56 天空牢〜ゴルゴン〜
転生者、21歳、男
前世の死因、病死
初夏なのに雪が溶け切っていない山の頂にある村、そこに俺達三人の冒険者パーティは足を運んでいた。
「何ようか」
門番の槍を持った女性二人が俺達に睨みを利かせながら尋ねてきた。
槍よりも胸よりも背中から見える灰色の翼に目が行き、改めて天人なんだと認識する。
「天空の牢獄に連れてってもらいたくて訪ねさせてもらったんだけど」
雲よりも高い位置に存在するダンジョンに行くには空を飛べる召喚獣等が必要なんだが、俺と一人は魔法使い、もう一人は女剣士なので誰も召喚獣と契約していないので、そこへ行く為に彼女等天人の力が必要なのだ。
「なんだそういう事だべか」
「お客さんかいな、はよ言ってほしかったっぺよ」
「あ、あ~…」
見た目とは裏腹に口調がかっぺそのもので驚いた。
「それで幾らかかるかな?」
「三人で15万だべ」
高い、思ったよりも高過ぎる…俺は仲間二人にアイコンタクトを送ると、二人は頷き返したので金貨二枚を取り出した。
「お釣りはあるかな」
「ちょい待っとくれ…ほら釣りだべさ」
小金貨一枚を受け取り、別の天人が乗り場へと案内してくれている途中で仲間が小言を呟いてくる。
「貴方さっき門番の胸見てたわよね?これだから男子は!そんなに見たかったら私の見なさい」
「…」
「ちょっと聞いてるの!?」
口調は女なんだけど…青髭の生えたガタイの良い魔法使い、れっきとした男だ。
「お前の見たってしょうがないだろ」
「なんでそんな酷い事言うの!?信じらんないわ」
「悪かったって!ってか別に見てねぇし」
「嘘よ、鼻の下伸びてたもの」
「…なぁ、なんとか言ってやってくれよ」
女剣士に助けを求めたんだけど…
「知りませんよ。ご自分で収めて下さい」
っとあいも変わらず冷たい物言いをされた。
その後もあーだこーだと言われながら籠に乗って目的地へ搬送してもらい、時間を決めて迎えもお願いした。
小さい浮島に扉がポツンと一つあるだけだが、扉を開けると草木が生えていない山の麓に繋がっており、螺旋状の山道をひたすら登るだけの道のりだ。
此処は異質で、他のダンジョンと異なり階層もボス部屋も存在しない。じゃあ此処のボス部屋はと疑問に思ってたけど前に女剣士が教えてくれた。
「ボス達とはいつエンカウントしてもおかしくない」と。
このダンジョン内を徘徊しているらしい…なんとはた迷惑なボスだ。
ただし、頂上付近の話なのであまり登らなきゃ鉢合わすこともないらしい。
「じゃあ目標の物を入手してさっさと帰ろう」
「そうね、ボスになんて会いたくないもの」
「私も殺り合いたくないので早く済ませましょう」
「目的の魔物がさっさと現れてくれたら良いんだけどな」
此処の全魔物がランダムエンカウントなので目的としてる魔物と会うのも運次第…15万も払ったんだから稼がないとってさっそくお出ましか。
狙っているのとは違うけど早々に『輪廻竜』がお出ましだ。
尾の先端にも頭を持つ小さい竜種だが、見かけによらず強力な闇魔法を使ってくる。
「ここは私が」
女剣士が率先して前に出て、放たれた闇の弾
を大剣で弾き返しそのまま輪廻竜の懐に一突き、で初戦闘は終わった。
けどそこからが目まぐるしく、輪廻竜の群れに襲われたり『グリロス』っていう巨大な目玉に翼が付いた化け物が休む暇なく何処からともなく現れて光魔法を打ち込んでくるもんだから中腹に着く頃には三人ともヘトヘトだ。
「ちょっと休憩しようか」
「「賛成〜」」
「ドロップアイテムは取りこぼしてないよな」
「もちろんよ、竜の毒牙も光石も全部拾ったわ」
「でも『アンゲロス』に出会いませんね」
「ほんとよねぇ…もう中程まで来てるのに。んもぉ、腹立つわ」
そうなんだよなぁ、俺達の目的はアンゲロスのドロップ品である聖鉱石なんだよ。
古代兵器の動力源に欠かせない鉱石なんだけど、地上では殆ど採れなくなったのが原因で発展していた頃の文明に戻れないらしく、それでも古代兵器は動き続けているから売れば高値で買い取ってもらえる…んだけど居ない!いくらランダムだからって居な過ぎだろ!
