ふたりの加藤
この作品は、フィクションです。作品に登場する人物名・団体名・その他名称などは架空であり、実在する人物・団体・その他名称などとは一切関係ありません。
五輪建設の営業部は、閑職である。
近年、コンプライアンス的に独占はどうなの、という話も、噴出している。しかし、グループ発注工事の特殊性から、五輪建設への随契が多い。これが、つまり、五輪建設が馴染んだ、ということでもある。外注できていたのも、法律の縛りの緩いころの、えいやー、という時代性が手伝っていた部分も多々あった。五輪建設の設立は、機運がよかった。グループ発注工事には、絶対的に必要な資格がある。その資格には有効期限があり、グループの仕事をしていない業者は、更新を怠るようになった。結果的に、有資格者を多数抱える五輪建設が、有利になる。ゆっくりと時間をかけて、その優位性を高くして行った。
ほぼ自動的に、仕事を頂戴しているようなものだから、営業部不要論が冗談で出る。
しかし、体裁上は必要だし、ある程度、営業部としての機能を、果たさなければならない。
だから、営業部は、少数精鋭なのだ。
営業部長の下には、契約業務の為、事務屋が2、3人程度。いわゆる、営業の人間、と呼ばれる社員は、その時の営業部長の方針で、いたりいなかったり。いても、事務と兼任している。
部長には、親会社から、グループ内で、顔の広いえらもんさんが天下ってくる。最近では、JV絡みで、建設業協会にも顔のきく、というのも重要になってきているらしい。
営業慣れしているのは、営業部長くらいで、後が事務屋さんだから、電話対応も、営業的ではない。
営業部長が、一手に営業的な仕事を引き受けているようなものだが、前述の通り、閑職であるから、そもそもの仕事量は少ないし、もともとの立場は、発注者だから、お殿様商売なので、わかりやすく営業然としているわけではない。しかし、あちこちに顔を出しに行くのが仕事のようなものなので、不在が多い。
五輪建設の営業部にいつもいるのは、事務屋のふたりだ。必然的に、電話番も、そのふたりになる。そして、ふたりとも加藤という。
ギリシア神話に登場する、英雄に、大アイアースという男がいる。同じく、小アイアースという英雄もいる。この大小の差はなんなのだ、と調べたことがある。
同名の英雄を区別する為、小柄の方を、小アイアース。だからもうひとりのアイアースを大アイアースと呼んだ、という。結果的には、お笑いコンビを、背の高低で覚えるようなものだった。
ダブル加藤は、明確な背の高低差がない。だから、こう分けられている。メガネをかけている方の加藤と、かけていない方の加藤に。
メガネをかけている方の加藤が、その電話を受けた。
まずは、代表電話に、電話がかかってきた。五輪建設の代表電話は、総務部に繋がる。
電話の主は、石田と名乗り、さして要件を伝えず、営業に繋いでほしい、と言ってきた。総務部は、別段、不審には感じなかったので、そのまま営業部のメガネをかけている方の加藤に、電話を繋いだ。
「はい、営業部です。」




