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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第6部「ありがとう、さようなら」
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3 “かんたん”なことで

 第3話:絶縁体インシュレーターの知恵


 テックフルネス・アソシエイト社内。

 社名変更のプレスリリースが流れる喧騒の中、臼井マネージャーは新設された「AIサービス総合センター」の準備室で、一人の黒いショートヘアで物静かに見える小柄な女性と向き合っていた。

 星あずさ。

 マルトクテックカンパニーにおいて、【下僕プラン】の最高評価を維持し続けた不動のエース。

 何事にも『迅速さとハート』をもって応じてきた。


「あずささん。正直に聞かせてほしいの」

 臼井は、手元の端末に表示された「大更新時の生存ログ」を指し示した。

「あの『大更新』のとき、AIのバグと過剰な感情フィードバックで、多くのスタッフがメンタルか回路を焼き切られた。なのに、あなただけはスコアが1ミリもブレなかった。……そのカラクリは何?」


 あずさは、穏やかながらハキハキとした口調で、迷いなく答えた。

「ああ、それですか。物理的な『絶縁』と、精神的な『絶縁』を両立させただけですよ」


「絶縁?」

「ええ。叔母さん――堀家政婦相談所にいる星ふみえ氏から教わったんです。彼女はあそこでワケ有り……具体的には変人や怪異案件専門に扱うから、まともに受けてたら命が足りないって」


 あずさは、こともなげに続けた。

「ふみえ叔母さんは言いました。『あずささん、ときに変なモノに憑かれたり、電気的な干渉を受けたりするのは、あなたの心が“通電”しすぎるから。ゴム手袋をはめるみたいに、自分と相手の間に一線を画すの。これでずいぶん軽くなるわ』って。だから私、支給されたデバイスの裏側に薄い絶縁シートを仕込んで、電磁波のノイズを物理的にカットしたんです。ついでに、たまに来たクライアントの『偏愛』という名の感情電流も、心の手前で全部放電するようにしました」


 臼井は目を見開いた。

 村田が「情」で顧客と心中しかけたのに対し、あずさは叔母譲りの「家政婦のプロの知恵」で、自らを絶縁体へと変えていたのだ。


「あっさりしてるでしょ? でも、これからの『AI執事サービス』には、村田くんみたいな献身よりも、私みたいな『適切な距離感』が必要だと思うんです」


 臼井は思わず吹き出した。

「……完敗だわ。井筒部長が『現場がイイ』って言ってた意味が、今わかった気がする」


 そして、彼女は自身のバッグから取り出した手帳の余白欄に、

「ホシさん、すごっ!」と、走り書いた。

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