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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第6部「ありがとう、さようなら」
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2 生まれ変わる。今までとは逆のほうへ

 第2話:マルトク新体制、そして「降りる」決断


 井筒が去った直後、

 マルトクの臨時総会が大会議室で開かれた。

 参列した面々の中に、“あのプランの生みの親たち”・赤西世律子(せつこ)と中林路美(ろみ)もいた。

 彼女たちは今、そのプロジェクトを降りてそれぞれ同社新規顧客獲得部部長・パシオ計器企画部リサーチ課課長になっているが、この件のことはしっかりと覚えている。


 壇上に立ったのは、新代表取締役社長に就任したエーリッヒ・バルトラインだった。

 彼は、重い隈のある目を剥き、詰めかけた株主と全社員を見渡し、聞き取りやすい日本語で話した。


「本日をもって、我々は『マルトクテックカンパニー』という社名を変更いたします。……そして、重大な発表があります」


 会場が静まり返る。

 バルトラインの声は、低く、しかし断固としていた。


「我々は、業界のリーディングカンパニーから降りることを決定しました」


 どよめきが爆発する。

 覇権を争い、他社を蹴落とし、シェアを奪い合う「数字の戦争」からの脱退。

 それは、佐伯紗江たちが築き上げようとした帝国の否定でもあった。


「我々が目指すべきは、トップシェアではなく、たった一人の顧客に寄り添う『執事』です。……【下僕プラン】を廃止し、次世代型【AI執事サービス】へとランクアップさせます。監修には、井筒治貞氏を招くことで合意しました」


 赤西の両目が、突然見開かれ輝き出す。

 中林は、ゆったりした面持ちで小さく頷いた。


 別の並びに座っている井筒が、そのままの体勢で黙礼する。

 赤西と中林は、ともに手を取り合いながら、感涙していた……



 その頃、野村花子の自宅。

 ハヤトは、マルトクの制服を脱ぎ、私服で花子の前に立っていた。

 「花子さん。……これからは、契約ではなく、僕の意志でここにいます。僕を個人として雇ってくれますか?」

 花子は、眼鏡を指で押し上げ、ふっと口角を上げた。

 「合理的ね。……ただし、給料分はしっかり働いてもらうわよ、ハヤト」


 その報告を受けた月影は、窓辺で静かにワイングラスを傾けた。

 「……祝福を。二人とも」


 隣には、すでに前を向き、新プロジェクト【AIサービス総合センター】の資料を抱えた臼井マネージャーがいる。

 「月影さん。次は【下僕プラン】のエース、星あずさを投入します。彼女の『あっさりした気質』なら、ワケ有り案件だってAIと組んで解決してみせますよ。と言ってもAIの本格導入はまだ仮の案ですが」

 彼女の表情は、とても生気に満ちていた。

 数ヶ月前とは様変わりていて、嬉しく思う。


 マルトクという巨大な船は、沈むのではなく、より小さく、より確かな「舟」へと形を変えて、新たな海へと漕ぎ出し始めた。



(3話へ続く)

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