バンバンと地面を叩いて。


 「ひー、へぇそうなんだ。これも縁って奴なのかなぁ」

 「な、なんですか急に」


 縁って何の事?

 健二さんや百玉様と何か関係があるの?


 いや、それは違う。

 あの人は私の発言を聞いて笑ったんだ。


 じゃぁ、私との縁?

 一体何の?


 「いや~私の会社ってぶっちゃけ言うと違法な金貸しなの。ってことは……とーぜんそのバックにはヤクザが居るでしょ?」


 「あ、あの……本当に唐突過ぎて話が見えなー」


 「そのヤクザのトップがね、言うんだよ」


 この人、私の話を聞かない。

 自分が言いたい事だけ言うじゃん。


 「昔、人間を食べる女のガキに脅されたことがあるって」

 「え?」

 「何だったかなぁ……『あなたのラーメンを食べたせいで、私は自分の無能に耐えられなくなったんです』とか、『責任とってください』とか言われたらしいよ」


 身に覚えがあった。


 『一体何なんだテメェは。どうしてチャカが当たらねぇ!!』

 『ニュースの報道、見たんです。あのラーメン、人の死体を使ってスープを作ってたんですよね』

 『おい、やめろ!!こっち来るんじゃねぇ』

 『私、気づいたんです。ここ何カ月、別人のように調子が良かったのは……きっと人の肉を食べたからだって』


 中学3年のあの日。

 耐えきれずに家族を殺して食べたあの日。

  

 私は、裏でヤクザをやっていたと報道されていた男の人を脅したんだ。


 「その顔は図星かぁ……よし!決めた」


 ふと、反応が遅れた。

 気づいた時には彼女は拳銃を構えていてー


 「金は回収できなかったけど、代わりに君の生首を持って帰ろうか」

 「な」

 「きっとアイツも喜ぶよ。なんせ不安の種が無くなるんだから」

 

 パァンと音が鳴った。

 いつもなら、山勘で銃撃なんか簡単に避けられる。

 

 でもどうしよう。

 色んな事があって、動揺しすぎたせいで体の動きが鈍い。


 このままじゃ、避けきれない。


 「だいじょうぶ」

 

 瞬間。

 静かにこの場を見守っていた百玉様が動いた。


 「こんな危ない道具は……私達の村には要らない」


 百玉様はその銃弾を素手で掴む。

 そしてー


 「へぇ……その男が寝ているのはそう言う事か」

 「けんぼうは示した、自分の役割……そして、自分の信念。だからわたしが直接、百玉村まで連れて行く」


 「そこまでその男に執着する意味は?」

 「かんたん。村の子はわたしの子も同然……捌キノ家の人間は特に」

 

 百玉様が言葉を唱える。

 その度に、周囲で異音が鳴り響いた。


 「過ぎた技術、行き過ぎた社会、人の手に余る道具、一切不要」


 ロキの死骸が持っていた拳銃がひび割れ、壊れた部分から木片が飛び出す。 

 家電がバチバチと音を鳴らし、ひとりでに破損する。

 部屋の照明はカチカチと音を鳴らして輝きを失った。


 「全て、人が人として暮らせる時代まで回帰せよ」


 そして、照明がまた光った。

 異様な煙と共に。


 「これ……燃えてる?」


 電気で光っていた照明が、今度は火で明かりを灯していた。

 火はごうごうと燃え、部屋に燃え移る。


 何故か、家電の一部は木製の道具に変化していた。

 そのせいもあって、火の勢いは増すばかり。


 「にげるよ」

 

 すっと、健二さんを抱えた百玉様が私に声を掛ける。

 それと同時、私の勘も告げていた。


 逃げるなら今しかないって。


 「けんぼうと私をおぶって……気の向くまま飛べばいい」

 「もしかして、飛んだ先が百玉村になるんですか?」

 「そうなるよう、支援する」


 なんで私の為に。

 この超常現象は何?


 聞きたいことは色々あった。

 けど、今はそんなことしてる場合じゃない。


 「行きます!!しっかり捕まってください」

 「へぇ……ここまで派手な事して逃げるつもりなんだ」


 健二さんと、百玉様の体を掴む。

 本当はもっと丁寧に支えたかった。


 けど、すっごく嫌な予感がする。

 二人を落とさないように、地面を蹴って私は家から飛び出した。


 足が痛い。

 肩も外れそう。

 

 不思議なのは、さっきまで火の中に居たのに右足が妙に冷たい。


 そう感じながら空中を舞う。

 ちらりと、後ろを振り向いた。


 そこで私が見たのはまさに異常だった。


 「うそ……凍ってる?」


 さっきまで燃えていた家が凍っていたのだ。

 後1秒、私が遅れていたら。


 「今頃、あの氷の中」


 大丈夫、大丈夫。

 私の勘は言っている。

 このまま逃げれば、あいつは私に追い付けない。


 「急がなきゃ」


 私は一心不乱に足を動かした。

 昨日、健二さんの作ってくれた料理を食べた影響かな……体が凄く軽い。


 成人男性と神様を抱えて、何度も跳躍を繰り返していた。

 電柱のてっぺんと地面を行き来しながら、私はひたすら前へと進んだ。

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