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【溺愛プラン】オプションどうします?  作者: 田中葵
第5部 ヒトらしく生きるって?
123/131

「……こんな、ことに……」月影が村田に“再び警告”する日①

③ 接続パート


(※前話の続き:月影が佐伯紗江の会議室を出た直後)


 階段室の影に入った瞬間、月影の端末が震えた。


〈臼井:至急。港区顧客センター前で“夜間の異常アクセス”〉

〈臼井:村田関連。詳細は対面で〉


 月影は一瞬だけ目を閉じ、端末をスリープにした。


(……もう動き始めたか)


 廊下の非常灯の光が、月影の横顔を細く切り取る。


 軽部トシ子の抗議書。

 “村田ロス集会”の連鎖。

 佐伯の指示。

 臼井からの連絡。


 すべてが、ひとつの一点──村田孝好に、収束しつつあった。


(月田……お前は、もはや放っておけない)


 月影は踵を返した。


 向かう先はただ一つ。  “現場”だ。





④ 本編


「月影が村田に“再び警告”する日」


 港区顧客センター・夜。


 人払いされたフロアには明かりが一つだけ。

 その下で、村田孝好がパソコンの前に座っていた。


 背中が、いつもより丸い。


 月影は静かに入ってきた。


 村田は振り返り──すぐに、姿勢を正した。


「……主任」


「村田。状況は?」


 村田は端末を回転させる。

 画面には、顧客ログの連続アクセス。


・“深夜3時に45回の連続呼び出し”

・“家のドアの前からの位置情報”

・“送信者不明メッセージ:むらた君、帰ってきて”


「……少し、“変な動き”があります」


 少し──と村田は言ったが、月影は読み切っていた。

 これは“村田ロス症状”の亜種だ。


 副次的な依存、感情劣化、判断力の空洞化。

 顧客が村田の“退場”を受け入れられない状態。


 月影の喉がわずかに動いた。


(……紗江の言う通り、この男は無自覚なインフラになりつつある)


「村田」


 月影は一歩近付いた。


「お前は今──危険地帯に入っている」


 村田の顔が強張る。


「危険、というのは……」


「“別件だ”」


 村田の呼吸が止まった。


 月影は低い声で続ける。


「今日、佐伯から指示が下りた。

 お前の現場裁量は全て、俺が直接見ることになる」


 村田はすぐに反応しない。

 ただ、瞬きが増えた。動揺のサインだ。


「……僕が、何かしましたか」


「した。

 “無自覚に顧客の生活動線に入り込みすぎた”」


 村田の眉が下がり、唇が固く閉じる。


 月影は視線を鋭く向けた。


「村田。

 お前は、善良なだけで済む立場じゃない」


 フロアの空気が張り詰める。


「現場判断で人を救う。その積み重ねが、

 “顧客の生きる理由”になりつつあるんだ」


 村田は黙って聞いている。

 それが余計に、月影を焦らせた。


「これ以上、お前自身が潰れる前に──」


 言葉が途切れる。


 月影としては異例の沈黙。


(……佐伯に“情がある”と見抜かれた影響か?

 違う。これは──)


 月影は、わずかに目を伏せた。


「村田。

 お前が死ぬような働き方をしたら……」


 言いかけ、喉奥で止める。


 村田は気付く。


「主任。

 “死ぬ”って……」


「言葉の綾だ」


 しかし、声は揺れていた。


(本当は綾じゃない。

 お前は線の細さに反して、ギリギリまで踏み込むタイプだ。

 止めないと、死ぬ)


 月影は端末を操作し、ある画面を表示した。


〈軽部トシ子:むらたのおにいちゃんを返して〉

〈生活破綻ログ:6名〉

〈情緒崩壊:8名〉

〈“村田ロス集会”第二回 日程案〉


 村田の目がゆっくりと見開かれた。


「……こんな、ことに……」


「お前を“必要以上に必要とする者”が増えている。

 それが“別件”だ」


 村田は喉を詰まらせ、言葉を失った。


 月影は最後の一言を落とす。


「村田。

 お前は今──企業圧力でも顧客依存でもなく、

 “人間の歪み”の中心にいる」


 沈黙。


「これ以上、独断で動くな。

 俺の指示なしに現場へ入るな。

 ……分かったな」


 村田は息をのみ、ぎこちなく頷いた。


「……はい」


 その表情には、初めての“恐れ”があった。


 月影はそれを見逃さず、


(間に合う……か? この男は)


と心の底で呟き、踵を返した。


 照明に照らされた村田の姿は、

 まるで“追い詰められた灯火”のように見えた。

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