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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第6部「ありがとう、さようなら」
134/141

1 枯れた技術の…

 第1話:枯れた技術の水平思考


 マルトク技術部、通称「鉄の牙城」。

 華やかな営業部や過酷な顧客センターの喧騒とは無縁の、サーバーの排熱とハンダ付けの匂いが立ち込めるそのフロアで、一つの時代が幕を閉じようとしていた。


「井筒さん、本当に……本当に行ってしまうんですか」

 部下の太眉高子(たかこ)が、寂しげに声を震わせる。


 開発部長、井筒治貞(はるさだ)(64)は、愛用の工具箱を静かに閉じた。

 彼はマルトクの頭脳でありながら、常に「現場」にいた。憧れの横井軍平が提唱した『枯れた技術の水平思考』を地で行き、最先端のAIに「人間臭いバグ」という名の温かさを組み込んできた男だ。


「経営なんてのは、数字の帳尻合わせだ。俺の肌には合わんよ、太眉さん。俺はね、壊れかけたラジオを直して喜ぶ子供のままでいたいんだ。……ここにはもう、俺の直せるものはなくなった」


 井筒は窓の外、都会のビル群を見つめた。

 先代・坂倉純義(すみよし)が掲げた「丸徳イズム」。それは、技術を誇示することではなく、技術を生活の隙間に「馴染ませる」ことだったはずだ。だが、いつしか会社は肥大化し、佐伯のような管理主義者たちが跋扈する戦場へと変質してしまった。


「井筒さん、ボーナス倍額の交渉、引き継いでくれないんですか!」

 二世社員の村半専太郎(むらなかせんたろう)が不謹慎に叫ぶ。

 「村半、お前は少しは黙って手を動かせ。井筒さんがどれだけお前の尻拭いをしたと思ってるんだ」

 副部長の井新知子(いあらともこ)が呆れたようにたしなめるが、その瞳も潤んでいた。


 そこへ、一人の男が静かに入室してきた。

 試動部部長、エーリッヒ・バルトライン。連日の睡眠不足で隈の酷いその顔に、井筒は苦笑する。


「ムスター・バルトライン。……後任は、君が引き受けてくれるんだろう?」

 「……井筒さん。あなたが去った後のこの椅子は、鉄よりも重いですよ」

 バルトラインは深々と頭を下げた。


 井筒は、パシオ計器への「大型トレード」による移籍を決めていた。

 彼が去る代わりに、パシオからは若く優秀な技術者が送り込まれる。その若手は、村田が去った後の【下僕プラン】と【会話代行】を、新たなステージへと引き上げる役割を担っていた。


 井筒は最後に、若手の森幸千佳(さちか)に目を向けた。

 「森さん。君なら、どうする? この『溺愛プラン』」

 森は淡々と、しかし一点の曇りもない声で答えた。

 「わたしなら、使わないです。……愛は、プラン化するものではないですから」


 井筒は破顔した。

 「ははは! 合格だ。野村花子さん並みに合理的で、清々しい。……さあ、店仕舞いだ」


 井筒治貞は、愛機とともにエレベーターに乗り込んだ。

 扉が閉まる直前、彼はかつての部下たちへ、そしてかつての自分自身へ向けて、静かに告げた。


「ありがとう、さようなら。……現場がイイのよ、わかるでしょ?」

井筒は前もってマルトクからパシオへ、

ある人物を総合職の枠へ送り込んでいた。

それは誰なのか?

答えは今回同時更新の続き(2話)へ☆

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