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異世界転生農家  作者: 今無ヅイ
農家漂着編
3/46

不可思議な土

目を覚ましてから三日が経った。

どうやら、ここは「レイト村」という農村らしい。人口は三百人ほど。見渡す限りの畑に、黄金色の小麦が揺れている。

この世界では「アーネンエルベ帝国」という国の東端に位置する村だと、村長さんが教えてくれた。


ありがたいことに、この世界の言葉はなぜか理解できる。

“海外から旅をしている途中、事故に遭い、記憶を失った”――そう説明したら、みんな妙に納得してくれた。

村長さんなんて、「命があるだけで幸運だ」と笑って、食事と寝床まで世話してくれている。

見ず知らずの人間にここまで親切にできるのは、きっと良い土地柄なんだろう。


食事は麦粥と干し肉、それに野菜の煮込み。素朴だが滋味がある。

味噌も醤油もないが、どこか懐かしい匂いがした。

……いや、そう感じるのは、俺が農家だからかもしれない。


村人たちは朝早くから畑に出る。

子どもも、女も、老人も。みんなが働いていた。

空気が乾いていて、風は少し冷たい。標高が高いのだろうか。


けれど、どうにも気になることがある。

この畑――見たところ、土が痩せている。


踏みしめた足の感触が軽い。保水力がなく、表層が固い。

連作障害のような、そんな嫌な予感がする。

表面だけ見ても、麦の根が浅い。麦穂の背丈はまばらで、色も悪い。


……それだけじゃない。


俺の目には、土の中の“何か”が見えていた。

地表をなでるようにして広がる、淡い光の筋。

緑や青、時に赤みを帯びた粒子のようなものが、土の層に絡みついている。


「栄養……?いや、これは……」


思わず目をこする。

だが、消えない。まるで地中の情報が、そのまま色になって浮かび上がっているみたいだ。

ここは酸性寄りだ。リンが少ない。

何より――微生物の“気配”が薄い。命が眠っている土だ。


そんなはずはない。


俺は専門家でもなければ、魔法使いでもない。

だが、わかる。見える。


「……なんで、土壌の栄養状態が“見える”んだ?」


目を閉じて、深く息を吸う。

土の匂い、風の流れ、陽の光――どれも現実だ。

なのに、視界の奥ではいまだに光が揺らめいている。


まるで、土そのものが俺に語りかけているように。

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