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【溺愛プラン】オプションどうします?(完結保証☆)  作者: 田中葵
第5部 ヒトらしく生きるって?
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「次は“最後”になる」月影がマネージャーを通じて村田に“再び警告”する日

 村田は、

 デスクに置かれた短いメモを見て眉をひそめた。


 《至急。月影氏と臼井マネージャーより。応接室3》

 ――またか。しかも臼井さんまで……と、胸の奥で小さくつぶやいた。


 軽部トシ子の件で通称THEロマンスグレー・月影真佐男氏からこっぴどく絞られてから、まだ二ヶ月も経っていない。

 あの時の月影の声の冷たさは、いまでも背中に残っている。


 応接室3の扉の前に立つと、妙に静かだった。

 ノックして入ると、月影と臼井マネージャーは既に座っていた。

 月影氏は、革張りの応接椅子にゆったりと腰を下ろしている。

 対して臼井マネは、いつになくカリカリしている激情を隠さない。書類一式を閉じ、こちらに視線を向ける。その目に、怒りよりも“確信”のようなものが宿っているのを村田は感じた。


「座って」

 臼井マネの声は静かで、しかし逃がす余地がなかった。


 村田は姿勢を正し、深呼吸をひとつ。

「今回の件……何か誤解が」

 言いかけた瞬間、臼井の眼差しが鋭く細くなり、

 月影は穏やかな表情のまま、目を伏せる。


 臼井は続けて、

「誤解じゃないわ。あなた、また境界線を越えたでしょう?」


 心臓がひどく嫌な跳ね方をする。

 軽部トシ子のときと違う。

 あの時は“誤った気遣い”を盾に言い訳ができた。

 だが今回は、月影と臼井に何を知られているのか、村田にはまるで分からなかった。


「……どこまで、聞かれていますか」

 自分の声が震えているのが分かる。


 臼井は、机上に置いた一枚の紙を指先で押した。

 それは、社内チャットのログのプリントアウト。

 件名:《営業支援オプションの“裏技”共有》。


 村田の胃がきゅっと縮む。

 あの軽い気持ちでの“悪ノリ”が、ここまで来るとは。


 臼井は淡々と続ける。

「あなたが誰と何を共有しても、私はいちいち干渉しない。

 けれどね――その内容が、顧客の誤解を招く可能性があるものなら話は別よ。

 今回は『溺愛プランの“特別扱い”を誘発できる』なんて書いていたわね?」


「……冗談のつもりでした。深刻に受け取られるとは……」


「冗談で済ませる感覚を持ってること自体が問題なの」

 臼井の声は低く、しかし淡々と刺さる。

「あなたが送った“たった一言”が、

 誰かを勘違いさせ、誰かを欲しがらせ、誰かを怒らせる。

 そういう部署にいることを、忘れないで」


 村田は拳を膝の上で握った。

 反論できる言葉などどこにもない。

 月影の眉と目元が少しだけ、険しく村田を問いつめる。

 拳の内側が、じわっと汗ばみはじめる。


 臼井は続ける。

「もう一度だけ言うわ――これは、警告よ。あなたにとっても、チームにとっても」


 沈黙が落ちる。

 しかしその沈黙の中に、村田は以前とは違う“含み”を感じた。

 月影は平常心のまま横目で臼井マネを見、

 その目線を村田に移す。


 臼井は書類を閉じながら、ゆっくりと言葉を足す。

「……そして、これは“再び”という言葉で終わらせるつもりはないの」


「……え?」


「つまり――次は“最後”になる。そう伝えておくわ」


 村田の喉がつまる。

 臼井がここまで言うのは、本当に限界が近いという証拠だ。


 しかし、その一方で村田は気づいていた。

 臼井マネの目の奥には、怒りだけでなく、別の何か――“差し迫った別件”への警戒も宿っている。

 月影も、ゆっくりと頷く。


(もしかして、俺だけの問題じゃない?)


 村田の胸に、

 予感とも不安ともつかない影が伸びていった。


「戻りなさい。まだ私は“詳しく”は言わない。でも、そのうち分かるわよ」


 臼井マネが視線を外した瞬間、

 村田は小さく頭を下げ、応接室を出た。

 扉を閉めると、廊下の温度がやけに低く感じた。


 半年ぶりの“月影経由での臼井からの警告”。

 だが今回は、明らかに何かが違う。

 まるで、まだ見ぬ大きな波の手前に立っているような――

 そんな感覚だけが残った。


 と思った次の瞬間、

 村田を追う足音が聞こえた。

 まもなくそれが止まり、


「村田、死ぬなよ」


 月影の、ぬくもりのある声だった。

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