そりゃあ毒牙も光石もそこそこで売れるけどさ、こんだけあっても元取れないんだよ。
「もう少し登るしかないな」
「そうですね」
「でもアイツ等に遭遇する前に帰りたいわ」
「まぁ、これで出なかったら引き返して麓付近で出るまで待とうぜ」
だがその判断がミスを招く。
「懸念していた事が起こりましたね…」
「なんで…まだ中腹だろ!なんでコイツ等が居るんだよ!」
天空の牢獄に閉じ込められているボス『ステンノー』『エウリュアレ』『メデューサ』のゴルゴン三姉妹と遭遇してしまった。
「覚悟を決めるしかないわね」
「あぁ、殺らなきゃ殺られるからな」
「振り当てはどうします?」
「ステンノーを頼む。他は俺達で何とかする」
「わかりました。ご武運を」
女剣士はターゲットである二刀流のステンノーへ接近して行き、エウリュアレとメデューサに魔法を撃たせまいと俺達は土魔法と炎魔法で牽制する。
飛び交う魔法の真ん中で二人は剣を交えて互角の勝負をしている。
「私達も負けてられないわよ」
「早々に一体は屠りたいもんだな」
だが全ては拮抗していた。
エウリュアレの光の弾『クラルスペイル』、メデューサの暴風の槍『ヴォルテックスランス』を仲間の魔法障壁『マギアヴァント』で受け止め、反撃に俺が砂の大海『ザントラメール』で二体を押し流したが、地を這って来た稲妻『セルピエンブリッツ』を貰ってしまって土魔法が中断させられた。
「チッ!メデューサか」
「大丈夫!?次が来るわよ!」
「休む暇も無しか」
「全くよ!『プロミネンスディーネ』!」
飛んできたクラルスペイルに仲間が炎蛇プロミネンスディーネをぶつけて相殺させると、
メデューサは大竜巻『ディオゼピュロス』を放ち、中央で戦っていた二人は巻き込まれまいと崖っぷちへ移動し俺達の戦場から遠退く…のは良いけどアレを止められるのか。
「俺の後ろに隠れろ!耐えてくれよ『フェルゼンベルク』!!」
前方に岩山をそびえ立たたせて大嵐を防ぎきり、仲間は此処ぞとばかりに最上級魔法の炎の槍『アースカタストロフィ』を撃って反撃に出る。
当たれば終わる、などと考えなければ良かった…エウリュアレの反射魔法『ルスモノリス』によって弾き返され、魔法障壁を張って受け止めていた所に内側から虹色の爆発魔法『プルウィウスミストラル』を起爆させられ倒れ込んだ俺達。
「こ、れは…手痛い…な」
「まだよ…これしき、なんなのって感じよ」
「…頼もしいな」
「でも、もう無理かしらね、アレは」
破壊光線『フォトンシュトラーム』が俺達に向かってくるのが目に入ってしまい、終わりを感じていると。
「貴方達だけでも逃げて。楽しかったわよ」
「な…なにを…」
走りだした仲間は魔力暴走による大爆発魔法『ブレイズノヴァ』を唱えてその身を犠牲に破壊光線を打ち消した。
「なん…で…こんな…バカな…事…を」
直後に聞こえたバキンッと言う音の方へ目をやると、大剣が女剣士の腕ごと宙を舞い、まばたきを待たない次の瞬間には胸元に二本の剣が刺さり崖下へ落ちて行く女剣士。
「あ…いつが…敗けた…」
指折りの剣士であるアイツがたった一体の魔物に敗けるなんて…この世も不条理だと言う事か。
俺は最後の力を振り絞り立ち上がった。
「お前等全員…俺が相手してやるよ…全て潰れてしまえ『ペドールアヴァランチ』」
コレが俺の切り札、岩なだれの土魔法だ。
山の斜面から転がり落ちる無数の大岩、全員潰れてしまえ…………なんだ、コレは。
転がってくる岩が斜面で止まった…俺も、動けない…まさか。
唯一動く目がメデューサを捉えた。
やはりアイツか、アイツが時間を止めやがったのか、クソが。
俺の人生はメデューサが雷で顕現させた模造神『トールエッジ』の拳によって幕を閉じる事になった。
「一時間過ぎたっぺ」
「結局あの子等は戻って来なかったべな」
「…帰んべよ」
『輪廻竜』
討伐レベルB
速力B 攻撃力B+ 体力C
全長二メーター、アンフィスバエナとも呼ばれ、身体の両端に頭を持つ黒色の西竜、中級種。
小さいが強力な闇魔法を使用し、牙と爪に毒を持つ。
ドロップ品は手のひらサイズの毒牙。
『グリロス』
討伐レベルC
速力C 攻撃力C 体力C
全長三メーター、目玉に翼が生えた天使の使い魔。
光魔法を使うが、一端の冒険者ならまず敗けない。
ドロップ品は光石。
『アンゲロス』
討伐レベルB
速力B+ 攻撃力B 体力B
人型の翼を持つ所謂天使。女型男型と存在する旧世代の天使で階級は最下位。
様々な武器を使用する。
ドロップ品は聖鉱石で、現在ではダンジョンのドロップ品でしか殆ど手に入らない。
『ゴルゴン三姉妹』
討伐レベルS(三体セット)
速力B(ステンノーだけS)攻撃力S(三体) 体力A
二刀流のステンノー、光魔法使いのエウリュアレ、風魔法使いのメデューサの三人姉妹で天空の牢獄でボスとして徘徊している。
神の子であった三姉妹だが、容姿から他の神等に不遇な扱いを受け、挙句に反逆を企てていると密告を受けた最高神の命によって出向いた英雄神と対峙する事となる。
だが、メデューサ以外の二体は不死の力を宿す為、英雄神によって三体共牢獄へ封じ込められた。
また、メデューサは固有魔法『クロノスレール』を使用し時間を停止出来る。
ドロップ品は不明。
『天人』
人族にはアンヘルと呼ばれている灰色の翼を持つ種族。
山の頂で暮らし、男女共に銀髪で美形揃いだが世情には疎く、言葉も訛りが強い。
旧天使に似ているが全くの別物であり、翼が生えている以外並人と変わらない。




