【軽部昭代暴走!】逆上して執着、拡散される「捏造」
▶ 逆上して執着、拡散される「捏造」
本来自邸のはずの軽部邸を追い出された軽部昭代は、夜の港区の路上で、抑えきれない怒りに身を震わせていた。妹に絶縁され、頼みの綱だった法務OBも「これ以上はリスクが高すぎる」と彼女を捨てて逃げ出した。
「ふざけないでよ……あのガキも、あの気取った上司も。全部、あいつらが妹を洗脳したせいじゃない」
彼女の手にあったのは、トシ子の部屋に踏み込んだ際に、混乱に乗じて隠し撮りしていたスマートフォンの動画データだった。そこには、月影が昭代の腕を制した瞬間や、村田がトシ子に詰め寄っているように見える断片的な場面が収められていた。
昭代は震える指で、かつて出入りしていたクレーマー集団『インフラ・スレイヤー』のチャットグループに火を放った。
「これ、使えるわよね? 『大手企業の幹部による一般女性への暴行』。タイトルは派手にして」
数時間後。深夜二時を回った頃。
月影の管理する『シェルター』のモニターが、異常な速度で流れるログを検知した。
「……始まったか」
月影が苦々しく呟いた。SNS上には、巧みに編集された動画が爆発的な勢いで拡散されていた。
『【衝撃映像】マルトクテック幹部、顧客の自宅に押し入り暴行か』
『担当スタッフが顧客の妹を洗脳。家庭崩壊の悲劇』
動画のコメント欄には、正義感に駆られた匿名ユーザーたちの罵詈雑言が並ぶ。
「これが大手のやり方か」「村田ってやつ、顔が出てるぞ」「月影って上司、暴力団員みたいだ」
捏造されたストーリーは、真実よりも速く、深く、世間に浸透していく。昭代はさらに、あらかじめ法務OBから流されていた「村田が過去に起こした(と捏造された)トラブル事例」を紐付け、火に油を注いだ。
村田は、青白い顔で画面を見つめていた。
「……僕のせいで、会社の名前まで。これじゃあ、明日からの業務どころか、マルトク全体が……」
「気にするなと言っても無理だろうが、これはお前の責任じゃない」
月影は端末を叩き、臼井へ連絡を入れる。
「臼井、例の動画の解析は?」
『終わったわ。画角から見て、軽部昭代のスマホで間違いない。それと、投稿のIPアドレス……一部が、本社のIPと一致した。佐伯部長の息がかかった人間が、社内から拡散をバックアップしてる』
臼井の声は怒りに震えていた。
組織を「浄化」するためなら、自社の看板に泥を塗ることさえ厭わない。佐伯紗江の狂気が、昭代という暴走する歯車を利用して、村田と月影を完全に社会から抹殺しようとしていた。
「自治体からも、正式な抗議の電話が入ったわ。明日の朝、役員会は『緊急不祥事対策委員会』に切り替わる。佐伯部長が議長を務めるそうよ」
月影は静かに立ち上がった。
外は、不気味なほど静まり返った夜明け前。
「追い詰められたのは俺たちじゃない。……化けの皮が剥がれ始めたのは、向こうだ」
捏造という安易な劇薬に手を染めた昭代と佐伯。その「やりすぎた一手」こそが、月影たちが反撃に転じるための唯一の突破口になろうとしていた。




