舌打ち
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
会社の駐車場には、限りがある。車通勤をしている社員の数から計算すると、まったく足りない。だから会社は、会社の近くにある月極駐車場を借りて、不足分を補っている。
通勤用の車を止めるには、月額二千円ほど会社に納めなければならない。会社付近にある月極駐車場の、1台あたりの月額相場は、五千円から七千円だ。差額分を会社が持っている。年度初めに、車通勤者全員でくじ引きを行い、駐車場を割り当てている。
川島は、車通勤者だが、現場を転々としている為、会社の駐車場を割り当てられていない。会社には、たまにしか行かないから、いつも来客用に止めている。
しかし、部長から、その日は、会議で来客が多いから、コインパーキングにでも、とめてくれないか、と、前もって聞いていた。
川島は、会社の近くのパーキングを検索して、ちょっと歩くけど、安いところを見つけていた。
安くて人気なのか、早朝にも関わらず、7台のうち、5台は埋まっていた。空いているスペースの1台は、軽専用だから、川島にとって空いているのは、実質、1台だ。危なかった。そのスペースへ止める為に、非常に邪魔な車がいた。軽専用に、ワンボックスが止まっていて、軌跡上、とても邪魔だった。舌打ちをした。
空いている軽の方が、止めやすいが、そういうわけにもいかない。コンパクトカーだから、軽のところでもサイズ的に問題ないが、軽とある。軽・小型や小型ではなく、軽専用だ。川島の性格上、とめられない。
なんとか車を止めて、鍵を閉めた。
そこから、会社まで、歩いて5分から10分。
ひとり、歩道を歩いていると、向こうから、団体がやってきているのが見えた。
団体も、こちらに気づいて、道幅に対し、少し小さくまとまったから、こちらも合わせて、端に少し寄った。
しかし、団体のひとりが、進行方向を塞ぐように、広がってきた。
このまま進めば、当たる。
川島のスイッチが、入った。
避けたから、避けた。善意には、善意。
避けたのに、広げた。悪意には、悪意。
これ以上、こっちが避ける道理はない。ぶつかるつもりなら、ぶつかってやろう。
当たってなんぼだ、と向かっていった。
徐々に、距離は近づき、互いの制空権が重なった。
あ、これもう完全に当たるなあ。
歩幅も、速度も、何も変えない。そのまま突っ込んでいく。
当たる。
すれ違った瞬間、何の感触もなかった。当たらなかった。
「え?」
立ち止まる。
「ん?」
振り返って、立ち去っていく団体の後ろ姿を見る。
ひとり、足りない気がする。
「なるほど。」
これで、前を向いて、いたら、ぶん殴ってやろう。こぶしを握る。
そして、前を見る。いない。
「ちっ。」
今日は、舌打ちの多い日だ。
川島は、会社に向かってまた、歩き始めた。




